FFホットハッチの巨人、シビック・タイプR
執筆:Richard Lane(リチャード・レーン)
【画像】FFホットハッチ比較 シビック・タイプR BMW 128ti ゴルフGTI クラブスポーツ45 全112枚
撮影:Luc Lacey(リュク・レーシー)
翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)
英国ホンダへ電話を掛けた。自動車ジャーナリストとして、いつものこと。3台の比較試乗に向けて、クルマを借りるお願いだった。
ホンダに限らず、比較試乗のような取材は広報側の議論を巻き起こす。内容に対するメリットとデメリットが天秤にかかる。比較するわけだから、勝敗が付けられる。勝つ見込みがなければ、クルマは貸し出さない方が良いかもしれない。
でも、難色を示されることはなかった。好奇心混じりに、「どんなクルマと?」。と聞かれた程度。「問題ないですよ。いつ必要ですか?」。その程度のやり取りで済んだ。
ホンダ・シビック・タイプRは、フロントドライブ・ホットハッチの圧倒的な勝者として、ここ数年君臨している。広報担当者であっても、比較相手を心配する必要はないのだろう。
2015年の登場以来、FK8型のホンダ・シビック・タイプRは、AUTOCARのグループテストをすべて勝利している。無敗なのだから、ホンダ側の自信もうなずける。
カテゴリー内でこれほどの強さを示したモデルは、ほかにポルシェ911 GT3と、過去のフォード・フィエスタSTくらい。ポルシェ・タイカンが登場する以前のテスラ・モデルSも圧倒的に強かったが、ほかには思い浮かばない。
シビック・タイプRが属するカテゴリーには、ライバルが非常に多い。ホンダの成し遂げた偉業は、ほかのモデルよりも称えるべきものだと思う。対戦相手は、無敗記録を今回で終わらせることができるのだろうか。興味深い。
BMW 128ti vs ゴルフGTI クラブスポーツ45
不足ない実用性と、吟味された人間工学が与えられたホンダ・シビック・タイプR。それでいて、見た目も走りも、ホットハッチの中では最も熱の入った位置に該当している。すべてのドライバーの方を向いているわけではない。
お借りしたモデル末期のシビック・タイプRは、通常より47kg軽量な、英国で20台限定のリミテッド・エディション。サンライト・イエローのみで、英国価格は3万8690ポンド(595万円)する。次期型が迫るFK8型として、最も研ぎ澄まされた仕様といえる。
対する2台は、新しいBMW 128tiと、8代目フォルクスワーゲン・ゴルフGTI クラブスポーツ45。最新のホットハッチは、ホンダのドライビング体験を超えたのだろうか。このカテゴリーで、有力な選択肢が登場したといえるのか。そんな内容を確かめたい。
3台が走るエリアは、英国南西部のサウス・ウェールズ。まずは、同僚のマット・プライヤーがシビック・タイプRをドライブする。5kgの軽量化のために、インフォテインメント・システムが付いていない。車内で聞こえるのは、クルマの放つノイズだけだ。
もう1人、ベン・サマーレルがドライブするのはBMW 128ti。筆者、リチャード・レーンはゴルフGTI クラブスポーツ45に乗って、3台の比較がスタートした。
昨年、筆者はドイツのアウトバーンで249km/hまで出して、量産化前の128tiを試乗している。パッシブダンパーのサスペンションも試した。英国の平滑ではない路面をいなし、フロントアクスルの機械式トルセンデフが、効果的に仕事をする。
フロントドライブのポルシェ911 GT3
128tiの英国価格は、3万3000ポンド(508万円)から。意外にも前輪駆動のBMWは、この3台で最も手頃なクルマとなっている。
ホンダについては、充分にご存知だろう。オーバスクエアで高回転を好むVTECエンジンを搭載し、フロントドライブ・ホットハッチのパワーユニットとして、1つの目標水準を築いた。
最高出力を比べると、ゴルフGTIが300ps/5000rpm、128tiが265ps/4750-6500rpmなのに対し、シビック・タイプRは320ps/6500rpmと、頭が1つ出ている。エンジンは、いずれも2.0Lの4気筒ターボだ。
タイプR リミテッド・エディションは車重も1番軽く、1358kg。セミスリックと呼びたいミシュランのカップ2タイヤを履き、ホイールはBBS社製の鍛造。見た目も1番派手だし、スペックも秀でている。だが、ホンダは単に速さを求めたクルマではない。
磨き込まれた操縦性と、深みすら感じる機械的な操作感。しばしば、フロントドライブのポルシェ911 GT3だと、われわれが表現する域にある。このリミテッド・エディションは、究極のベンチマークといえる。3台で唯一、MTを搭載してもいる。
フォルクスワーゲンが向き合う相手は、ホンダだけではない。45年の歴史を持つゴルフGTIにあって、BMWの128tiほど接近したライバルは過去にいなかった。
どちらのドイツ勢も、目指すのはドライバーを魅了すること。実用性の高さとプレミアムな質感を求めていながら、力強いパフォーマンスと一般道での速さも追求している。簡単ではない目標だ。
この続きは中編にて。
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向かう所敵無し負け知らずFF最速と言うのが誇らしい