モデルSの開発を率いた技術者がCEO
ニューヨーク・マンハッタン。道を挟むように、高層ビルが垂直に立ち並ぶ。ルーシッド・エアの運転席なら、少し上を仰ぎ見るだけで、ワンワールド・トレードビルが尖る様子を眺められる。フロントガラスが頭上まで伸びているから。
【画像】819psの素晴らしい処女作 ルーシッド・エア 競合クラスの電動サルーンと比較 全120枚
新興自動車メーカーのルーシッドは、これまでとは異なるクルマ作りを成し遂げようとしている。目指すところは、テスラより遥かに上のプレミアム・ブランド。ベントレーやメルセデス・ベンツ、アウディのライバルだという。
同社として初となる量産モデルが、電動サルーンのエアだ。AUTOCARでは2022年に生産初期の段階で1度試乗しているが、いよいよ工場はフル稼働状態に入ったらしい。昨年だけで7000台が、アリゾナ州の工場を旅立ったそうだ。
2023年には、1万2000台の生産が計画されている。今回ニューヨークで筆者が試乗した1台も、それに含まれる。
ルーシッド・グループは、電気自動車用バッテリーとモーターの製造メーカーとして、2007年にスタート。ジャガーやロータスで技術者を務め、テスラではモデルSの開発を率いたピーター・ローリンソン氏が加わり、自動車メーカーとしての歩みを始めた。
ローリンソンは2019年からルーシッド・モータースのCEOへ就任し、エアが完成するまでを見届けた。バッテリーEV(BEV)開発に対する難しさも、良く理解されている人物だといえる。
ワイド&ローで他に例がない素材感
2022年にエアを試乗した時は、斬新なスタイリングやインテリアに見とれ、圧倒的な動力性能に驚いた。優れたBEVに仕上がるであろうことは予想できた。
ソフトウエアにはバグが残り、シャシー特性は充分に煮詰められていなかった。製造品質の改善もこれからといえたが、新しい自動車メーカーが新しい工場で開発し、本格的な量産前だったことを考えれば、理解できる水準ではあった。
今回、マンハッタンで目の当たりにするエアは、以前より遥かに丁寧に作られている。ポルシェやフェラーリが珍しくない街ながら、注目度はかなり高い。
実際、存在感は他に例がないといっていい。写真では大きく見えると思うが、全長4976mm、全幅1939mm、全高1410mmと、長さはBMW 5シリーズとほぼ同じ。派手なデザイン的処理はないものの、ワイド&ローで、SF映画の乗り物のように見える。
ニューヨーカーらしく感想を述べるなら、クール。衝撃を与えるほどではないにしろ、滑らかなフォルムが通行人を振り返させる。すぐには古びることもないだろう。
エアの土台をなすのは、アルミニウム製でスケートボード構造を持つ、ルーシッドが開発したBEV用アーキテクチャ。乗員空間を最大化するため、パワートレインの仕様やレイアウトは考え抜かれている。
駆動用モーターは前後に1基づつ載るが、トランスミッションとデフ、インバーターがモーターと一体になっていることが特徴。システム総合での最高出力は、試乗車のエア・グランドツーリングで819ps。最大トルクは122.1kg-mもある。
エア・パフォーマンスなら1050ps
車重は2360kgと軽くないものの、0-100km/h加速を3.0秒でこなす俊足を得ている。もしこれで満足できない場合、エア・パフォーマンスも選べる。こちらには1050psが与えられ、0-100km/h加速を2.6秒に縮める。
容量が112kWhと大きい駆動用バッテリーも、自社開発。航続距離は北米規格のEPA値で、最長830kmがうたわれる。急速充電能力は最大300kWと超高速。もし充分な急速充電器を見つけられれば、21分で480kmぶんの電気を蓄えられるという。
滑らかで空力特性に配慮されたスタイリングも、エネルギー効率を最大化し、航続距離を伸ばすことに貢献している。コンパクトなコンポーネントによって、全高は競合モデルより40mm前後低い。
空気抵抗を示すCd値は0.20と、サイズを考えると驚くほど小さい。デザイナーのデレク・ジェンキンス氏は、「あらゆるものを削り、最小化しました」。と話す。ヘッドライトの高さは27mmしかない。
今日はマンハッタンを抜け、ニューヨーク州北部の自然を目指そうと考えている。「ダウンタウンへは行かないんですね?」。と、ルーシッドの担当者が尋ねる。
もちろん立ち寄りたい、と答える。「渋滞はまだ酷くないようです。彼はあと数時間、予定がないようですね」。誰かと確認すると、ドナルド・トランプ前大統領のことだった。奇しくもニューヨーク群裁判所へ出廷する、その日だった。
彼が動くと道路が閉鎖され、交通は混乱をきたす。確かに、今のところ交通量は少ないようだ。
職人技を感じさせるディティール
エアのインテリアは、ボディのスタイリングと同様にフレッシュな雰囲気に溢れている。職人技を感じさせるディティールと、先進的なテクノロジーが融合している。
ナッパレザーにアルパカウール、アルカンターラ、カーボンオークといった上質な素材がふんだんに用いられ、知覚品質は唸るほど高い。内装パネルのギャップもほぼない。
フロントシート側とリアシート側で、内装の配色が異なることも好印象。前席はスポーティなダーク基調で、後席はブラウン中心で、明るくラグジュアリーに仕立てられている。コンセプトカーのようで、絶妙な統一感もある。素晴らしいデザインだ。
大きな1面のタッチモニターへ車載機能のインターフェースを集約するのがテスラだが、エアのダッシュボード上にはカーブを描く扇型の32インチ・モニターが据えられている。左側がドライバー用、右側がインフォテインメント・システム用に別れている。
センターコンソール部分にも、エアコンなどの操作用にタッチモニターが用意され、上部のモニターと連動する。グラフィックは5Kで超高精細。メニュー構造などの設計は高水準で、スムーズに扱えると感じた。
エアコンには、実際に押せるハードボタンも残されているのがうれしい。アップル・カープレイの動作は、少し安定しなかった。
この続きは後編にて。
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みんなのコメント
テスラの経験した量産地獄を無事クリアしてほしいものです。
いくつもの会社がこの段階で苦労して、体力と実力のない会社は消滅しています。