レクサスLMが話題を集めた上海自動車ショーだが、その陰で衝撃的なコンパクトEVがデビューしていた。その名はBYDシーガル。30kWのバッテリーを積み、なんと価格が145万円というのだ。こいつが上陸したら、日本車は太刀打ちできるのか? 会場でクルマを間近に見たジャーナリストがその破壊力を語る!
文/佐藤耕一、写真/佐藤耕一、BYD、
日本車は追いつけるのか? 145万円のEV「BYDシーガル」を間近で見たらものすごい破壊力だった!
■派手な演出もなくポツンと置かれた「小さな巨人」
2023年4月の上海モーターショーで業界関係者の注目を集めていたBYD シーガル
4月に開催された上海モーターショーでは、華やかなニューモデルやコンセプトカーが大々的に発表された。そんな派手さを避けるかのように、展示フロアの平場の一角に1台の1台のコンパクトカーが展示されている。しかしこれこそがBYDの誇る小さな巨人、「シーガル」(海鴎=カモメの意味)なのだ。
派手なお披露目イベントこそなかったものの、シーガルの展示スペースは、業界関係者と思しき外国人が常に取り囲み、細かいところまで舐めるようにチェックしていた。このクルマが普通ではないことを物語る光景だ。
ではなぜ、シーガルはこのように注目を集めたのか。それには3つの理由があるように思う。それぞれ具体的に説明していこう。
■その1:コンパクトながら大人4人がしっかり座れるパッケージ
BYD シーガル インテリア。大人4人がゆったり座れるパッケージを実現している
EVのパッケージを考える際に最も難しい問題は、フロアが高くなってしまうことだ。バッテリーを床下に敷き詰めるため、どうしてもフロアが高くなってしまう。
フロアが高くなると、フロアから座面までの高さが十分でなくなる。そうなると何が起こるかと言うと、太ももの裏側が座面から浮いてしまい、体重がうまくシートに分散されずに疲れやすくなったり、シートのホールドが甘くなり、身体の揺れが収まりにくくなる。これが疲労につながるのだ。
ではどうするか。ルーフを高くして車室高を確保するか、シートバックを寝かせて、後傾ぎみの乗車姿勢にするか、だろう。しかしこれはいずれも、ボディを大きくする方向の対策だ。それゆえに、コンパクトなEVのパッケージングは難しい。
ところがこのシーガルに実際に乗り込んでみたところ、フロアが低いのだ。前席はもちろん、ごまかしの効かないリアシートのフロアも十分に低い。ニールームも十分で、前席との間隔もこぶし2つ分ほど確保されている。
そのため、乗車姿勢をアップライトに保つことができ、全長3780mmというコンパクトカーでありながら、大人4人がきちんと座れるパッケージを実現している。
全長3780mmは、トヨタヤリスより150mmほど、フィットより200mmほど短い。乗り込んでみる前は、リアは狭くてキビシイだろうと思っていたのだが、座ってみて驚いたというのが正直なところだ。
BYDは、ブレードバッテリーとe-Platform3.0 によって、天地の低いバッテリーケースを実現しており、ATTO3が日本導入された際にも、筆者はリアシートに座って、フロアの低さに感心した。同じ強みが、シーガルでも発揮されていた。
特に、BYDの「シール」以降の最新モデルでは、CTC技術(セル・トゥー・シャシ:バッテリーセルをシャシに内蔵する仕組み)が導入されており、バッテリーのボディへの実装の最適化がさらに進み、パッケージングに磨きをかけている。
EVのフロアが高い問題は、私のような外野が言うまでもなく、自動車メーカー自身がいちばん気にしている問題であろう。
筆者としても、個人的にこのテーマが気になっており、今回の上海モーターショーでは「フロアが低いメーカーはどこなのか?」をテーマとして臨んだ。
多くのメーカーの最新モデルに、実際に座ってみて試したのだが、結論として、BYDの新しいモデル(海洋シリーズ以降)が、他社を一歩リードしていると感じた。
次点として、長安汽車系の深藍SL03やAITO M5 EVもフロアが低く、リアシートにも気持ちよく座れたが、いずれもコンパクトカーではない(モーターショーとは関係ないが、テスラモデルYのリアシートもとても快適だ)。
このようなパッケージを実現できるBYDの凄みに、日米欧韓の自動車メーカーは脅威を感じていることだろう。
■その2:航続距離405kmのEVでありながら150万円を切る価格
BYD シーガルのサイドビュー。ヤリスより一回り小さいサイズとなる
パッケージは抜群なシーガルだが、スペックはどうだろうか。
シーガルのディメンションは、全長3780mm×全幅1715mm ×全高1540mmで、ホイールベースは2500mm。ヤリスより一回り小さいサイズだ。
最大出力75kW/最大トルク135Nmで、バッテリーはBYDおなじみのLFP(リン酸鉄リチウムイオン電池)ブレードバッテリー。容量は30.08kWhと38.88kWhの2種類。
30~40kWの急速充電に対応するので、日本の高速道路に多い50kWの急速充電器であれば、30分の充電で約50%の充電を行うことができる。
噂されていたナトリウムイオン/リチウムイオンハイブリッドバッテリーの搭載は、今回は見送られたようだ。
航続距離は、CLTC 基準で305kmまたは405km。CLTCは中国の乗用車電費基準で、中国のWikiによるとおよそ8掛けでWLTP相当なので、244kmまたは324kmということになる。
現地価格は約145~175万円と発表されている。
■その3:BYD最大の脅威でもある量産能力
欧州市場への切り札となるポテンシャルを持つBYD シーガル
2022年度のEV販売で、BYDは約91万台を販売し、131万台を販売したテスラに次ぐ2番手となったが、一昨年から184%も台数を伸ばして急成長したことが、なんと言ってもサプライズだった。
2022年と言えば、バッテリーや半導体の調達でどの自動車メーカーも苦しんだ年だ。しかしBYDは、以前からバッテリーや半導体を内製しており、苦しむ他のメーカーを横目に販売台数を大いに伸ばした。
この“EVをたくさん作る生産能力”こそが、世界中の自動車メーカーを脅かしている点だ。
そのBYDが、戦略車種シーガルを発表し、中国国内だけでなく、世界的にこのシーガルを販売していくことになる。
BYDの今年の販売目標は300万台以上とされている。EVとPHEVをおよそ半分づつ作っているので、EVは約150万台になるだろう。2023年にEVを150万台も作れる自動車メーカーは、BYDのほかにはテスラだけだ。
日本ではサクラ/eKクロスEVという強力な軽EVが待ち構えており、苦戦するかもしれないが、かと言って製造元のNMKV(日産と三菱の合弁会社)は、世界に打って出るほどの生産能力はない。
BYDは、中国市場とともに、第二のEV市場である欧州市場を狙うだろう。欧州はアメリカとは違い、合理的なコンパクトカーが以前から好まれている市場だ。そしてEVの普及も急速に進んでいる。
シーガルは価格はもちろん、その合理性やスタイル、質感の高さなど、欧州市場の好みにぴったりマッチする気がしてならない。
シーガルは、欧州市場でBYDがブレークするきっかけになる、と感じさせるのに十分な実力がある。そしてそれは、日系メーカーのシェアが大いに脅かされることを意味する。
■はたして日本導入はあるのか?
日本に導入されることになれば、300万円を切る価格になると予想されるBYD シーガル
BYDは日本市場の攻略にも取り組んでいる。インポーターを設立し、全国に実店舗ディーラー網を100店舗以上整備することからも、本気度が分かるだろう。
シーガルが日本に導入されるかどうかは、正直、現時点では分からないが、もし導入されることになれば、300万円を切る価格になると予想しておこう。
根拠は、ATTO3が日本導入される際、装備の違いもあり単純には言えないのだが、ざっくり100万円上乗せになっており、シーガルが日本に導入される際は、175万円の上位グレードに100万円をプラスして、300万円を下回る価格になるだろうという予想だ。
筆者自身、上海モーターショーの会場でシーガルを取材しながら、BYDの実力を痛感し、これが日本に来たらかなり注目されるだろうなと、ワクワクすると同時に焦るような気持ちにもなった。
ふと隣を見ると、日本に導入されるドルフィンが置いてあった。
どうせなら試してみようと乗り込んでみたところ、BYDらしい低いフロアはそのままに、ボディが大きい分だけずっと広々としていて、快適なリアシートにゆったりと座りながら「自分が買うとしたら、もしかしてこっちかもな……」と感じたことを報告しておこう。
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みんなのコメント
既存の自動車メーカーとは異なった考え方でクルマを作ってる。
従来の化石燃料を使ったりハイブリッド車の置き換えではなくEVはまったく違うクルマという思想が必要か。
日本神話を未だに信じてる人以外は