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山田泰巨が案内! 村野藤吾や渡辺仁が手掛けた泊まれる名建築ホテル──特集:自分磨きの夏旅へ

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山田泰巨が案内! 村野藤吾や渡辺仁が手掛けた泊まれる名建築ホテル──特集:自分磨きの夏旅へ

昨今、大阪や京都をはじめ各地に外資系ホテルが数多く進出しているが、日本には戦前やバブル期など日本が豊かだった時代に建てられた有名建築家の設計したホテルが多く残っている。横浜や箱根、倉敷、福岡などにある、建築も堪能できるホテルをデザインに詳しい編集者の山田泰巨がピックアップ。旅行のついでにカルチャーも摂取しよう。

1.ホテルニューグランド×渡辺仁2.倉敷国際ホテル×浦辺鎮太郎3.ザ・プリンス 箱根芦ノ湖×村野藤吾4.ホテル イル・パラッツォ×アルド・ロッシ/内田繁1.ホテルニューグランド×渡辺仁(1927年)

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今回紹介する唯一のクラシックホテルが「ホテルニューグランド」だ。港町の横浜で、海外からの旅行者を迎える高級ホテルとして知られた「グランドホテル」が関東大震災で倒壊し、その礎を継ぐホテルとして誕生した。当時の最新設備を備えた建物を設計したのは、一年を掛けて世界を巡る旅から戻ったばかりの渡辺仁。和光として知られる「セイコーハウス銀座」、いまはなき「原美術館」の設計を担ったことでもよく知られている建築家だ。渡辺は様式を自在に操ったと評されるが、「ホテルニューグランド」では半円を描くアーチ窓、湾曲するコーナーなど、当時流行したアールデコの要素を取り入れている。

さまざまな文化が入り混じった2階ロビーは圧巻ロビーはあえて2階に配置した。当時は大きな窓から港に着く船を眺めることができたこともその理由のひとつだろう。エントランスからホテルの顔である大階段でロビーへ向かうと、その階段を覆う布目タイルに目がいく。階段の傾斜に沿うひし形タイルやコーナーに沿う湾曲型タイルなどの特殊な形にも驚くが、一枚一枚異なる色のタイルを組み合わせているのも圧巻だ。

「ニューグランド・ブルー」の絨毯が敷かれた大階段からロビーへと上りきると、左右で空間の表情が異なるのに気がつくだろう。東側は柱を石で覆う洋風に、西側はマホガニーが多用された和風となっている。よくよく見ると2階には、日本的なモチーフ、アジア的なモチーフ、西洋的なモチーフが入り混じり、世界中から人々が集うことを意識した作りであることがわかる。震災から復興を遂げたホテルだからこそ、“めでたいことが起こる兆し”を意味する鳳凰のモチーフも散見される。その名を冠したかつてのメインダイニングで今は宴会場となっている「フェニックスルーム」は、日本の伝統的な格天井などを取り入れた東洋芸術の粋を感じる空間。時代、地域を越えた文化が見事に癒合したのが「ホテルニューグランド」だ。

ホテルニューグランド神奈川県横浜市中区山下町10番地
045-681-1841
https://www.hotel-newgrand.co.jp/

2.倉敷国際ホテル×浦辺鎮太郎(1962年)

和洋の建築文化が入り混じった町並みを特徴とする倉敷美観地区。そのランドマークのひとつが「倉敷国際ホテル」だ。設計者の浦辺鎮太郎は倉敷絹織(現クラレ)で技師を務めながら、事務所を立ち上げた建築家。同じ倉敷を代表する大原美術館分館や倉敷アイビースクエアの設計でも知られる。京都帝国大学卒業後、浦辺は実業家の大原總一郎との出会いから倉敷絹織に入社。海外で見聞を広げた大原は、浦辺とともに街づくりに力を入れた。大原は「ホテルというものが、ウィークエンドハウスのように町と調和し、ひとつの文化財となってほしい」と願っていたという。

調度品のように愛され、時を経た空間の隅々に注目浦辺が目指したのは「時代性にこだわらない、風土性のある建築」だ。ホテルの東側に大原美術館本館、その先には伝統的な町並みが広がり、ホテルのある倉敷中央通りの反対側には、1960年に丹下健三の旧倉敷市庁舎が完成しており、ホテルが伝統的な町並みと丹下によるコンクリート建築を繋ぐ役割を果たしている。

鉄筋コンクリート造のホテルの外観は、庇のように重ねた浦辺特有の壁材「壁庇」を特徴としており、その壁庇が、白壁や倉敷の伝統的な建築様式を引用した腹巻瓦とボーダーを描く。ホテル内に足を踏み入れると、重厚感ある柱や梁の存在に圧倒される。中央の吹抜けには棟方志功最大の木版画作品「大世界の作〔坤〕―人類より神々へ―」が飾られ、民芸家具、照明器具、モザイクタイル、左官仕上げなど丁寧な手仕事を感じる空間が倉敷らしさを表現する。美しいツヤをもつ飴色になったロビーの床にから、このホテルがまるで調度品のように愛されてきた姿を見ることができるのだ。

倉敷国際ホテル岡山県倉敷市中央1丁目1−44
086-422-5141
https://www.kurashiki-kokusai-hotel.co.jp/

3.ザ・プリンス 箱根芦ノ湖×村野藤吾(1978年)

ホテルや旅館を数多く設計した建築家、村野藤吾。建築、内装、家具、照明、さらにはドアノブに至るまで徹底してデザインした村野だが、没後40年を超えたいま、オリジナルの状態で遺るホテルは数少ない。そのなかで、半世紀近く往時の姿を残すのが「ザ・プリンス 箱根芦ノ湖」だ。建物から庭へ出て、芦ノ湖へアプローチすると別世界のように静かな環境が広がり、振り返ると円形の愛らしい建物に気がつく。竣工時、村野は87歳。晩年を代表する作品のひとつではあるが、館内外のあまりにみずみずしいデザインに驚かされる。

森と湖に寄り添う工芸的に美しい空間ゲストをまず出迎えるのは、深く低い軒のエントランス。そこから客室へ続くロビーのデザインに驚かされる。エントランスとは打って変わって曲面を描く天井の高い空間に変わり、歩く人々の意識を高揚させる美しい回廊が続く。柱の間に置かれた椅子からは森や湖を眺めることができ、座るとロビーをより広く見渡せる。背もたれは通常の高さだが座面の低い椅子は村野がデザインした「スワンチェア」だ。

また村野は「千代田生命本社ビル(現・目黒区総合庁舎)」、「日生劇場」をはじめとする、美しい階段をデザインした名手としても知られる。ここにもやはり美しい階段があり、その繊細なディテールと優雅な手すりは見逃せない。村野はここで自然の地形を可能な限り活かし、木々を残した。自然と建築の融合を目指したホテルは、時を経てますます美しさを増している。

ザ・プリンス 箱根芦ノ湖神奈川県足柄下郡箱根町元箱根144
0460-83-1111
https://www.princehotels.co.jp/the_prince_hakone/

4.ホテル イル・パラッツォ×アルド・ロッシ/内田繁(1989年)

1989年、福岡に日本初のデザインホテル「ホテル イル・パラッツォ」がオープンした。ディレクションとインテリアデザインをデザイナーの内田繁、建築をイタリア人建築家のアルド・ロッシが手がけた。現在は残っていないが、別棟にあった4つのバーはそれぞれ、ロッシ、倉俣史朗、ガエターノ・ペッシェ、エットーレ・ソットサスがデザイン。デザイン史に名を残すメンバーが集結したホテルだったが、時間とともに当初のコンセプトは失われた。しかし2023年、かつてのコンセプトに則りリニューアル。デザインの力で人々を魅了するホテルとして再生した。

歴史を継承しながらアップデートした心地よいホテルリニューアルを指揮したのは、亡き内田の意志と理念を受け継ぐ内田デザイン研究所。外観はオリジナルのデザインを尊重して修繕した。レセプションとロビーがあった天井の高い2階に、新たにテラス付きの客室を設けた。すべての客室は現代的にアップデートしながら、内田が開業当時に実現した空間を踏襲し、内田のデザインした家具をオマージュした椅子など、往時の雰囲気をいまに伝える。

圧巻なのは地下のラウンジだ。ロッシがかつてデザインしたバー「エル・ドラド」の壁面造作を移築。内田のインスタレーション作品《ダンシング・ウォーター》と相まって、当時の空気感をいまに伝える。昨今あらためて評価されるポストモダンのデザインを、ふたたび肌で感じることができる貴重なホテルだ。

ホテル イル・パラッツォ福岡市中央区春吉3丁目13番1号
0570-009-915
https://ilpalazzo.jp/

著者プロフィール:山田泰巨/編集者、ライター。1980年生、北海道出身。『商店建築』や『Pen』編集部を経て、現在はフリーランスで活動。建築やデザイン、アートなどを中心に、雑誌で編集・執筆を手掛ける。GQ JAPANでは、連載「酒器と銘酒」を担当。

編集・遠藤加奈(GQ)

文:GQ JAPAN 山田泰巨
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