最注目は299.2万円の「Baseline」
BYDが最安モデルであるドルフィンに期間限定グレードを投入し、なんと補助金なしで299万円から購入可能という実質的な大幅値下げを実施しました。日産サクラなどと比較しても強烈なコスト競争力を実現してきたという最新動向を解説します。
BYD「ドルフィン」で感心した3つのポイントとは。中国発の最新コンパクトハッチに国内試乗
まず、2023年9月に日本で販売スタートしたドルフィンは、エントリーグレードで44.9kWhのバッテリーを搭載することで、航続距離も400kmを確保。これは同セグメントの日産リーフの40kWh・322kmという航続距離と比較しても優れた性能です。それでいて価格は363万円からのスタートであり、日産リーフが408万円から発売されていることを踏まえると、乗用車というカテゴリーであれば、コスト競争力でドルフィンの右に出るEVはいないといえます。
他方で、2023年9月から2024年10月までのおよそ1年間程度での、日本国内のドルフィンの販売台数はおよそ1000台。日産リーフの2023年9月から2024年9月までの国内販売台数が6500台ですので、リーフがドルフィンを圧倒しています。販売ネットワークの規模感も雲泥の差であることから一概に比較できないものの、コスト競争力の高さに見合った販売台数には達していないという見方もできます。
そして、このドルフィンの最大のライバルとなっているのが軽自動車の存在でしょう。すべての車両販売に占める軽自動車の販売割合は概ね4割ほどであり、車両サイズが小さい分だけ車両価格が安く、そのうえ税制も優遇されているため、コンパクトカーを買うなら軽自動車を購入したいというニーズが強いわけです。
そして、この軽自動車セグメントには、EVの日産サクラが存在します。サクラは20kWhバッテリーという限られたバッテリーサイズによって航続距離は180kmしかないものの、現在256万円から発売中。しかも補助金額も55万円であり、ドルフィンよりも実質120万円ほど安価に購入することが可能です。やはりコンパクトなサイズ感も含めて、日常の足としてサクラをチョイスするユーザーが圧倒的に多いのが現状です。
いずれにしても、ドルフィンは日本のガラパゴス規格である軽自動車セグメントという大きな壁に苦しんでいるのかもしれません。
そしてBYDは、ドルフィンの需要をさらに喚起するために、日本導入1年を記念した特別仕様車を設定してきました。具体的には、「Baseline」と「Limited」、「ロングレンジLimited」という3種類です。まず、Limitedは基準車とまったく同じ値段設定ながら、エクステリアに対して複数の専用ラッピングを施しています。とくにロングレンジLimitedではボディを一周するストライプラインとなり、通常のツートーンカラーよりも存在感が増しているように感じます。また、ETCとドライブレコーダーも標準搭載です。
一方で、今回もっとも注目するべきはBaselineの存在です。このBaselineでは、充電ケーブル、NFCカードキー、フロアマット、三角表示板をオプション設定にすることで装備内容を簡素化、その分値下げを実施して299.2万円という、63.8万円引きを実現してきた格好です。
12.8インチの回転式スクリーンを標準搭載
それでは、今回追加設定されたドルフィンBaselineが競合のEVとなる、日産サクラやホンダN-Van e:、日産リーフなどと比較してどれほどのコスト競争力を有しているのかを比較していきましょう。
まず初めにEV性能について、Baselineは基準車とまったく同じです。44.9kWhバッテリーを搭載することで航続距離は400km、充電性能も最大65kWに対応するなど、サクラだけではなくN-VAN e:やリーフと比較しても優れたEV性能を実現しています。
そして、今回の値下げによって、Baselineでは300万円切りと、軽自動車を除いた乗用車セグメントにおいては、国内で史上もっとも安いEVが誕生したことになりました。さらに、国からの35万円の補助金を適用すれば、実質購入金額は264.2万円と、やはりインパクトがあります。
また、サクラと比較すると、サクラは実質205万円とドルフィンよりも60万円安いものの、基準車と比較するとその差が縮まったことは間違いありません。また、よりバッテリー容量の大きなN-VAN e:との差は30万円強であり、値段が接近しています。
さらに、より正確なコスト競争力を比較するために、標準装備内容も確認しましょう。まずタッチスクリーンについて、ドルフィンは12.8インチの回転式スクリーンが標準搭載であるものの、リーフは9インチ、軽EVには標準搭載されません。
次にシート調整について、ドルフィンは電動調整に対応していますが、他車はすべて手動調整です。また、ヒートポンプシステムはN-VAN e:以外は標準搭載です。このN-VAN e:を商用配送車両としてではなく、キャンプなどでの使用用途として購入検討する場合は、ヒートポンプが搭載されていないという点を冷静に吟味する必要があると感じます。
そして、レベル2ADASについて、ドルフィンは標準搭載であるものの、サクラとリーフではプロパイロットはオプション設定です。さらにドルフィンには7つものエアバッグが標準搭載されており、その上、高張力鋼の配合割合も78.2%と、衝突安全性を高めようとしてきています。実際にEuro NCAPにおいて、ドルフィンは最高評価の5つ星を獲得しており、点数を総合的に比較すると、リーフよりもむしろ高評価というレベルです。また、保証内容も車両保証は4年10万km、バッテリー保証も8年15万kmに対応。
いずれにしても、今回のドルフィンBaselineは、ただ単純にEV性能というスペックが高いだけではなく、標準装備内容でも、むしろ競合を上まわる充実の装備内容を実現。さらに衝突安全性なども妥協することなく、保証内容もより手厚いことから、ドルフィンのトータルのコスト競争力が高く、さらにBaselineグレードでの値下げによって、そのコスト競争力が一段と高まったといえるのではないでしょうか?
ちなみに、BYDは現在Atto 3とドルフィンに対して、BYD補助金というキャンペーンを展開中です。Atto 3に対して30万円、ドルフィンに対して40万円が値引きされるという対応です。今後もさまざまなキャンペーンを通じて、実質的な値下げを行ってくる可能性は十分考えられるでしょう。
果たして、大幅値下げを実現した、限定100台のBaselineグレードがどれほどのスピード感で完売するのか。それによってBYDの日本国内での販売台数がどこまで伸びていくのか。さらに2025年シーズンに突入して、追加の値下げキャンペーンのようなものが出てくるのか。さらに、2025年シーズンに投入見込みのSea Lion 07をはじめとする新型EVの動向についても目が離せません。
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みんなのコメント
なぜ国内メーカーが脅かされなければいけないのだ。