4月13日、14日に岡山国際サーキットで開幕する2024年のスーパーGT。新予選方式など、注目の要素は数多くあるが、ホンダが今シーズンからGT500クラスに投入するシビック・タイプR-GTも、間違いなくそのひとつだろう。
ベース車両がNSXからシビックに変わったとはいえ、GT500車両はモノコックをはじめ共通部品が多く、車両が全くの別物になるというわけではない。しかしながらフロントを中心としたボディ形状(いわゆる“ガワ”の部分)はベース車の印象を踏襲する形で変更されるため、車両の空力特性などは僅かであっても変化することになる。
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これまでにドライバー達から聞いた話を総合しても、NSX-GTとシビック・タイプR-GTで車両のイメージがガラリと変わったわけではないものの、これまでダウンフォース量が多く、その分ドラッグ(空気抵抗)も大きい特性だったNSXと比べると、ダウンフォース量、ドラッグ共にやや減少する傾向にあるようだ。あくまで一般論的に言えば、ダウンフォースが減るとコーナリングスピードが落ちる可能性がある一方で、空気抵抗が減れば直線スピードの向上が期待できると言える。
そういった車両特性の変化について、HRC(ホンダ・レーシング)でGT500の車体開発を率いる徃西友宏氏は富士公式テストの直前に次のように語っていた。
「ベース車両が変更となったことで、(2024年型の)クルマのキャラクターが去年のNSXと全く同じ延長線上にあるわけではないので、セットアップもそのキャラクターにフィットするコンセプトでやっていかないといけません」
「今年は速さ抑制のための車高アップ(※規則によりスキッドブロックの取り付け位置をスペーサーにより5mm下げ、実質的な最低地上高を5mm引き上げ)もあり、元々各車の走行中のダウンフォースが減る方向で走ることになると思いますが、うちはそこでベース車変更も同時に入っています」
「シビックに変えることで、NSXの時ほどはダウンフォースでどんどん押していくようなクルマではなくなるんです。そういったふたつの変化が入っていますから、我々のプログラムとしては、各チームでセットアップ作業を進めながら、去年の良かったイメージを探るということをやっています」
3月の公式テストでも、シビックに合ったセットアップ探しをしていた様子のホンダ陣営。ドライバーとして開発を率いてきた山本尚貴(#100 STANLEY CIVIC TYPE R-GT)も岡山で、「まだまだセッティングを色んなところに振ることで、良いところが見つかりそう。もうちょっと時間をかけて煮詰めたい」とコメントしていた。徃西氏も現状は「クルマを煮詰めていく段階」だとして、シビックを「まだまだ発展途上」と評する。
2023年シーズン~2024年シーズンにかけてのオフは空力開発が解禁されたこともあり、Zを継続して使う日産勢とスープラを継続して使うトヨタ陣営も、車体のディティールをアップデートしてきている。言わば“正常進化”を進めていると言えるだろう。そんな中でのライバル陣営のパフォーマンスを見て徃西氏は「しっかりと”進化しろ”があるなという印象です。うちはベース車を変えちゃったということもあるので性能を上げている最中ですが、他社さんは非常に速いなという印象です」と舌を巻く。
このように、“まだまだこれから”といった印象も受けるホンダ陣営のシビック。開幕戦岡山に向けても「ライバルの皆さんは非常に手強く、強さ、速さがあることは合同テストでも見受けられています。うちはクルマを煮詰めていく段階だという認識ですので、開幕戦はこれから8戦続いていくレースの1戦目、クルマの理解を深める上での大事なステップだと認識して、変に浮き足立つことなく、自分たちのクルマの性能を引き出すことにしっかり集中していきたいです」と徃西氏は控え目ながらも堅実なコメントを残した。
シビックに今後どれほどの伸びしろがあるのかは気になるところだが、さらに気になるのは、車両のキャラクターが変わったことによってホンダ陣営にとって得意・不得意なサーキットが変わってくるかどうかだ。
NSX-GTがFR化した2020年以降の4シーズンの数字を見ていくと、ホンダ陣営はシーズン終盤戦に組み込まれることが多いオートポリス、もてぎで好結果を残すことが多かった。もてぎでは6大会中5大会で優勝、オートポリスでは3大会中2大会で勝った。これはダウンフォースを活かしたコーナリングやブレーキングでアドバンテージがあったことも無関係ではないだろう。
しかしその一方で、「NSX=ドラッグが大きい=直線の長い富士スピードウェイは不利」とステレオタイプ的に見られることが多いが、実際富士での戦績もそれほど悪いわけではなかった。過去4シーズンの10大会中4大会で勝利し、その勝率はもてぎ、オートポリスに次いで高い。これについて徃西氏は、様々な理由が考えられるものの、長距離レースに設定されることの多かった富士戦において、その年その年でロングランの良さや燃費の良さを活かせたレースがあったと分析した。
つまるところ、ホンダ陣営はある程度車両特性に“尖り”があったNSX-GT時代にも比較的満遍なくポイントを稼ぐことができていたのだ。そして今シーズンは、性能の“尖り”が少なくなったということも相まって、そういったオールマイティな傾向がより一層強まる可能性もあるようだ。
「実際のところ、車両変更でキャラクターが変わるとは言いつつ、シーズンの戦い方がそこまで変わるのかというのは、我々もハッキリとは分かっていません」
徃西氏はそう語る。
「今までもドラッグが大きくてストレートが苦手だよねという話があり、実際にスペック的にもそうなのですが、でも富士戦のリザルトを見ると決して悪くなかったりしました。確かに後半戦のハイダウンフォースサーキットでしっかり強さを見せられたという印象もありますが、NSXは得意不得意があると言いつつも満遍なくポイントを獲っていたんです」
「ではシビックになってそれが変わるかというと……。富士で直線番長になるほどまでは(直線スピードが)速くならないこと考えても、NSXよりは車両スペック上の得意・不得意に尖った山や谷がないクルマになったと言えますので、シーズンを通しての戦い方もより満遍なく、うまく戦えるようになればいいなと思っています」
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