スポーツドライビングで知っておくと良いのが摩擦円の概念だ。良くドライビングテクニック解説記事や本にも出てくる。具体的にはタイヤは縦方向と横方向のグリップを持ち、そのベクトルがグリップ限界となるという概念で、タイヤのグリップを必要なときに十分に引き出して走るための参考になるものと言える。
摩擦円を自在に操るのがドライビングマスターと言える
ドライビングテクニックを語る際に、「摩擦円を上手に使って・・・」という言葉が出ることがある。なんとなくタイヤの性能を表すものというイメージを持っている人が多いかもしれない。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
摩擦円というのは、タイヤのグリップ力の限界を円で表したものだ。加速・減速方向で働く力と左右のコーナリング方向で働く力をベクトルで表し、それは摩擦円を越えることはできない、というのがその考え方になる。
摩擦円の基本
これを具体的に考えてみると、ブレーキでタイヤのグリップ力を摩擦円の限界(100%)まで使ってしまうと、コーナリングのためのグリップ力は0%になり、ステアリングホイールを切っても反応しないということを意味する。
だが、ブレーキングの終わりとステアリングホイールの切り始めをシンクロさせれば、フロント荷重が残って摩擦円が大きくなっている時にコーナリングのためのグリップ力も使えるので、しっかりと曲がっていくことになる。これがブレーキペダルをぱっと離してはいけない理由だ。
タイヤのグリップ力の限界まで使ってコーナリングしている時には、外側のタイヤの摩擦円が大きくなって、コーナリング力も摩擦円のぎりぎりを使っている。この状態でブレーキングをするのは、減速方向のグリップ力を使うことだが、それはすでに残されていない。つまり減速できないのでアンダーステアを出してコースアウト!ということになる。
タイヤの性能を限界まで出せば上手なドライビングか?
またハイパワーの後輪駆動車で無理矢理パワーをかければ、前に進むのではなくパワースライドして最悪の場合はスピン!ということにもなりかねない。
摩擦円で勘違いしやすいのが、加減速時の縦方向のグリップ力とコーナリング時の横方向のグリップ力の関係。たとえば「ブレーキングで80%の力を使うと、コーナリングに20%の力しか使えない」と足し算で考えてしまうことだ。
これは「摩擦円の基本」の図を見てもらえばわかることなのだが、(A)ブレーキ力と(B)コーナリング力の合力が摩擦円の限界となるために、足し算ではない。要するに三角形の各辺の長さを求める式となる。上図のように(A)ブレーキングで80%の力を使った時の(B)コーナリング力を知る場合、(B)は(C)の二乗から(A)の二乗を引いた値の平方根となり、コーナリング力60%となる。
これからわかることはブレーキ力を本当にぎりぎりいっぱいまで使っていなければ、意外とステアリングも効くし、コーナーもある程度余裕を残していれば慎重なブレーキングで減速できるということだ。万が一のときにも諦めなければなんとかなる可能性があるとも言えるだろう。スピンしそうなときにはブレーキだけでも踏み続ければ、ぎりぎりでセーフということもありうる。
摩擦円の中の力も、ただやみくもに限界まで出せば上手なドライビングか?と言えば、そういうわけでもない。ドカンとブレーキングをして、ズバッとステアリングを切ったりすると、クルマの姿勢が非常に不安定になって危険でもある。
加速方向、減速方向、コーナリング方向の力の動きはG(重力加速度)の動きと言い換えても良く、前後左右だけでなく、その過渡領域を含めて、その時の摩擦円の限界近くをスムーズにつなげていくのが上手で速いドライビングと言える。
クルマの速さというのは、最終的にはタイヤと路面の関係によって決まる。いくら大パワーのクルマでも、しっかり路面をグリップをしなければ、それを活かすことはできない。
またアンダーパワーのクルマでも、ツイスティーなコースで上手なドライバーがタイヤの持てる能力を引き出して使えば、意外な速さを見せることがあるわけだ。こんなことを考えながらドライビングすると、新たな発見もあるかもしれない。(文:Webモーターマガジン編集部 飯嶋洋治/イラスト:きむらとしあき)
筆者がNBロードスターで体験した「やばいスピン」
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