約400台しか注文されなかった最上級クーペ
2008年にベントレーのフラッグシップとして登場したラグジュアリー・クーペ、2代目ブルックランズ。世界情勢的には、望ましいタイミングとはいえなかった。
【画像】内装に牛16頭分のレザー ベントレー・ブルックランズ 現行モデル3種も 全102枚
各国が金融危機へ見舞われるなか、英国での価格は23万ポンドから34万3000ポンド。当初は550台が製造される予定だったが、2011年までに約400台しか注文は寄せられなかった。そのうちの97台は、グレートブリテン島に住む富裕層が占めた。
スタイリングは、兄弟モデルとして2006年に登場していたコンバーチブル、アズールと共有している。ブルックランズの長くカーブを描くルーフは、優雅なシルエットを演出。巨大なブレーキディスクを覆う、20インチホイールも壮観だった。
アズールと比較し、ルーフが追加されたことでボディ剛性は向上。1930年代のベントレー・スピリットを宿したような高い動力性能に、当時の自動車ジャーナリストは感銘を受けている。
6.75Lという大排気量のV8ガソリンエンジンには、2基のターボチャージャーが組み合わされ、最高出力537psを発揮。最大トルクは106.8kg-mと3桁に届いていた。ちなみにこのV8エンジンの起源を辿ると、1959年にまで遡る。
最高速度は296km/hに達し、0-97km/h加速を5.0秒でこなした。48km/hから80km/hまでの中間加速は1.7秒という鋭さで、ブルックランズの現実世界でのパフォーマンスは揺るぎないものといえた。
インテリアには牛16頭分のレザーを使用
ハンサムなスタイリングや怒涛の走りもさることながら、インテリアも特筆すべきラグジュアリーさ。オーナーを魅了する雰囲気をたたえている。
1台の内装に用いられたレザーは、牛16頭分。職人がきれいに型を抜き、丁寧に縫製して仕上げている。深い光沢を放つウッドパネルは分厚く、重さはオンスではなくポンドで計られていた。カーペットの毛足が長いことは、いうまでもないだろう。
ハイエンドなクーペは、実用性も犠牲にしていなかった。全長は5411mmと長く、都市部での取り回しに気を使うことは間違いないが、そのサイズを活かしリアシート側の空間は広大。大人4名が快適に移動できるベントレーだ。
荷室容量は374Lと充分。定員分の手荷物なら、問題なく運べる。
オプションは、ふんだんに用意されていた。2250ポンド支払えばボンネットの先端にフライングBマスコットを飾れた。2万ポンドを上乗せすれば、カーボンブレーキにアップグレードも可能だった。もし興味をお持ちなら、装備内容をよく確かめたい。
中古車として、ブルックランズで現実的とはいえないのは燃費だろう。市街地を流すと、3.5km/L前後まで落ち込む。メンテナンス費用にも充分備えたい。タイヤはそこまで高くないとしても。
往年のベントレーを象徴する唯一の訴求力
生産台数が少なかったこともあり、ブルックランズは今でも比較的高値で取り引きされている。現在の英国市場を確認してみると、走行距離にもよるが、11万ポンド(約1771万円)以上することが一般的。
同年代のベントレーで、ひと回り小さいコンチネンタルGTなら、3万ポンド(約483万円)前後から探せる。比べると割高に思えるものの、ブルックランズのようなビッグクーペが今後登場する可能性は低い。市場は、SUVへ関心を寄せているためだ。
価値の高いブルックランズは、除湿されたガレージで大切に保管されている場合が多い。とはいえ、高速で走っている姿の方が、より輝いて見えることは間違いない。
類まれな技術と素材で、ガソリンを大量に燃やしてアウトバーンを疾走するために誕生したブルックランズ。もはや存在しない世界観のために作られたビッグクーペといえ、往年を象徴するベントレーとして、唯一無二の訴求力に溢れていると思う。
オーナーの意見を聞いてみる
サイモン・マホニー氏
「以前はベントレー・ミュルザンヌを所有していましたが、手の届く価格帯に落ちてきたブルックランズへ乗り換えました。この時代のスタイリングが好きなんですよ。とても素晴らしいクーペで、かなりスポーティでもありますね」
「グレートブリテン島北部、スコットランドへのロードトリップを楽しんでいます。高速道路を流せば、燃費は6.4km/Lくらいまで伸びます。ただし、メンテナンス費用はかなり高額ですね」
「近くのベントレー・ディーラーで診てもらっていますが、高級車だということを受け入れる必要はあるでしょう。わたしのクルマの場合、不具合が起きたのはリア・サスペンションのダンパー。費用はかかりましたが、好きな気持ちは変わりません」
購入時に気をつけたいポイント
ボディとインテリア
全幅が1900mmもあるため、ホイールのガリ傷やバンパーの擦り傷には要注意。特に交換用アルミホイールは入手が難しい。
インテリアは、手入れが行き届いているはず。走行距離に関わらず、レザーシートはソフトでヘタリも感じられないことが多い。上質なレザーは高価だから、割けた部分の修理だけでも安くは済まないだろう。
エンジン
ブルックランズでは、エンジンを4500rpm以上まで回す必要は殆どない。内部摩耗が進むほど、走行距離を重ねている例も殆どない。とはいえ、定期的な通常のメンテナンスは高額だと考えたい。
英国の正規ディーラーの場合、エンジン周りの主要な整備で5000ポンド(約80万円)、基本的な点検・整備だけでも1900ポンド(約30万円)は要求されるようだ。正規ディーラー以外の、ブランドを得意とするガレージなら費用を抑えられる。
トランスミッション
ZF社製の6速オートマティックは堅牢。密閉型ユニットとして提供されているが、少なくとも9万km毎にフルード交換などは行いたい。正規ディーラーの場合、800ポンド(約13万円)からとなっている。
サスペンション
車重は2650kgと重く、ブッシュ類に掛かる負担は大きい。部品代も高く、全体を交換するには作業代を除いて約1000ポンド(約16万円)かかる。路面の凹凸などを越えて、異音が聞こえないか確かめたい。
ブレーキ
受け止める運動エネルギーは巨大だが、スチール製ディスクとパッドの交換は、現実的な価格で頼める。正規ディーラー以外の専門ガレージなら、1000ポンド(約16万円)くらいで請けてくれるようだ。
知っておくべきこと
職人が手作業で仕上げたブルックランズには、税金だけでなく、ガソリンや整備費など大きな維持費が発生する。充分な覚悟でクルマ選びを進めたい。
ベントレーなだけに、初代オーナーの好みでボディカラーやインテリアがコーディネートされている。大胆な配色の場合も多く、理想的なブルックランズを探すには時間も必要だろう。
走行距離は、英国でも6万kmを超えている例は殆どない。価格は、走行距離より仕様や状態に依存している。
初代ブルックランズは1992年に登場しているが、ベントレー・ミュルザンヌとエイトの後継モデルに相当する、4ドアサルーンだった。高性能なブルックランズRも登場し、1999年にベントレー・アルナージへモデルチェンジした。
その後、ベントレーはアルナージのプラットフォームに大改良を加え、コンバーチブルのアズールを開発。さらにクーペのブルックランズへと進化させた。
英国ではいくら払うべき?
11万ポンド(約1771万円)~11万9999ポンド(約1931万円)
メンテナンスの行き届いたブルックランズを英国では探せる価格帯。走行距離は3万kmから6万kmの間が中心。多くがベントレーを得意とする、有名なディーラーが販売している。手頃な価格の場合、個性的なインテリアカラーであることも多い。
12万ポンド(約1932万円)~12万9999ポンド(約2092万円)
走行距離が3万kmを切るような、素晴らしいコンディションのブルックランズを選べる。オプションもふんだんに搭載されているため、よく比較して選びたい。
13万ポンド(約2093万円)以上
走行距離が1万kmを切るような、新車に近いブルックランズを英国では探せる。オプションも惜しみなく投じられ、大概はボンネットの先端にフライングBマスコットが輝いている。
英国で掘り出し物を発見
ベントレー・ブルックランズ 登録:2008年 走行距離:5万3100km 価格:10万9995ポンド(約1771万円)
20インチのアルミホイールに、シックなボディカラー、コニャック・ブラウンのレザー内装で仕上げられたブルックランズ。ダッシュボードやシートのヘッドレストには、フライングBのロゴが刺繍されている。
ベントレーを得意とするガレージが販売している。維持状態も確かなようだ。
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