現行のトヨタ「カローラ」に設定された高性能モデル、“GR”の走りは刺激的だった! 今尾直樹がレポートする。
こりゃぁ怪物だ!
これはプリウスの高性能バージョンである!──新型トヨタ・プリウスPHEV試乗記
東京・九段にあるトヨタの広報車の貸し出し場所に行ってみると、「プレシャスメタル」というガンメタのボディ色をまとったGRカローラRZが表に出ていた。写真で見るよりフロントのボンネットの膨らみがゴツい。前後フェンダーを片側約30mmずつ広げられていて、迫力満点。高速での旋回性能を引き上げるべく、トレッドも前60mm、後ろは80mmワイドになっている。冷却用のグリルもでっかくて、奥にオイルクーラーが見える。う~む。こりゃぁ怪物だ。
ドアを開けて運転席に座る。真っ黒けに赤いスティッチが入った内装はGRの文法通りである。トランスミッションは6速MTのみ。ABC(アクセル、ブレーキ、クラッチ)のアルミのペダルがフロアでキラリと光っている。シフトレバーの後ろにはドリフトがやりやすいように足踏み式から変更されたパーキングブレーキのレバーが40°ぐらいで屹立している。触ると太くて硬い。リッパだ。
クラッチはギョッとするほど重い。奥まで踏み込んでスターター・ボタンを押す。1.6リッターの直列3気筒ターボエンジンが眼を覚ます。そのとき、クラッチペダルを踏む左足にドンとショックがあって、内燃機関の爆発のエネルギーを感じる。同時に、“ゔぉゔぉゔぉゔぉゔぉゔぉ”という、くぐもった低音が耳をボーッとさせる。3本出しのマフラーからの排気が空気をあやしく振動させ、怪物が姿をあらわす! というムードが高まってくる。
1.6リッターの3シリンダー・ターボは、GRヤリス用を改良して、最高出力を272psから304psに引き上げられている。370Nmの最大トルクはGRヤリスと変わらないものの、発生回転数は3000~4600rpmから3000~5550rpmに広がっている。
高出力なのに中低速トルクもたっぷりしており、1速に入れてクラッチをゆっくり離せば、簡単に発進できる。電子制御のエンジンはフレキシブルでもある。
野生味に驚く走り始めてギョッとしたのは、低速だとバネが硬すぎることだ。40km/h程度だと、可変ダンパーを持たない機械式のサスペンションは路面の凸凹を増幅しているかのようで、運転席の筆者の身体が凸凹揺すられる。これを野生味というなら、なるほど野生味かもしれない。
ボディの剛性感はものすごく高い。ベースのカローラ・スポーツ比で、ボディのスポット溶接を349点増し打ちし、構造用接着剤の塗布箇所を2.7m延長している。ブレース(つっかい棒)を、床下のトンネルに1カ所、燃料タンク前の床下とリア・ホイール・ハウス間に1カ所ずつ設置して、ボディを補強してもいる。おかげで、上下に揺すられていても、堅牢な檻のなかにいるみたいな安心感がある。
箱根に向かうべく進路を西にとる。高速道路に上がって、巡航速度に達すると、乗り心地は俄然よくなる。路面がいいこともある。100km/hは6速トップでエンジン回転は2500rpmぐらい。3気筒ターボは回さなければ存外静かで、少々退屈を覚えるほど平穏に走行できる。怪物の鼻息みたいな不穏な音は、アイドリング時だけのもので、走り出せば聞こえてこない。
厚木ICから小田原厚木道路に入った直後の路面はわりとうねっていて、そこらあたりだと、スーパーロデオショウに参加しているカウボーイもかくや、の乗り心地を味わえる。ジャジャ馬というのではない。エンジンがシャシーに優っている感はないからだ。高速スタビリティはそうとう高く、矢のように直進する。
リエゾン区間を無事終えると、SSの山道である。GRカローラは2速で100km/h弱、3速で140km/h弱に達する高性能車である。1.6リッター直3はイエロー・ゾーンの始まる6500rpm近くまでまわしてもシャーンっという金属音を発するのみで、官能性というかエンタテインメント性は足りないきらいはあるものの、ターボが効き始めるとモリモリっとトルクを湧き出させる。その意味では、実用エンジンなのだ。
GRヤリス譲りの4WDシステムは電子制御の多板クラッチによって駆動力を前後に配分している。前後トルク配分はセンター・コンソールのスイッチひとつで、60:40、30:70、50:50に切り替えることができる。
これとは別に、エコ、ノーマル、スポーツ、カスタムと、4つのモードが用意されたドライブモードも装備している。筆者はもっぱらノーマルで走行し、山道でスポーツも試してみた。電子制御の可変サスペンションも排気音の切り替えも持っていないから、スポーツに切り替えた最初のうちは、ちょっとアクセルに対する反応がよくなったかも……とは思ったものの、慣れてしまうと、ノーマルとの違いがわからなくなる。どーもすいません。
豊田章男の執念前後駆動力配分が60:40だと心もちステアリングが重く、30:70にするとやや軽くなり、50:50だと手応えが増す……ような気もしたけれど、正直申し上げて、これらの違いはよくわからなかった。いえるのは、どのモードでも、めちゃんこよく曲がるということだ。
筆者は箱根ターンパイクから伊豆スカイラインまで走り続けたわけだけれど、GRカローラの旋回能力の高さは、コーナリングをせんとや生まれけむ、という感じだった。まさにコーナリング命。「いのち」っとゴルゴ松本のポーズをしたくなる。曲がるためだったら、乗り心地なんかいらない。というコーナリングおたくのための、ベスト・ハンドリング・カーにして、スーパー・コーナリング・マシン。
電動アシストのステアリングはどのモードでもちょっと重めで、スローインでコーナーに入り、エイペックスを抜けたところでファストアウトを心がけてアクセルを開ける。ロールはごく穏やかで、クルマの姿勢は極めて安定している。
強化されたボディも、安定した挙動に大いに貢献している。軽量化のためにカーボンルーフや新開発の軽量・高剛性のフロントサスペンションメンバーを採用したりもしている。カーボンルーフは低重心化にも貢献しているはずだ。
それにしても、EVシフト真っ只中のこの時期に、1980~1990年代のランチア「デルタ・インテグラーレ」とか、そのちょっとあとのスバル「インプレッサWRX STi」、三菱「ランサー・エボリューション」に代表されるホモロゲーションモデルみたいな、ピュア内燃機関のハコのスポーツカーに乗れるなんて夢にも思わなかった。これも「お客様を虜にするカローラを取り戻す」というトヨタのマスタードライバー、モリゾウこと豊田章男社長(もうすぐ会長)の、執念ともいうべき、積年の思いがあったればこそ、であろう。
昨年、発表になったGRカローラの国内仕様は、カタログモデルのRZがとりあえず限定500台。後席を取り外して、さらなる軽量化と高性能化を図ったモリゾウエディションが限定70台で、どちらも抽選販売となっており、すでにその抽選は終了している。つまり完売で、次のカローラRZの販売がいつになるか、いまのところ公表されていない。
とにもかくにも500万円以上もするカローラが瞬時に売り切れた。これこそ「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」の正しさを証明している。レースやジムカーナ等、モータースポーツを“DOする”ためのクルマとして、GRカローラは好適な1台になるだろう。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)
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何も進まないって事
排ガスガンガン出そうぜ!