フェラーリとアバルトのエッセンスが融合したコンパクトハッチ
近ごろの国際オークションでは、たとえ「ユーズドカー」ともいうべき高年式であっても、コレクターの琴線に触れるような特別なモデルであれば、有望な商品として競売にかけられることもあるようです。2024年5月10日から11日に、地中海に面した見本市会場「グリマルディ・フォーラム」を舞台として開催されたRMサザビーズ「MONACO」オークションでは、そんな特別なクルマのひとつとして「アバルト695トリブート フェラーリ」が出品されました。今回はそのモデル概要と、注目のオークション結果について、お伝えします。
ただただ楽しい。ニヤニヤが止まらないアバルト「695トリビュート131ラリー」に乗った!【AMWリレーインプレ】
2000年代初頭のフェラーリを投影したアバルトとは?
2009年のフランクフルト・ショーで発表されたアバルト「695トリブート フェラーリ」は、同時代のフェラーリ「430スクーデリア/スパイダー16M」と同じ意匠のセンターストライプをあしらい、カーボン製ドアミラーや「レーシンググレー」のカラーリングを与えられた専用17インチホイールなどが魅力的なルックスを演出することによって、アピアランスから受ける「フェラーリ感」は格段に高められていた。
いっぽうインテリアでは、往年のクラシック・アバルトの計器類を製作していた「イエガー(JAEGAR)」社が、このモデルのために特製した専用メーターや、サソリの紋章の刻まれた軽合金製レーシングペダルなどを採用した。
またダッシュボードには、こちらもフェラーリの特装モデルを思わせるカーボンファイバー製のデコレートパネルが奢られるうえに、シートは初採用の「アバルトコルサbyサベルト」を装着。シェルとベースをすべてリアルカーボンファイバーで仕立てたこのバケットシートは、標準型アバルト「500/500C」用の純正レザーシートと比較すると、総計10kgもの軽量化を実現したという。
とはいえこのクルマ、ありがちなコスメティックチューンドカーなどではなかった。総排気量1.4Lの直4ターボエンジンは、標準型アバルト500およびチューニングキットを組み込んだ「SS(エッセエッセ)」のIHI社製ターボから、純粋なレーシングバージョンたる「アセットコルサ」と同じ、ギャレット社製固定ジオメトリー式ターボに換装した。
さらに2ウェイバルブを持つ4本出しのエキゾーストシステム「レコードモンツァ」との組み合わせにより、標準モデルの135psからは45ps、エッセエッセの160psからも20ps上回る180psを実現。トランスミッションはパドル式5速MTA(自動モード付きシーケンシャル)の「アバルト コンペティツィオーネ」が組み合わされた。
もちろんさらに過激さを増したパフォーマンスに備えて、シャシーも手抜かりなく強化。前後サスには専用チューンのダンパーでローダウン化して締め上げたうえに、ブレーキについても、ブレンボ社との協力で開発された対向ピストンキャリパーで強化されていた。
695トリブート フェラーリを探すなら、日本国内がお得……?
このほどRMサザビーズ「MONACO 2024」オークションに出品されたアバルト695トリブート フェラーリは、もともと2010年9月16日にラインオフしたとされる個体。
世界限定で1696台が生産されるとアナウンスされたトリブート フェラーリでは、当時のフェラーリのカタログカラーの中から「ロッソ・コルサ(レッド)」、「ジアッロ・モデナ(イエロー)」、「グリッジョ・チタニオ(グレー・メタリック)」、そして「ブル・アブダビ(ダークブルー・メタリック)」からなる4色が用意されたとのことだが、この個体は全世界で1199台が製作された、イメージカラーでもあるロッソ・コルサ。「190」のシリアルナンバーが付けられている。
シルバーグレーのスクーデリア・ストライプが入った、壮麗なロッソ・コルサ仕立てのこの小さな「路上のロケット」は、2021年3月に現オーナーの「スクーデリア(厩舎)」に収められるまでは、モナコで登録されていたという。たしかにモンテ・カルロ旧市街や、「鷲の巣村」と呼ばれる周辺の街々は道路が非常に狭いせいか、近年のモナコではおびただしい台数のアバルトを見かけるのだが、この個体もそのうちの1台だったのだろう。
オークション公式ウェブカタログの作成時点での走行距離は、ヨーロッパの常識では「わずか」と表現される3万2596km。しかもこよなく大切に扱われていたのか、現状のコンディションもきわめて美しいとのことである。
また、フェラーリのロゴが入った衛星ナビユニット(日本仕様には非設定)、ハンドブックに純正ディテーリングキットなども付属しており、どんなコレクションにも、あるいは素晴らしいデイリードライバー向けのクルマとしても好適。そんな謳い文句を添えて、RMサザビーズ欧州本社は3万ユーロ~5万ユーロのエスティメート(推定落札価格)を設定するとともに、最低落札価格を設けない「Offered Without Reserve」とした。
そして迎えた競売では、エスティメート上限に近い4万3700ユーロまでビッド(入札)が伸び、現在の為替レートで日本円に換算すると約740万円というけっこうな価格で、競売人の掌中のハンマーが鳴らされることになったのだ。
しかし、万が一この記事をご覧になって「695トリブート フェラーリが欲しい!」と思われた読者諸兄がいらっしゃるならば、まずは日本国内のユーズドカー市場をチェックすべし、とお薦めしたい。
日本国内市場における695トリブート フェラーリは、2010年11月から150台が正規導入され、ロッソ・コルサが110台、ジアッロ・モデナが30台、ブル・アブダビとグリージョ・チタニオはそれぞれ5台とされた。また日本での販売価格は、アバルト「500」と「695」にちなんだ569万5000円(消費税込)とされていた。
くわえて、2012年には日本市場限定モデルとして、「ビアンコ・フジ(パールホワイト)」にペイントされた「アバルト695トリブート フェラーリ“トリブート アル ジャポーネ”」が50台のみ追加生産。車両本体価格の一部を東日本大震災の復旧支援に充てるということで、609万5000円(消費税込)で販売されたという。
つまり日本の国内マーケットには、今なおかなりの台数の695トリブート フェラーリが流通しているうえに、その販売価格帯も300万円台から充分狙える範囲内にあるのだ。
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