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今、中国の電気自動車がアツい!?──オート上海のスタートアップEVメーカーたち

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今、中国の電気自動車がアツい!?──オート上海のスタートアップEVメーカーたち

どうやら、今年の東京モーターショーに出展する海外メーカーはたった3社しかないらしい。

そんな噂話を東京で聞いた直後に、羽田から上海に飛んだ。オート上海というモーターショーを取材するためだ。

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上から見ると四つ葉のクローバーのようなかたちをしている巨大な国際見本市会場は多層構造になっていて、部品や商用車なども含めたすべての展示を見るためにはとても1日では足りない。2日あっても難しいだろう。

それでも、メインとなる乗用車メーカーの展示を端から見てみると、中国のスタートアップのEV専業メーカーが多数参加していたのに驚いた。

その中でも、NIO(ニオ)は最も広いブースを5号館に展開し、新型EVのSUV「ES6」を一番前に据えていた。「ES8」は2017年にデビューした3列シートを持つフル電動のSUVであるのに対して、今回、ショーデビューした「ES6」は2列版だ。

他にも、ニュルブルクリンク北コースのラップタイムを2017年に塗り替えたEVのスーパーカー「EP9」や4ドアのコンセプトカー「eT」、完全自動運転を織り込んだコンセプトカー「NIO EVE」など、他のメーカーを牽制するかのように、多数のクルマを並べていた。

クルマだけではない。ファッションデザイナーのフセイン・チャラヤンとコラボレーションし、さまざまな服やグッズ類も展開している。

2014年に創業し、2018年9月には早くもニューヨーク証券取引所に上場し、既存の自動車メーカー以上のスピードでNIOは成功への階段を駆け上がっている、中国EVスタートアップのスターブランドである。

実際に、上海や蘇州の街中では「ES8」を良く眼にした。ショー会場のスタッフに訊ねると、すでに1万5000台を納車したという。

ブースでは、画期的なバッテリー交換システムのデモンストレーションも繰り返し行われていた。

これは、EVが宿命的に抱えている充電時間の長さを解決するためにNIOが独自に実用化したものだ。北京と上海の街中と、両市をつなぐ高速道路上のサービスエリアに設置している。

システムは12畳くらいの大きさの金属製の小屋のようなものだ。その半分は密閉され、残り半分は空いていて、ES8がバックで入るようになっている。

システムが作動すると、ドライバーが降りたES8は車両全体がジャッキアップされ、伸びてきたアームが前後輪の間にフォークリフトのように収まり、バッテリーを取り出す。

バッテリーをつかんだアームは中に引っ込んでバッテリーを回収し、あらかじめ満充電にされていた別のバッテリーを逆の順序でES8に装着し、ジャッキを下ろして終了。

ここまで3分弱。従来通りの方法の10分の1の時間しか要さない。現在、このシステムは120機が稼働していて、NIOのクルマの今後の販売増加に合わせて増やしていく予定だという。

このシステムが普及し、NIOがEVメーカーとして最終的に成功を収められるかどうかはまだ誰にもわからない。また、このカセット式のバッテリー交換システムを「マーケティング・トリックだ」と批判する人もいる。あまりに手際の良い経営とブランド構築ぶりにあざとさを感じなくもない。

しかし、ES8の仕上がりの素晴らしさとNIOのチャレンジングスピリットは魅力的だし、高く評価したい。ES8には、ショー前日に同乗ながら試乗することができた。経営の上で、スタートアップ企業が有利なことは承知しているけれども、NIOの取り組みを見ていると既存の自動車メーカーの歩みが遅く見えてきてしまう。

その想いは、続く6号館、7号館と進んでいくうちに強いものとなっていった。そこには、まるでNIOの後を追っているかのようなEV専業メーカーがいくつもブースを並べていたのだ。

その中でも、WELTMEISTER、ENOVATE、LEAPMOTORなどが特に印象的だった。それらのメーカーがすでに製造を開始し、実際に販売しているEVが目眩してくるほど先進的だったのである。

前のふたつがSUVで、LEAPMOTORは可愛らしい2ドアクーペだ。ボディタイプは異なるが、共通しているのは、バッテリーとモーターだけをパワートレインとするEVであること、優れたコネクティビティ、レベル2の運転支援、AI搭載などだ。

具体的には、クルマ自体にSIMカードが装備され、インターネットに常時接続する。クルマから遠隔しての各種の設定や操作が行えて、ナビゲーションやエンターテインメントなどを便利かつ安全に使いこなせるようになっている。

ACC(アダプティブ・クルーズコントロール)とLKAS(レーンキープアシスト・システム)などの運転支援システムは標準装備されているのが当たり前。

WELTMEISTERの「EX5」という新型EVなどは、ステアリングホイールポストの奥に小型カメラが装備されていて、それをセキュリティに用いていた。

「Face IDで、ドライバーの顔を認識するためです。盗もうとしても、動きませんよ」

スマートフォンやアプリではすでにお馴染みとなった顔認証技術がクルマに用いられている。

従来のような、針を持ったメーターを持つクルマなど一台もない。すべて1枚ないし2枚、多いものでは3枚のパネルに表示され、タッチだけでなく音声やAIによって操作される。

運転に関わる機能だけは人間が行わなければならないが、空調、ナビゲーション、エンターテインメントなど、運転と関連しない操作は音声入力によってAIが判断し、操作される。携帯電話の接触充電も、みんな装備していた。

申し合わせたかのように、すべてのEVが現在実用化されている最新の機能を漏れなく装備している。その揃い方と速さに勢いを感じる。

造形や素材遣いなどのセンスも今日的だし、インターフェイスももちろん問題ない。工作精度も申し分ない。

EVの課題である航続距離は搭載するバッテリーの容量に応じて、だいたい300kmから500kmの間を標榜していて、実用性は問題ない。つまり、総合的な完成度はとても高く、商品としての魅力に溢れている。

それと較べてしまうと、日本車はコンサバの極みだ。思考を停止しているかのように退屈で、予定調和してしまっている。

もちろん、クルマは乗ってみなければわからないし、国を挙げてのEVシフトという中国の背景事情も無視できない。エンジン車を一気にEVに転換することも現実的ではないだろう。

しかし、それらをすべて勘案してみても、新しいテクノロジーやガジェットを貪欲に取り込み、商品というカタチにして送り出すパワーの強さとビジョンの明確さに打ちのめされた。オート上海には2年前も4年前も訪れているが、こんな勢いを感じたことはなかった。

WELT MEISTERのブースを出たところで、知人に会って立ち話した。彼は、ある日本の自動車メーカーの取締役を最後に退き、現在は独立してコンサルタントオフィスを構えている。

彼も、僕と同じように眼の前の中国EVスタートアップの勢いに圧倒されていた。

「日本や欧米は、大きく水を開けられてしまいましたね」

とはいっても、最近まで開発に携わっていたから、中国のEVの活況を素直に認めつつも言葉のどこかに少し悔しさもうかがえた。

「国家だけじゃなくて、地方政府も地場のメーカーをサポートしているから、一気にここまで来たんですね」

個々の技術や装備などは日本メーカーも有しており、いつでも採用できるはずなのに、どうして日本からは同じようなクルマが出て来ないのだろうか?

造ろうと思えば造れるはずなのに、造れていない。技術や生産手段は持っているのに、製品として一向に現れて来ない。技術力の問題ではなく、経営の舵取りの問題ではないだろうか。

「日本のお客さんって、意外とコンサバなんですよ。メーカーがちょっと先進的なものを出しても、拒否反応が返ってくるんです。ここまで進んでいると、“付いていけない”って敬遠されるでしょうね」

いまだにスマートフォンの普及率が低いような国なのである。

顧客だけでなく、サプライヤーもコンサバだ。メーカーとサプライヤーの関係も、弱くなったとはいえ“系列”関係にある。自動車メーカーとサプライヤーの下に孫請け、曽孫請けと連なっていく垂直分業構造にあるから機敏に動くことができないし、ここに揃ったEVのような新しいものを造れないだろう。

NIOを筆頭とする中国のEVスタートアップたちは自らの工場を持っていない。

モーターなどを部分的に製造しているところもあるが、デザインとコンセプト造りを行ったら、あとはサプライヤーの力をフルに活用して任せてしまう。スマートフォンやPCなどと同じような水平分業構造だ。速さと勢いが出るのは当然だ。

これからのクルマにとって電動化や自動化、密なるコネクティビティは必須で、避けては通れない。今回のオート上海を見る限り、それらを三拍子揃えて装備したEVが、それもスタートアップ企業からたくさん発表された。 

それは、中国の自動車産業が日本や欧米の自動車メーカー群から大きなリードを取ったと認めなければならないことを示している。

予断を許さないとは、まさにこのことで、中国も世界も、これからいくつもの大きな波乱に見舞われていくのだろう。

どのようなかたちにせよ、クルマそのものとクルマと僕らの関係性が現在と違ったものになった将来、「2019年のオート上海が始まりだったね」と、振り返ることになるのではないか。それほど鋭くエッジの際立ったモーターショーだった。

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