車の最新技術 [2025.01.10 UP]
COPの崩壊とこれからの世界【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】
文●池田直渡 写真●国連気候変動
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アゼルバイジャンで開催された第29回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)が2024年11月24日、予定会期を延長して閉幕した。本来22日までの会期が延長されたのは、最も重要な議題の合意が形成できず、紛糾したからである。
その議題とは、「気候資金」である。インフラの普及が遅れている途上国では、気候変動による悪影響を強く受ける。気候変動による洪水や干ばつなどの気候災害に適応しながら、気候正義を実行し温室効果ガスの排出削減を進めていくには、巨額の資金が必要だが、途上国にはそのための資金が不足しているとして、途上国は1995年にリオデジャネイロで開催されたCOP1以前から先進国に対して「気候資金」を要求してきた。
産業革命以来、先進国は野放図に温暖化ガスを放出し、それらが新興国に深刻な被害をもたらしてきた。よってその補償と、新興国が気候正義を実行する資金を保障せよというのがざっくりとした趣旨である。今回のCOP29では、最終的にこの目標額を年間3000億ドル(約46兆円)。2035年までに官民合わせて年間1兆3000万ドル(約150兆45億円)に拡大することで合意した。
国連気候変動会議は11月24日、開発途上国の生命と生活を守るための資金を3倍に増額することに合意した(写真:国連気候変動 ルシア・バスケス・トゥミ)
しかしながら、趣旨を理解し、合意したとしてもあまりに巨額過ぎて払える金額ではない。例えば国連負担金の分配率と同等と見て、150兆円の約8%を日本が負担するとするならば、その金額は約12兆円。実に国家予算の約12%を毎年拠出することになる。あるいは消費税の12ポイント分と言い換えても良い。環境問題は確かに大事だが、それでは先進国側が破綻してしまう。
しかも、この巨額の合意について、インド代表のチャンドニ・ライナ氏は「この額は微々たるものだ」と発言している。つまり今回の合意は、一件落着とは程遠く、次回ブラジルで開催される予定のCOP30でも、気候資金はさらなる増額を求められ、今まで以上に紛糾を続けることが目に見えている。
それぞれに言い分はあるにしても、この対立は国連気候変動枠組み条約締約国会議の存続を難しくするだろう。払えない額を要求されればケツをまくるしかない。少なくとも先進国が揃って要求額を払う未来は全く見えない。何よりトランプ政権の米国はすでにパリ協定からの離脱を公言している。CO2排出量世界第2位の米国は、少なくともすんなりと要求を飲む可能性はほぼ無い。さらに言えば、CO2排出第1位の中国は途上国扱いで、気候資金を負担する予定は最初からないばかりか、もらう側に回る気だ。
支払いを負担しない大国が出てくれば、他国が大人しく割り当て分を払う着地点もないだろう。国連気候変動枠組み条約締約国会議は空中分解し、気候変動について国際的に話し合う場が失われる。
そうなれば、もう誰もCO2排出を顧みなくなることもありうる。最悪の場合化石燃料への全回帰という事態を迎えかねない。万が一CO2が規制されないということになれば、EVシフトに巨額の投資をしてきた自動車メーカーは、存続の危機を迎えることになる。
状況は変動的で未来を見通すことは難しいが、両陣営が飲める落とし所が見つかる可能性は極めて低いだろう。さて国連気候変動枠組み条約締約国会議が空中分解した後の世界は果たしてどうなるのだろうか。予測するのは難しいが、先に述べた通り、元の木阿弥で化石燃料に回帰するか、やはり気候変動問題は重要であるとして、意識の高い国だけでもカーボンニュートラル燃料(CNF)に切り替えを継続していくかである。フリーライダーの存在を容認しつつ、国際競争力上不利であることを覚悟してCNFシフトを実行していかれる国がどれだけあるかは予測のしようもない。
20世紀。われわれは次なる世紀には戦争もなくなり、国際調和に満ちた平和な世界の到来を信じていたのだが、いざ21世紀を迎えて見ると、想像とは程遠い未来が待っていた。国際的環境の話し合いは頓挫して決裂。ロシアはウクライナの首都に軍事侵攻し、中国は香港の民主化運動を鎮圧平定。
すでにロシアからは西側の自動車メーカーが完全撤退。中国からの撤退も相次いでいる。1989年のベルリンの壁崩壊によって到来したボーダレスの時代は、人もモノも金も自由に行き来する自由経済世界の実現に見えたのだが、いま時代は猛烈な勢いでボーダーによる分割世界へと変わりつつある。
自由貿易の旗手を自任してきた米国がインフレ抑制法で関税100%を発動。国境を無くし、通貨まで統合して自由経済の世界を進めようとしたEUもまた、中国に対し不当な助成金に対する高額な報復関税を設定した。世界は今明確にブロック化へと向かっている。
経済産業省「通商白書2024」より。政治的な分断が経済にも大きな影響を与えていることが示されている
自由経済世界、つまりグローバリズムの世界は今まさに閉じようとしている。特に自動車産業にとって非常に厳しい世界になった。自動車産業は典型的な設備産業であり、数千億円レベルの先行投資を、何十年も掛けて回収して行くビジネスである。天変地異や経済循環などどうしても避けられないリスクは当初から抱えているが、政治に伴うカントリーリスクは、まさに想定外の巨大リスクである。実際ロシアのケースなどは、米国が国際銀行間金融通信協会(SWIFT)でのロシアへの送金を止めた以上、ロシア国内でものを売っても、本国へ送金できない。それだけにとどまらず、部品や原材料の支払いもできないので、事業の継続が不可能になり、選択の余地なくロシアから撤退したのである。
自由経済は信用経済でもある。ルールが守られ、財産資産が不条理に毀損されないことが前提になければ経済活動はできない。という中で、権威主義国家が民間企業の経済活動を阻害するケースが増加しつつある。それは企業の存続に関わる由々しき問題である。
例えばロシアで大損をして撤退した国は、次にどうするか。仮に大きな市場があり、モノが売れる余地があったとしてもカントリーリスクが高い国は避けることになるだろう。
今回のCOP29では、色々事情があるにせよ、金の問題で揉めている。見方によるとは言うものの、被害者であることを傘に着て、飲み様のない額を要求されるとすれば、その国での事業はサステイナブルとは言えない。こういう紛糾をする国は投資先として避けられるだろう。
そういうリスクを認識すればするほど、企業が選ぶ進出先は、約束を守る国、ルールを守る国、そして民度の高い国になるのではないか。例えば、仮に多少人件費が高くとも、あるいは土地代が高くとも、コントロールできない要因が突如降ってくるより余程良い。
と言う意味で、権威主義国家や被害者主張の強い国家が忌避された後には、実は日本に大きな注目が集まる可能性がある。誠実に、思いやりを持ってビジネスを進める日本を維持した先には大きな果実が待っているかもしれない。2025年の年頭にそんな思いを持ったのである。
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江戸時代の商人はただ稼ぐばかりではなかった。