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1922年の1.5Lクラスで圧倒的な競争力 アルヴィス10/30 隠れたワークス・マシン(1)

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1922年の1.5Lクラスで圧倒的な競争力 アルヴィス10/30 隠れたワークス・マシン(1)

ミドルレンジ市場へ参入したアルヴィス

実は、日本にも少なくないアルヴィス・ファンが存在する。半世紀以上前に廃業した自動車メーカーの貴重な例を後世に継ぐうえで、喜ばしい事実といえる。ただし、アジア大陸を挟む遠い位置関係にあり、お互いに不便なことも起き得る。

【画像】隠れたワークス・マシン アルヴィス10/30 同年代の量産車 蒸気機関ロードローラーも 全107枚

今回のアルヴィス10/30のエンジン始動に必要な木製ブロックは、まだ東京に保管されているらしい。それがないと、冷間時には大人2人の手が必要になる。

スターターモーターへの通電と同時に、キャブレターの吸気用トランペットを手で塞ぐ。筆者も手伝いながら、1.5L 4気筒エンジンが目覚めた。

ブルブルと震え、カラカラと音を放つ。1920年代のクルマでありながら、電動スターターを備えるという事実が、高級車であることを物語る。

キャブレターで後に名を馳せる、ホーリー兄弟が所有するコベントリーの敷地を、トーマス・ジョージ・ジョン氏が購入したのは1919年。小型車へ迫るランニングコストを叶え、大型車に準じた品質を備える、新モデルの開発へ着手した。

その頃、フォードは大衆車の先駆者といえるモデルTを英国へ導入。ロールス・ロイスは、高級車を提供していた。その間に位置するミドルレンジ市場への参入を、トーマスは目指した。

外部への技術開発で事業を拡大させつつ、早くも1920年には初の量産モデルの準備が整えられた。そのエンジンには、アルミ製のピストンが組まれていた。ラテン語で、ビスは強さを意味した。この2つを組み合わせ、アルヴィスというブランド名が与えられた。

3500rpmで盛大に振動し始めるエンジン

この象徴的なエンジンは、ベントレーのショールーム・マネージャーを務め、軽量なピストンの有効性を唱えた、ジェフリー・ド・フレヴィル氏に影響を受けたもの。黎明期にあり、サイドバルブ構造の単純な4気筒ユニットではあったが。

高品質な部品を積極的に採用し、一定の実績があった技術を可能な限りブラッシュアップ。当時の1.5Lエンジンとしては不満のないパワーを発揮し、高回転域まで滑らかに上昇した。

エンジンブロックには、冷却用の経路をシリンダー周辺だけでなく、バルブシート側にも均等にレイアウト。クランクシャフトにはニッケル鋼を、ベアリングにはリン青銅を用いるなど、新しい素材も採用されていた。

もちろん100年前としては、という注釈が付く。最高出力が発揮されるのは3500rpmで、ここまで引っ張るとエンジンは盛大に振動し始める。フロントガラスを囲むクロームメッキの部品も、激しく震えて形がわからなくなるほど。

それでも、その頃としては驚くべき、4速もあるマニュアル・トランスミッションが載っている。60km/hから70km/h前後の速度なら、落ち着いた回転域を保って運転できる。最高速度は、時速60マイル(約96km/h)が主張されていた。

今回の1922年式10/30は、非公式ながらアルヴィスのワークスチーム・レーシングカーといっても良かった。コーチビルダーのクロス&エリス社が手掛けた2シーター・ボディで、それ以上のスピードが狙われていた可能性はある。

1.5Lクラスで圧倒的な競争力を披露

最初のオーナーは、アルヴィスの開発ドライバーだったジョー・ブラウン氏。ワークスチームが既にしのぎを削っていた時代に、プライベート・レーサーとして参戦する機会を意図的に与えたようだ。

プライベート・ドライバーの駆るマシンは、量産モデルの品質を明確に反映すると考えられていた。メーカーが表に出ないことが、マーケティング的には有利に働いた。

10/30のステアリングホイールを握ったブラウンは、ダートコースを走るトライアル・レースへ出場。ロンドン=ホーリーヘッドやロンドン=エディンバラ、ロンドン=ランズエンドといったイベントで優勝を飾った。

ケント・オートモービル・クラブが開催したヒルクライム・レースでは、ファステストタイムを記録。1460cc 4気筒エンジンの信頼性は確かに高く、1.5Lクラスで圧倒的な競争力を見せつけた。

ところが後年、アルヴィスのブランドを継いだレッド・トライアングル社の技術者がエンジンをバラすと、排気量が100ccほど拡大されていたことを発見している。モータースポーツでの不正疑惑は、決して新しい問題ではなかったようだ。

慣れが必要なトランスミッション

実際に10/30を運転してみると、このマシンでロンドンからグレートブリテン島北部のエディンバラまで走破したという事実に、驚嘆させられる。現代的なモデルに甘えてきた、筆者の場合は特に。

トランスミッションの取り扱には、慣れが必要。1速へ入れる時は、かなりの力でレバーを押し込む必要がある。走り始めてからも、アクセルペダルの角度を加減しながら、次のスロットへ倒す作業が求められる。

クラッチを2度踏みつつ、適切な回転数までエンジンをなだめる。コツを掴めば、それほど難しくはない。シフトダウンは、ギアの回転を予想しながらアクセルペダルを軽く踏めば問題ない。

シフトレバーはドライバーの右側。ボディへ接する位置から伸びており、細いレバーの動きを、目で毎回確かめる必要がある。

ありがたいことに、コーンタイプのクラッチの繋がりは理解しやすい。ペダルは相当重いが、戦後の高性能モデルに必要な筋力と比べれば、遥かに優しい。

3速までは基本的に加速用。4速と大きく離れたギア比が、弱点のようだ。

一般的にクラシックカーでは、登り坂で徐々に減速し始めたら、ステアリングホイール上のレバーで点火タイミングを進めると、粘り強く登ることになっている。だが、排気量の小さい10/30では目立った効果は得られない。アクセルペダルを蹴飛ばすしかない。

この続きは隠れたワークス・マシン(2)にて。

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みんなのコメント

1件
  • 昔の車は点火が「自動進角」じゃ無いので手動でやらないといけない。だいたい「戦前」の車は何でも手動だったと言う。戦後の昭和三十年代頃まではそういう車がまだ残っていたと私は御年配の方に伺いました。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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