自動運転技術の最先端の話題を紹介する本連載、第17回となる今回は「自動運転中の車内はヒマになる? ドライバーが運転操作から解放されるということは、車内でお酒を飲んでもいいってこと??」について、検討します。
結論を先に書いておくと、自動運転技術搭載車を運転していても、思っていたほどヒマにはならないし、お酒を飲むなんてとても無理そうです。詳しくは以下、本文を。
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文/西村直人 写真/奥隅圭之、メルセデスベンツ、Adobe Stock(アイキャッチ写真は@ metamorworks)
シリーズ【自律自動運転の未来】で自動運転技術の「いま」を知る
■運転中にDVDで映画は流せるけど…
自動運転技術のうち、レベル3を実装した車両ではドライバーに自由な移動時間が提供されます。
運転操作にとらわれることなく、移動の時間をより有意義に使えることから、移動の質が向上すると注目されています。
しかし、実際に公道でレベル3技術を搭載した条件付自動運転車のステアリングを握ってみると、筆者は複雑な印象を抱きました。
それは独特な緊張感を伴うからです。
便利で快適なレベル3技術では、ドライバーがいつでも運転再開できる状態を保つことが稼働条件のひとつに掲げられていて、同時にそれに従うことがドライバーの責任であると定められています。このことは本連載の第15回に詳細をレポートした通りです。
第15回 自動運転車の事故はドライバーの責任? クルマの責任??
レベル3技術が正常に稼働している段階では、システムからの呼びかけにすぐさま応じ、ドライバーによる運転操作が行えることを条件に、カーナビ画面を注視したり、DVDなどの観賞ができたりします。
「レベル3」の自動運転技術の場合、車内でDVDを再生し、それを鑑賞することができる(もちろんハンドルから手を離すこともOK)
この仕組みについては当連載で過去に数回、詳細なレポートで報告しています。
(1)アクセル&ブレーキ操作の部分的な解放(フットフリー)
(2)ステアリング操作の部分的な解放(ハンズフリー)
(3)ドライバー視線による自車周囲監視からの部分的な解放(アイズフリー)
上記3つの項目について、システムが正常に稼働している場合に限り解放されるわけです。
その上で現時点、国際的にレベル3技術の稼働可能な上限速度を60km/hとし、併せて同一車線のみであることも条件として定められています。
実際、市販車として世界初のレベル3技術を有するHonda SENSING Eliteを搭載した「レジェンド」では、30km/h以下で稼働を開始し、上限を50km/hまでに制限して、車線変更は伴いません。
こうした条件が付くとはいえ、運転操作から部分的に解放されるとドライバーは快適になる……。これはイメージしやすいと思います。
一方、ある種の緊張感とはどういったものなのか、具体例を挙げて紹介します。
■「レベル3」では到底無理
人は脳への情報のうち80%以上を視力から得ています。よって、レベル3稼働時に許されるカーナビ画面であれば詳細な地図情報が、同じくDVD観賞であればストーリー性のある映像が眼から脳へと入力され続けます。
また、見る行為だけでなくカーナビであればルートの詳細な設定など、スイッチ操作や画面タッチがレベル3稼働時には行え、DVD観賞では同時に音声が耳に届くことから没入感が一層高まります。
筆者がレベル3技術を公道試乗している際、何度かシステムから運転再開の要請がありました。このシステムからの要請はTOR(Take Over Request)と呼ばれ、システムの運行設計要件であるODD(Operational Design Domain)から外れそうになる際に発せられます。
わかりやすく説明すれば、システムが手に負えなくなると判断する状況に近づくとTORが発報されるわけです。
従って、ドライバーは目線こそ自車周囲に向けていなくとも(=液晶画面を見ていても)、自車周囲で高まる危険な状態を肌身で感じなければなりません。第六感を働かせるといったら大げさですが、通常の運転操作とは異なる緊張感を保つ必要があるのです。
当然、そうなれば飲酒状態での単独乗車は、現状のレベル3環境下ではあり得ません。TORに従い、ドライバーによる手動運転が課されるからです。このことは道路交通法でも禁止であると定められています。
日本でも厳罰化が進み、世界中でも問題視されている飲酒運転。自動運転中なら可能…なのか……というのはひとつの論点として重要だが、現時点(公道でのレベル3)ではとても無理(Adobe Stock@andriano_cz)
さらに筆者の場合、システムからのTORを受けて、ステアリングを握りペダル類のスタンバイをしたところで、運転操作をすぐさま再開することが出来ませんでした。
なぜなら、カーナビやDVDを映し出す液晶画面に目線を落としていたことで、自車周囲の目視による安全確認がその間、疎かになっていたからです。TORを認識→、運転再開のスタンバイ→、運転操作へ気持ちを切り替え→、目視による安全確認。これら一連の運転再開動作を完了するまでに、筆者の場合は3~5秒程度かかりました。
こうしたレベル3稼働時に伴う緊張感は、危険度が低いと思われる自車速度の低いシーンでも強いられます。
■有能な運転者でも避けられない事故は
Honda SENSING Eliteのレベル3稼働時は、前走車との車間距離をいつも以上に保つ傾向(前走車との車間距離設定が通常のACC4段階から、「遠い」と「やや遠い」の2段階に限定)がありますから、複数車線の高速道路などでは渋滞時、隣車線からの割り込みが高い確率で想定されます。
今年(2021年)3月にホンダから「レベル3」を搭載したレジェンドが100台限定で発売された。このクルマが実際に公道を走り出したことで、自動運転技術は新たなフェイズに入っている
仮に、割り込み車両が4輪車であれば、レベル3での減速ブレーキが働き、減速度が足りない場合は、さらに強いブレーキが掛けられる「衝突被害軽減ブレーキ」が高い確率で作動します。
しかし、ボディが小さな二輪車であったり、衝突予測時間であるTTC(Time To Collision)が1秒以下であったりすると、たとえ30km/hで走行していても1秒間に8m以上進むわけですから、目の前の割り込みには対応しきれない場合があります。
国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)では、レベル3要件のひとつに、「少なくとも注意深く有能な運転者と同等以上のレベルの事故回避性能」があることを掲げています。
ということは、有能なドライバーでも物理的に避けられない、先のような割り込み状況で発生する事故の可能性は、レベル3搭載車であってもあり得るという判断が成り立つのです。
■「それならレベル2と同じじゃないか!」
さて、こうした事実関係を経て本テーマである移動時間の有効活用術とはどういったことなのでしょうか?
ズバリ、結論から。
レベル3最大の目的は、事故ゼロ社会の実現に向けた最適解のひとつになることです。そのためにドライバーの負担軽減として現在のレベル3、いわゆる条件付自動運転車が存在します。
言い換えれば、事故ゼロ社会の実現に向けた手段として運転操作の負担軽減があり、その負担軽減を受けたドライバーが、より快適に、そしてシステムの見護りを受けながら目的地まで安心・安全に到着することを目指した技術がレベル3である、これに尽きます。
「ならば、レベル2の運転支援車と同じじゃないか!」と考える読者もおられるでしょう。
確かに、レベル3のシステムにはレベル2にはないアイズフリーが追加されているものの、フットフリーやハンズフリーはレベル2の運転支援車でもドライバーに提供されています。スカイラインの「ProPILOT2.0」やレヴォーグの「アイサイトX」などは、いくつかの条件が付くもののドライバー責任のもとハンズフリー走行が行えます。
レベル2とレベル3の違いはどこにあるのかは重要な論点。それは「自動運転技術の目的」にもおおいに関係してくる
我々にとって最大の関心事であるレベル2とレベル3の違いは、システムの確かさにあります。
専門用語で冗長性と呼ばれるこの定義は、ユーザーからすれば冗長性に長けているほど、システムが正しく稼働する時間や走行条件が増える、そう理解できます。
例えば、道路上の白線(黄線)がかすれてしまい、レベル2の光学式カメラでは車線中央維持機能の精度が下がってしまう場合でも、レベル3では全球測位衛星システムであるGNSS(Global Navigation Satellite System)情報や、高精度地図情報(HDマップ)に書き込まれた車線区分線や規制速度情報を元に、より安全で精度の高い運転支援を行います。
レベル2の「ProPILOT2.0」や「アイサイトX」などでも、運転支援の精度を高めるためにHDマップの類いを活用していますが、LiDAR(光)センサーを追加するなどレベル2以上に複数種類の車載センサーをフル活用するレベル3が、例えば自車位置を把握する能力面では優れています。
レベル3ではさらに、要件に電源システムの二重化も加わっていることから、フェイルセーフの面からも一段高いシステム設計が施されています。
加えてレベル3には、TORを発した際にドライバーに対してその状況をわかりやすく、正確に、素早く伝える、人と機械の接点である専用のHMI(Human Machine Interface、~interactionとも呼ぶ)の実装が不可欠で、これはWP29の決定事項にも定められています。
具体的には、車内各所に配置されたLEDカラーの変更やそれらの点滅、さらには警報ブザーやシートベルト巻き上げ機能など、いわゆる五感に訴えかける体感警報により、ドライバーの振るまい(例/運転操作の再開)を強く導くHMI設計が、レベル2以上にレベル3ではなされているのです。
ちなみにHMIは、この先、進化する自動運転技術に歩調を合わせて重要性が飛躍的に高まります。
■次の段階(レベル4)へと駒を進めるとき
2017年10月、筆者はフランクフルトモーターショーの会場でダイムラー社のディーター・ツェッチェCEO(当時)に、「自動運転車両にとって不可欠で、重要なHMIな何か?」という質問を行ないました。
そこで氏は「それはボイスコマンド機能だ」と即座に回答。続けてツェッチェCEOは、「それには条件があり、これまで使われてきた汎用ボイスコマンド機能(例/カーナビ操作用の単純な言語認識機能)とは違う、AI(人工知能)とクラウドを併用したシステムが不可欠になる。また、自動運転の技術開発が進めば同乗者とのコミュニケーションにもボイスコマンド機能は重要だ」と答えました。
メルセデス・ベンツ各車に搭載されるMBUX。自動運転技術の方向性にも各メーカーの個性が反映されるのがおもしろい
そうした意味で捉えると、現行Aクラス以降、新型Sクラスや最新Cクラスなど、メルセデス・ベンツ各モデルが搭載しているMBUX(Mercedes-Benz User Experience)は、人と機械の共通理解を促進するツールとして重要なHMIであることがわかります。
さらに将来的には、車両の制御面にまでボイスコマンド機能が及ぶことも考えられ、そうなると自動運転技術との連動も当然のこととして議論されるでしょう。
ディーター・ツェッチェ氏(Dr. Dieter Zetsche)。元ダイムラーAG取締役会会長(2019年5月に退任)
2021年3月、レベル3搭載車の市販化がスタートしました。この先は、レベル4搭載車の実用化へと駒を進めます。
まずはMaaSの領域から実用化されるレベル技術4ですが、ここでは緊急時であっても乗員の運転操作を期待しないことが定義されていることから、レベル3におけるTORのような緊張感が伴わず、純粋に移動の質を高められることが期待できます。この点については、追って解説します。
また、内閣府ではレベル4技術を最適化して高速道路上を走行する大型トラックに実装し、3~5台の隊列走行(カルガモ走行とも言います)を2025年度以降に実用化を目指すとしています。
次回は、その大型トラックの自動運転技術の現状と、その礎となる高度な運転支援技術、そして将来像について最新情報を交えてレポートします。
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