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初代“ハチロク”の魅力とはなにか? Vol.2 モータージャーナリスト・山田弘樹編

掲載 更新 17
初代“ハチロク”の魅力とはなにか? Vol.2 モータージャーナリスト・山田弘樹編

1983年に登場したAE86型のトヨタ「カローラ・レビン」と「スプリンター・トレノ」には、根強いファンが多い。AE86型のリバイバル・モデルともいうべき新型「GR86」発売を目前に控える今、あらためて初代の“ハチロク”の魅力をオウナーたちが語る。第2弾は、スプリンター・トレノを所有するモータージャーナリストの山田弘樹さん。

4台乗り継いだハチロク

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私が初めて“ハチロク”を手にしたのは、たしか22歳の頃。いまから30年近くも前の話で、そこから4台のハチロクを乗り継いでいる。なんでそんなに、ハチロクばかり乗り続けたのか?

それは単純明快、ハチロクが“現実的に買えるRWD(後輪駆動)車”だったからだ。うん、それに尽きる。

Vol.1 モータージャーナリスト・大谷達也編

最初に買った2ドアのスプリンター・トレノGT(後期型)は、2オーナー&無事故車だったから43万円、と、高かったが、そのあと1番長く(15年ほど)乗った1986年型カローラ・レビンGTーAPEXの3ドアは、社会人1年生のとき友人(モータージャーナリストの島下泰久君)から、12万円で譲り受けた。

今乗る赤パン(赤いパンダ・トレノ※)は、カローラ・レビンのボディが錆びてきたとき、格安の条件でスプリンター・トレノの“ボディ”と巡り会い、カローラ・レビンの中身を移植。そこから10年ほどの付き合いとなっている。

※パンダ・トレノとは、2トーン・カラーモデルの愛称。

ハチロクはかつて、先輩からおんぼろをタダ同然でもらったり、20万円くらいで買ったりするクルマだった。だから貧乏青年にも、スタートを切ることができたのである。

さらにハチロクは、維持しやすいクルマだった。

さすがはトヨタが作ったクルマだけに、“もち”が違うのだ。同年代のホンダ「シビック」なんかと比べても内装が形を残していたし(笑)、4A-GEUエンジンも頑丈だ。

また生産から10年経っていても、普通に部品が買えた。今ではその数もだんだん減ってきたけれど、まだ買える部品があること自体が驚くべきことだ。

簡単なことではないがトヨタには、今後も部品供給を継続し、できれば生産終了したパーツを復刻してもらいたい。それが今もハチロクに乗り続けている人たちを助け、不当な相場価格の高騰を抑える一因になると思う。

楽しみながら技術を磨ける

そんなハチロクは、ドライバーをもリーズナブルに鍛えた。

いつだったか筑波コース1000の走行会で、シビック・タイプR(FD2型)のオウナーと隣同士になって、うらやましがられたことがある。

油温の上昇も、水温の上昇も、タイヤの消耗も気にせず、ずーっと走りまわっていられるハチロクを見ていて「とても楽しそうだ」というのである。

油温・水温の管理ができていたのは、きちんとラジエターのコア増しをして、オイルクーラーを備えていたからだ。それでもシビック・タイプRのような高出力エンジンよりは、負担が少ないのかもしれない。

タイヤは15インチにアップグレードしていたけれど、やはり彼にとっては小さく見えたのだろう。確かにハチロクの車重は1tちょっとで軽いから、タイヤやブレーキの負担が少ない。だから筆者は、バターになるまでコースを走りまわっていた。

つまりハチロクは、そういうクルマなのである。エンジンがノーマルの場合、スタートダッシュで今どきの軽自動車に抜かれるくらい遅い。手に入れたらすぐ、漫画『イニシャルD』ばりのドリフトができるようになるイメージがあるかもしれないが、ホイルベースが短いから、これがなかなか難しい。

でも、だからこそ、運転が巧くなる。お腹いっぱい走って、楽しみながら技術を磨けるRWD車なのだ。

新型GR86を選んでも良いではないか!

新型GR86(とSUBARU BRZ)は、ハチロク乗りから見れば、うらやましいほどの完成度だ。

クーペボディの剛性は高いし、足まわりも作り込まれているから、素のままでサーキット走行をも楽しめてしまう。しかも普段乗りはとても快適だ。

スバル製の水平対向4気筒エンジンは、4A-GEUほど高揚感のある吹け上がりではないけれど、頑張っている。厳しい環境性能をクリアした上で、現代の自然吸気エンジンとしては高回転型となっているし、直列4気筒に比べ重心が低く、それが好ハンドリングに貢献している。

ただ価格的には、すでに発表されているSUBARU BRZのスタンダードなグレード「R」で308万円と、ハチロク目線で言うとチョット高い。どちらかといえばワンランク上の、トヨタ「セリカ」のイメージである。

だから本当はハチロクを名乗るなら、ハッチバックにして欲しかった。ボディ剛性は落ちてしまうけれど、より荷物が沢山積めて、カジュアルに使えるクルマであれば、販売台数が見込めて価格も下げられたのではないか? 商売とは、そんなに簡単なものではないのだろうけれど。

では現在の初代ハチロクがどうか? と、いえば、これも相当に変なプレミアが付いている。

中古車サイトを眺めても、1番安くて200万円を下まわる個体が1台もなく、果ては300万円台後半から「応談」物件が出てくる始末。

本当は、探せばまだ“掘り出しもの”のハチロクもたぶん見つかる。友人やツテをたどれば市場価格より遙かに安いボロハチはあるはずだが、一般的な買い方をする限り、もうハチロクは“安いRWD”ではなくなっている。

だったら筆者は、わざわざ古いハチロクなんて買わないで、現行GR86を手に入れた方がいいと思う。なんだかんだと古いところを直し、走れるようにするまでの金額や苦労を考えると、その行程を楽しめない限り、最初から高い完成度を持ったGR86を選んだ方が近道であると思うのだ。

ハチロクは私にとって、いつの間にか家に居着いた猫のような存在で、もはや乗り続ける意味など考えないほど自然な関係にある。

猫は長生きすると、9つの尻尾が生えるというように、ハチロクもなんだか化けてしまったが、飼い主からしてみればフツーの“タマ”であり“ミケ”なのだ。

そしてGR86も、長く乗り続ければそういう存在になれると思う。

Vol.1 モータージャーナリスト・大谷達也編

文・山田弘樹 写真・安井宏充(Weekend.)

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