トヨタ系のチーム、チューナー、コンストラクターとしてトップを快走するTOM’S
SUPER GTやSUPER FORMULAなど日本のレースのトップカテゴリーで活躍するレーシングチームのTOM’Sは、その一方で、トヨタ系のロードカーに関するチューニングパーツや、ロードモデルをベースとしたコンプリートカーなども数多くリリースしてきました。言うならばトヨタ系のチューニング・ブランドとしてトップを走り続けてきたのです。
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そこで今回はレーシングチームとしてだけでなくチューニングパーツのメーカー/チューナーとして、あるいはコンプリートカーのコンストラクターとしても活躍してきたTOM’Sの歴史を振り返ってみましょう。
第一次のオイルショックを契機に誕生
TOM’Sが産声を挙げたのは1974年2月のことでした。その前年に始まった第一次オイルショックの影響でトヨタはレースにおけるワークス活動を休止することになります。そこで当時ワークスドライバーとしてトヨタと契約していた舘信秀(当時は本名の舘宗一で活動)さんがモータースポーツ活動を継続するために、トヨタ系ディーラーのスポーツコーナーで責任者を務めていた大岩湛矣さんと共同で立ち上げたモータースポーツの拠点、それがTOM’Sでした。
因みに、このネーミングは舘(Tachi)と大岩(Ohiwa)、そしてモータースポーツ(Motor Sports)のイニシャルを繋げたものです。そしてその名の通り、レースに魅せられた2人の、二人三脚が始まったのです。
ワークスカーをレンタルしてレースに参戦
産声を挙げたTOM’Sですが、当初の活動はトヨタが開発していたワークス仕様のツーリングカーをレンタルしてレースに参戦することでした。ドライバーとしての舘さんだけでなく、それまでユーザーサービスが主な業務だった大岩さんも、実際にワークスマシンを手掛けることで、TOM’Sとしてのポテンシャルは確実にアップしていきました。
今でも印象に残っている代表的なモデル(競技車両)はスターレット(KP47改)でしょう。KP47スターレットはヤリスのご先祖様にあたるモデルでパブリカの後継モデル。2ドアクーペに1L/1.2Lのプッシュロッド直4エンジンを搭載していましたが、レース車輌では1.2Lの3Kエンジンを1.3Lまで排気量アップし、さらにレースオプションのツインカム16バルブヘッドを組み込んだレース専用エンジンの137Eを搭載したものでした。
デビューした73年から数年間は、1.3L以下クラスのツーリングカーレースでは無敵の王者となりました。その原動力であったのがTOM’Sだったのです。
その後もトヨタの“隠れ”ワークスとしてグループAによる全日本ツーリングカー選手権(JTC)や2Lの4ドアセダンで戦われる全日本ツーリングカー選手権(こちらはJTCC)、さらには今のSUPER GTへと続いてゆく全日本GT選手権(JTCC)などにも、トヨタ車で参戦、目覚ましい活躍を続けました。
海外から車両を購入 やがてオリジナルマシンも
トヨタからワークスマシンをレンタルするだけでなく海外で活躍するレーシングマシンを購入したこともありました。79年のことですが、ドイツのシュニッツァーが製作したグループ5(Gr.5)仕様のセリカ・ターボを購入して富士のスーパー・シルエット(SS)レースに参戦したのです。
トラブルに見舞われるケースも少なくなかったのですが、その速さはライバルを圧倒していました。そして、そのセリカ・ターボを走らせたノウハウをベースに、国内で屈指のコンストラクターである童夢と共同してオリジナルのレーシングマシンを開発することになります。
その第一歩が80年にデビューしたセリカ・シルエットフォーミュラで、さらに81年にはカローラG5も登場。そして83年からは本格的なグループC(Gr.C)へと活動範囲を広げていきました。
もちろん、車輌の製作だけでなく、これを使ったレース活動も継続していきました。Gr.Cでは当時の絶対王者の存在でもあったポルシェが強かったのですが、毎年のようにアップデートを続け、やがてトヨタがワークス活動を再開するようになると、この絶対王者を打ち負かしています。このトヨタのワークス活動の水先案内を務めたのもTOM’Sなのでした。
F3でも車両をコンプリートで製作しトップコンペティターに
TOM’Sの活動範囲はいわゆる“ハコ”のレースに限られていたわけではありません。
フォーミュラ、中でもF3での活動は世界的にも認められるものでした。79年に国内でF3レースが始まると早速、TOM’Sはエンジンチューナーとして参戦を開始します。この時はイタリアのノヴァモーターで製作された2T-Gエンジンを手掛けていましたが、やがてはトヨタの3S-Gをベースにしたオリジナルエンジンを完成させます。
そしてレーシングチームとしても参戦を開始しますが、やがてはオリジナルのシャシーも手掛けるようになりました。それが90年シーズンの最後にデビューし91年から本格参戦を始めたトムス031F~034Fです。
イギリスに本拠を構えていたトムスGBで開発された031Fシリーズは、トムス製の3S-Gエンジンを搭載することに特化した特性を持っていました。そして90年代前半の全日本F3で大活躍。何度も王者に輝くとともに、92年の11月には、F3の世界一決定戦として知られるマカオGPで全日本王者のリカルド・リデルが見事優勝。TOM’SはF3でも世界の頂点に立ったのです。
有望な原石を見つけ磨く ドライバー育成
近年ではトヨタやホンダといった自動車メーカーが、レーシングカートから有望な人材を発掘し、ミドルフォーミュラからスカラシップでステップアップさせていくシステムを構築していますが、それよりもはるか昔から、TOM’Sでは若手ドライバーを育て上げてきました。
古くは、舘さんの後を継ぐ格好でスターレットをドライブした鈴木恵一さんの抜擢に始まり、近年ではTOM’Sで全日本F3を戦いチャンピオンとなってステップアップし、17年には国内トップカテゴリーの双璧の一つ、SUPER GTのGT500クラスでチャンピオンとなった平川亮/ニック・キャシディの両選手も、TOM’Sで育ったドライバーと言っていいでしょう。
そう言えば、現在では国内有数のトップチームAUTOBACS RACING TEAM AGURIを主宰している鈴木亜久里さんも、TOM’Sで育ったドライバーの一人です。
レーシングカートで活躍し、大きな注目を集めて全日本F3へとステップアップしてきた彼は、資金難に苦労することになりました。そんな彼がドライブしていたハヤシレーシングのF3のエンジンをメンテナンスしていた関係から、TOM’Sは彼を応援しようと決断。若き日の亜久里少年は、TOM’Sの多摩工場でアルバイト。発送するパーツの梱包に励んでいたそうです。彼のエピソードは有名ですが他にも多くの若者が、レースでステップアップしていく未来を夢見ながら、多摩工場でアルバイトに励んできました。
クルマとモータースポーツへの愛
レースに参戦したりレーシングカーを開発するモータースポーツ活動だけでなく、TOM’Sはロードゴーイングの世界でも、その存在感が光っています。
トヨタ系のチューニングパーツは有名ですが、実は94年の東京オートサロンではミッドシップの2シーター・クーペ、エンジェルT01を発表しています。
その流れを汲んだモデルとして、今年の東京オートサロンではGRスープラとセンチュリーをベースにした2台のコンプリートカーをお披露目しています。
その一方で今シーズンもまたSUPER GTやSUPERFORMULAのトップカテゴリーに参戦するTOM’Sは、先に行われたSUPER GTの開幕戦では、これがデビュー戦となるGRスープラでポールtoウィン。レース中のベストラップをマークするとともに決勝では1-2フィニッシュ。完璧な勝利で幸先良いスタートを切っています。
コロナ禍で暗くなりがちなサーキットでも、TOM’Sのピットはにこやかな笑顔にあふれていました。もちろん、好成績がそうさせたのは見逃せませんが、それだけではないような気がします。
TOM’Sから旅立ち、現在では他メーカーでモータースポーツにかかわっている人たちの多くが、TOM’S時代を懐かしみながら話してくれるシーンに、何度となく立ち会ってきました。そう、モータースポーツでテクノロジーを磨き、ノウハウを培ってきたTOM’Sですが、それだけではなくクルマとモータースポーツ、そしてそれに関わる人たちへの愛があふれているのでしょう。TOM’Sの快走は、これからもずっと続いていくに違いありません。
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