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【パワーこそすべて】大排気量V8エンジン アメリカン・マッスルカーの歴史

掲載 更新 13
【パワーこそすべて】大排気量V8エンジン アメリカン・マッスルカーの歴史

清涼飲料水とマッスルカー

text:Ronan Glon(ロナン・グロン)

【画像】フォード・マスタング、シボレー・コルベット 新旧マッスルカー対決 全115枚

大排気量高出力のV8エンジンを搭載し、高速でありながら手頃な価格で手に入れることができたマッスルカー。

アメリカでは清涼飲料水と並んで愛されてきた。

パワーを身近なものにしてくれたマッスルカーが全盛期を迎えた1960年代は、クルマ好きには最高の時代といえるだろう。

石油禁輸措置とそれに伴う排ガス規制により、1970年代には大幅にシェアが縮小し、消滅の危機に瀕した。

だがやがて、発祥の地であるデトロイトとともにルネッサンスを迎えた。

ここでは、マッスルカーがどのようにして生まれたのか、どのように偉大な存在になったのか、そして今
の姿を紹介する。

先駆者たち

アメリカの自動車メーカーは、「マッスルカー」という言葉が一般的に使われるようになるずっと前から、パフォーマンスの民主化を始めていた。

オールズモビルは1949年にロケット88(写真)を発表し、比較的小型のクルマに大きなエンジンを搭載した最初の企業の1つとなった。

クライスラーはこのコンセプトを磨き上げて305psのC-300を発売。1955年にはアメリカで最もパワフルなクルマとして名を馳せた。

人気の火付け役

1960年代初頭には、パフォーマンスモデルが高く売れることが明らかになった。

多くのメーカーのラインナップに「パワー」が徐々に浸透していった時代だ。

スチュードベーカーは1960年代初頭、V8エンジン搭載車(ラルクやアバンティなど)にスーパーチャージャーをオプションで付けて提供したこともあった。

その後、1962年のモデルイヤーには、シボレーがリアエンジンのコルヴェア(写真)にターボチャージャーを搭載して、社会運動家のラルフ・ネイダーを激怒させた。

コルヴェアは結局、GMとネイダーとの争いに巻き込まれて生産中止に追い込まれている。

一方、ダッジは、量産モデルでありながら4分の1マイルで13秒台を記録できるダートを生み出した。

ポンティアックGTO

ポンティアックGTOは、間違いなくアメリカ初の本格的なマッスルカーである。

ポンティアックはテンペストの高速でパワフルなバージョンを作ろうとしたが、親会社のGMはAボディ車に5.4Lの排気量制限を課していた。

ところが開発者たちは、この制限がオプションには適用されないことに気づいた。

また、大型モデルの6.3L V8が、大きな改造なしでテンペストのエンジンルームに収まることも判明した。

ポンティアックは1964年に「テンペスト・ル・マン」のオプションパッケージとしてGTOを発売したのである。

この8気筒エンジンは、4バレルキャブレターを1基装着した場合に330ps、2バレルキャブレターを2基装着した場合は352psを発生させた。

その結果、1964年には3万2000台以上のGTOを売り上げたが、これはポンティアックの予想をはるかに上回る数字であった。

フォード・フェアレーン・サンダーボルト

フォードがフェアレーン・サンダーボルトを作ったのは、純粋にホモロゲーション(認証)を得るためだった。

採用されたのは「小型車、大型エンジン」という実証済みの方式だ。

当時のフォードのミッドレンジモデルであったフェアレーンには、大型のギャラクシーから流用した7.0L V8エンジンが搭載された。

このエンジンは430psを発揮するようにチューニングされている。

さらに、ボディにはプレキシグラス、アルミ、ガラス繊維などを使用して軽量化を図っている。

公式には100台が生産数の上限とされていた。その多くは、ドラッグレーサーたちの(愛のある)手によって荒らされることになった。

AMC AMX(1968)

AMCは1968年2月、デイトナ・インターナショナル・スピードウェイで開催されたプレスイベントでAMXを発表した。

これには2つの目的があった。

第一に、活況を呈するマッスルカー市場への参入である。AMCジャベリンの上位モデルであり、その使命はマスタングやカマロの王座を奪い取ることだった。

第二に、AMCのデザインとエンジニアリングに対する最新のアプローチを示すものであった。経済性優先というブランドイメージを覆すべく生まれ落ちたクルマだった。

AMXはライバル車よりも少し小柄だが、パワーは劣っていなかった。最上位モデルのエンジンは6.4L V8で、320psを発揮する。

価格設定も競争力のあるもので、ベースモデルは3245ドル、現在の金額で約2万3000ドル(246万円)からとお手頃だった。

ダッジ・チャージャー(1968)

ダッジは1968年モデルとしてチャージャーのデザインを一新し、パワーの劣るコロネットとの差別化を図った。

スタイリングを変更するにあたり、デザイナーたちは素晴らしい仕事をしている。

ルーフラインを微調整し、既存のファストバックスタイルから離れ、丸みを帯びたテールライトを装備。これらの変更により、チャージャーは当時最も現代的なマッスルカーの1つとなった。

ベースとなったチャージャーの価格は3014ドル(現在では約2万1000ドル/224万円)。そこに466ドル(現在では約35万円)を上乗せすれば、高性能なチャージャーR/Tにステップアップすることができた。

チャージャーR/Tは380psの7.2L V8エンジン、3速AT、改良されたブレーキとサスペンションを搭載している。

マッスルカーの絶大な人気もあって、1968年に9万6100台を売り上げた。

大ヒットしたテレビドラマ「デュークス・オブ・ハザード(爆発!デューク)」に登場したことでも有名である。日本でも放送され、「リー将軍」という愛称で親しまれた。

フォード・マスタング・シェルビーGT500(1967)

フォード・マスタングは、一般的に知られているイメージとは逆に、マッスルカーではなかった。

当時副社長だったアイアコッカは、スポーツカーのような外観の「スポーティカー」として初代マスタングを売ろうとしていた。

コンパクトかつ手頃な価格で、性能も比較的控え目であった。

チューニング王キャロル・シェルビーは、そんな大人しいマスタングに、マッスルカーの領域へ足を踏み出すべく自信を持たせたのである。

シェルビーが背中を押したマスタングはGT350と呼ばれ、1965年に登場。最高出力310psを発揮した。

2年後に発表されたGT500は、ル・マンで勝利を収めたGT40で使用されたユニットから派生した7.0L V8エンジンを搭載していた。

プリムス・ロードランナー(1968)

1960年代後半になると、パワーレベルの上昇に伴い、マッスルカーはますます高価になっていった。

プリムスは、ベルヴェディアとサテライトの中間に位置するロードランナーという名の、中価格帯のモデルを開発する機会を得た。

これは、GTXに代わるモデルであった。

ロードランナーには、340psを発揮する6.2L V8エンジンが採用された。

3400ドル(現在では257万円)の車両価格に追加で714ドル(現在では約53万円)払えば、パワーを430psに引き上げることができた。

ロードランナーの全モデルには、漫画のキャラクターを模した「ミッミッ(Beep Beep)」と鳴るホーンが装備されていた。

ダッジ・チャージャー・デイトナ(1969)

ダッジは知る人ぞ知る「日曜日に勝ち、月曜日に売る」というモットーで生きてきた。

レースで勝てばクルマが売れると言われていた時代だ。

ダッジはNASCARで打ち勝つために、チャージャー・デイトナを開発。エンジニアは空力性能の向上に注力した。

開発陣はノーズコーン、フラッシュマウントのリアウィンドウ、そしてトランクリッドの上に高さ58センチの巨大なウィングを装着。印象的なスタイリングに仕上がった。

この投資は実を結んだ。チャージャー・デイトナは、NASCARレース中に時速200マイル(321km/h)の壁を破った最初のクルマとなったのである。

姉妹会社のプリムスも、同様の方法でロードランナーをスーパーバードに仕立て上げた。

その後、レース関係者は、チャージャー・デイトナとプリムス・スーパーバードの兄弟車(ウィングド・ウォリアーズ/翼の戦士)の参戦を禁止するためにルールを変更している。

フォード・マスタング・ボス429(1969)

フォードはNASCARのホモロゲーションルールを満たすために、マスタングに7.0LのV8エンジンを積み込んだ。

スターティングラインに立つためには、このエンジンを500台製造する必要があったのだ。

V8はボンネットに切り込まれた大きなスクープから呼吸していた。

ボス429は1969年と1970年にフォードのカタログに掲載された。生産台数は1358台。

シボレー・シェベルSS(1970)

シボレーは1970年のモデルイヤーに向けて、シェベラにシャープなデザインを与えた。

4ドアサルーン、4ドアハードトップ、ステーションワゴン、コンバーチブル、クーペなど、これまでと同様に多彩なラインアップが用意された。

特に後者は、グリルにSSのエンブレムをつけたことで、マニアの興味をそそった。

親会社のGMは1970年に排気量規制を解除し、各部門はライバルとの馬力競争に負けないように巨大なV8エンジンを搭載してパワーダイヤルを上げることができるようになった。

シェベルはこの恩恵を大きく受けた1台だ。マッスルカーの王様と呼ばれることもあるSS454は、膨らんだボンネットの下に365psを引き出す、7.4L V8を搭載していた。

オールズモビル4-4-2(1970)

GMが排気量の制限を解除したとき、オールズモビルは大歓声をあげた。

シボレーと同様、すぐに大排気量化に手をかけたオールズモビルは、7.3L V型8気筒を4-4-2の標準のパワーユニットに選んだ。

そして、少なくとも3376ドル(現在は約230万円)の予算さえあれば、370psのマッスルカーに乗って帰宅できるようにしたのである。

低制限のエキゾーストシステムのほか、オールズモビルの宣伝資料で「特別なハンドリングパッケージ」と呼ばれるものも含まれていた。

ダッジ・チャージャー・スーパービー(1971)

ダッジは1968年に、プリムス・ロードランナーに代わる予算重視のパフォーマンスカーとして、コロネット・スーパービーを発売した。

クライスラーはこの2つのブランドを所有しており、社内での友好的な競争を奨励していた。

1971年にはチャージャーにもスーパービーのネームプレートが付けられた。

スーパービーはパフォーマンスと低価格を同時に実現するモデルである。

チャージャー・スーパービーには、いわゆるラリーサスペンション、ヘビーデューティブレーキ、3速MT、そしてパワフルな6.2L V8エンジンが搭載されていた。

ダッジは1971年にチャージャー・スーパービーを5000台強売り上げている。

フォード・トリノ・コブラ429(1970)

フォードは1970年にトリノをフェアレーンから分離。新たなヒエラルキーでは、それぞれGT、コブラと名付けられたモデルがトップ2を占めていた。

365psのV8エンジン、7インチのワイドホイール、機能的なエアスクープ付きのブラックボンネットなどを備えたコブラは、ラインアップの中でも最もパフォーマンスの高いモデルであった。

フォードは1970年に7675台、翌年には3054台のトリノ・コブラを販売している。

プリムス・クーダ(1971)

プリマスは、バラクーダのハイパフォーマンスモデルを「クーダ」と名付けた。

スクープ付きの特別なパフォーマンスフード、ヘビーデューティサスペンション、標準のホワイトウォールタイヤ、340psのV8エンジンを装備した。

同社はクーダの購入者に対し、884ドル(現在で約57万円)を追加で払えば430psのヘミエンジンを選択できると宣伝した。

しかし、コンバーチブルのボディスタイルとヘミエンジンの両方を注文したのは、わずか7人だけだった。

ビュイック・リーガルGNX(1987)

1980年代後半、ビュイック・リーガルをベースにしたグランド・ナショナルは、デフ・レパードの名曲「ヒステリア」よりも熱かった。

なかでもGNXモデルは、3.8L V6ターボエンジンを搭載し、275psを発揮。ビュイックは、ミシガン州のマクラーレン・エンジンズの協力を得て、エンジンの微調整を行っている。

結果としてGNXは、シボレー・カマロを上回る加速力を実現した。

ビュイックはグランド・ナショナルの最終モデルとして、わずか500台のGNXを製造。あっという間に完売してしまった。

フォード・シェルビー・マスタングGT350 R(2015)

フォード・シェルビー・マスタングGT350 Rは、マッスルカーの新しいトレンドを体現している。

過去すべてのマスタングのように直線で速く走ることができるだけでなく、コーナーでも堂々と立ち回ることができるというものだ。

GT350 Rはシャシーの改良に加え、ボディパーツにカーボンを多用している。

パワートレインは、シェルビーGT350と同じ526psのV8を搭載した。

シボレー・カマロZL1 1LE(2017)

シボレーは、カマロZL1 1LEを究極のサーキット向けモデルと位置づけている。

従来よりも高いハンドリングを誇る標準のカマロをベースに、軽量化されたサスペンション、空力特性の向上、650psのV8スーパーチャージャーを搭載。後輪駆動と6速MTが標準装備されている。

サーキット向けとはいえ、快適性や使い勝手がはぎ取られているわけではない。

シボレーによると、ZL1 1LEはヒーター付きステアリングホイール、デュアルゾーン・クライメートコントロール、BOSE製オーディオシステムを搭載した公道用モデルであることに変わりはないという。

ダッジ・チャレンジャー・デーモン(2017)

ダッジがチャレンジャー・デーモンを開発したのは、ドラッグレースという特別なミッションのためだった。

オクタン価100の燃料で840ps、1044Nmのトルクを発揮し、現在生産されている8気筒エンジンの中では最もパワフルなものとなっている。

トランスブレーキなど、通常は専用のドラッグスターにしか搭載されない機能が装備された。

4分の1マイル(402m)を時速225km、9.65秒で駆け抜ける。

公道走行が(かろうじて)可能なデーモンは、加速力により2.92フィート(89cm)のウィリーを達成した市販車としてギネス認定された。

前輪が地面に着地すると、0-97km/h加速は2.3秒という驚異的なタイムを叩き出す。

フォード・シェルビーGT500(2019、2020)

フォードはデトロイト・モーターショー2019で、GT500が待望の復活を果たしたと発表した。

マスタングGT350の5.2L V8エンジンをさらに進化させ、スーパーチャージャーバージョンを採用した。

710psものパワーは、カーボン製のドライブシャフトと7速デュアルクラッチATを介して後輪に送られる。

GTスーパーカーを手がけたチームからインスピレーションを得て開発されたものだ。

パワーが足りないのであれば、760psを発揮する最新の2020年モデル(写真)をチェック。

7万2900ドル(780万円)の価格設定は、マスタングにしては高いと感じるかもしれない。

しかし、20万3000ポンド(2738万円)のフェラーリF8トリブートよりも40ps強力であることを考えると、「高い」などとは言えなくなる。

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みんなのコメント

13件
  • 発展してきた土地柄によって、こんなにも明確に方向性が違う。
    広大な土地と、安い燃料によって、アメリカは大きなサイズの車体にトルク重視の大排気量。
    なので、トラックのディーゼルエンジンのヘッドを変えた、大排気量OHVまである。
    かたやヨーロッパや日本は、エンジンの排気量は小さいまま、構造によりOHVからOHC、DOHCへと発展し、高回転化。
    それぞれの発展を見ると、なかなか面白い。
  • 石葉産出国ならではの車で羨ましい。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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