【ホンダZR-V試乗】中型SUVを購入する人類が必ず検討すべきモデルである
掲載 carview! 文:伊達軍曹/写真:ホンダ技研工業 156
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目次
ホンダの新型SUV「ZR-V」。その市販バージョンに試乗した。詳細は後述するが、結論から申し上げるとZR-Vのe:HEVモデルは、「中ぐらいサイズのSUVを買おうとしているすべての人類が、絶対に一度は真剣に検討してみるべき一台」であった。
まずはモデル概要を簡単に。
ホンダ ZR-Vは2022年11月17日に発表され、2023年4月21日に発売されるCセグメントのSUV。海外市場では「新型HR-V」として扱われるモデルで、日本仕様のボディサイズは全長4570mm×全幅1840mm×全高1620mm。同社のコンパクトSUVである「ヴェゼル」と、アッパーミドルSUV「CR-V」のちょうど中間ぐらいのサイズ感だと言える。
車体構造はインパネよりも前が「シビック」、後ろが「CR-V」をベースに開発されたもので、搭載されるパワーユニットは2種類。最高出力141psの2L直4エンジンに同184psの走行用および発電用モーターを組み合わせた「スポーツe:HEV」と、最高出力178psの1.5L直4 VTECターボエンジンをラインナップする。
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駆動方式はそれぞれにFFと4WDが用意され、4WDのシステムは、最近のFFベースSUVにありがちな「独立したモーターで後輪を回す」というタイプではなく、プロペラシャフトで後輪に動力を伝える「リアルタイムAWD」を採用。トランスミッションはガソリンターボ車がCVTで、e:HEVは電気式無段変速機だ。
グレード構成は、e:HEVのFF/4WDと、ガソリンターボ車のFF/4WDそれぞれが「標準グレードのX」と「上級グレードのZ」の2タイプのみで構成されるという、非常にシンプルなものである。
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ではさっそく試乗へとまいろう。最初に乗ったのはe:HEV FF車の上級グレード「e:HEV Z」だ。
「異彩解放」をグランドコンセプトとするZR-Vだけあって、確かにフロントマスクはなかなか個性的である。おちょぼ口っぽいというか。だがそのおちょぼ口も「異彩のための異彩」ではなく「空力のためのおちょぼ口」であるとのこと。実際、ZR-Vの空力特性はクラストップレベルであるらしい。
好みが分かれるかもしれないフロントマスクではあるが、全体としては、SUVとしてはやや低めな全高と長いルーフラインがもたらすプロポーションの良さ、そして余計なメッキ装飾やモールディングなどを排したシンプルな美しさが光る、ハイセンスなエクステリアであると感じる。
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インテリアも然りだ。専用設計ではあるそうだが、現行型シビックとの共通性を感じさせる水平基調のダッシュボードや、各所に用いられている「パール調プライムスムース」の内装フィニッシュなどがもたらす世界観は、このクラスとしては突出して質感とセンスに優れる。
ホンダは「グラマラス&エレガント」というキーワードでもってZR-Vの内外装を作り上げたとのことだが、これはまさにグラマラス&エレガント。このクルマの場合は、メーカーのうたい文句を素直にそのまま受け取っても何ら問題はない。
そしてさらに特筆すべきは、この車の「視界の良さ」であろうか。
SUVとしてはやや低めのセダンライクな着座位置ではあるが、そこからは車両前端の位置を正確に把握することができ、前方および側方の視界も大いに良好。イメージとしては、山へ行ってケーブルカー車内の最前列に立ち、180°以上の視野でもって雄大な景色を窓越しに眺めているかのよう――といったところだろうか。リアウインドウの天地はやや狭いが、とはいえ後方視界も悪くない。
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ではエンジンに火を入れ――というのは古いか。ええと主電源ボタンを押して「ON」の状態にして、走り出してみよう。
……ううむ。これは「ほぼ魔法」である。
ゆっくりとスムーズに加速できるのは当然であり、そこからアクセルペダルを深く踏み込めば、電気モーターならではのリニアで力強い加速が始まるのも、今どきは当然といえるだろう。
だが、あえて下品な急加速をしてみてもピッチング(シーソーのような上下運動)が発生しないというか、発生はしているのだろうが、ほとんど感知できないのはなぜなのか?
また、それなりの速度でカーブを曲がる際にもロール(旋回中に横へ傾くこと)が発生しない(発生しているはずだが、ほぼ感じない)のはなぜなのか?
そして、だからといってサスペンションをガチガチに固めている感じでは決してなく、全体的にはきわめてしなやかな乗り味であるのは、いったいぜんたいどういうことなのか?
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上記はすべて自動車工学の叡智によって実現された科学的な何かであるはずだが、工学にはとんと無知な筆者からは「魔法」に見えるのである。
筆者が言うところの「魔法」がかけられたホンダ ZR-V e:HEVは、その魔法効果により、やや背が低いとはいえそれなりの車高はあるSUVでありながら、「ほぼスポーツカー」としてきわめて爽快に、自在に走ることができる。だが同時に「一般的なCセグメントSUV」として家族などを乗せ、ゆったりと快適に、どこか遠くまで走っていくこともできる。
このあたりのことをホンダは「ドライバーの意思を汲み取る神経直結ダイナミクス」「不要な動き、ノイズを徹底的に抑えた1クラス上の快適性を与えるとともに、路面を常に捉える高い接地感を確保し、安心感を提供する」とうたっているわけだが、そのうたい文句は完全に真実である。「宣伝文句に誇張はいっさいない!」と断言したい。
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以上のとおり、デザインと走りを中心とするZR-Vの「独自価値」に筆者は度肝を抜かれたわけだが、その下というかベース部分にある「SUVとしてのコア価値」、つまり実用性や信頼感などの当たり前な部分についても、ZR-Vは当然ながらしっかり押さえている。そこについて、簡潔にご紹介しよう。
●居室は広い。身長175cmのドライバーがドラポジをセットし、同身長の乗員が後席に座る場合、ひざ元と頭上の余裕は「十分以上!」というほかない。シートバックや座面の角度も適切。
●荷室はさほど広大ではないが、バッテリー搭載車特有の狭さ(というか浅さ)もない。
●燃費も良好。e:HEV FF車のWLTCモード燃費は22.0~22.1km/Lである。
●最新のHonda SENSINGは全グレード標準装備(※アダプティブドライビングビームと後退出庫サポートを除く)。
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この後、1.5Lガソリンターボエンジンを搭載する「Z 4WD」にも試乗した。そちらも車の全体的な構造やデザインは同一であるため、「運転して楽しい、そして普通のファミリーカーとしても具合良く使える、好印象なSUV」ではあった。だがスポーツe:HEVというあまりにも出来が良いパワーユニットの前では、どうしても見劣りしてしまう。
ガソリンターボ車には「e:HEVより約35万円安い」という美点はあるものの、もしもホンダ ZR-Vを買うなら、約35万円差を押してでも「e:HEVの一択!」であろうと筆者は考える。
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前述のとおり、ホンダ ZR-Vのグランドコンセプトは「異彩解放」である。異彩を放つ存在感あるデザインと、ホンダが言うところの(そして実際そのとおりな)神経直結の走りを“解放”した――ということだ。
だがどうなのだろうか――と、筆者は思う。
個性的だがハイセンスな内外装で全体を整え、スポーティにも安楽にも走ることができる動的性能を、実用的なパッケージングと現実的な価格のなかで実現させ、なおかつ低燃費でもあることを旨とする。
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……いったいそれのどこが「異彩」なのか?
車として、言わば当たり前の理想ではないか。もしもそれが「異彩」として扱われるのだとしたら、そうではない他の車のほうこそ、何かが根本的にズレているのではないか?
そう考えるからこそ、完全に余計なお世話ではあるものの、筆者としてはZR-Vの新しいキャッチフレーズを(勝手に)提案したい。
それは「ホンダ・イズ・バック」だ。あるいは「初代シビックの帰還」でもいいかもしれない。
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実用的で低燃費で、扱いやすいサイズである。しかし車内は広く、さらには「運転する歓び」にも満ちている。そして価格も、今どきの車ゆえに安くはないが、とはいえ“今どき基準”で言うならば、まあまあ安い――というホンダ ZR-Vの特徴は、初代シビックの精神に酷似している。ほぼそのまんまと言ってもいいだろう。
つまりホンダ ZR-Vとは、筆者に言わせれば「初代シビックの現代版」だ。
あの名作実用車が、姿と機能、そしてサイズはガラリと変わったものの“精神”はそのままに、令和の世へと戻ってきたのだ。
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