【トヨタの挑戦】―クルマ好きを置いていかないー 水素と電気はクルマの未来となるか?
掲載 carview! 文:山本 シンヤ/写真:トヨタ自動車 22
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東京オートサロン2023のトヨタのテーマは「トヨタはクルマ好きを誰一人置いていかない」である。その本質は何なのか? プレスカンファレンスで豊田章男社長はこのように語っている。
「2023年の日本は、クルマ好きの想いを世界に発信していくチャンスの年だと思っています。その想いとは、『クルマ好きだからこそできるカーボンニュートラルの道がある』、そして『クルマ好きを誰ひとり置いていきたくない』です。その一つが『カーボンニュートラルの時代でも“愛車”に乗り続けたい!!』という挑戦です」。
現在、多くの自動車メーカーが、カーボンニュートラルに向けた変革を進めている最中である。トヨタは「カーボンニュートラル実現に対して全力で取り組む」と語るが、「正解が解らないからこそ、選択肢の幅を広げることが大事」と一貫してマルチソリューションを唱えている。つまり、国や地域によってエネルギー事情は異なるため、パワートレインにも適材適所があると言う考え方である。
それは筆者もその通りだと思っているが、現実を見ていくと「新車への代替えが進めば問題は解決」とはいかない。ちなみに日本ですでに利用されている保有車は約7800万台、既販車への対応も必要だ。
その対応は? 恐らく多くの人は「古いから仕方ない」、「自分には関係ない」と思っているだろう。そんな中、トヨタはあの人気モデルを用いて提案を行なった。それが「AE86 H2コンセプト」と「AE86 BEVコンセプト」である。
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どちらのモデルもエクステリアは純正エアロ、程よくローダウンしたサスペンション、195/60R14(ポテンザRE71RS)&ワイドリムのアルミホイール(ワタナベ)を装着。
インテリアは、ナルディのステアリングやブリッドのバケットシートの装着と「AE86」の定番カスタマイズを実施。40代以上のクルマ好きであれば「あーっ、それそれ!!」と思うであろうパーツセレクトだが、注目はそこではなくパワートレインだ。AE86 H2コンセプトは水素エンジン、AE86 BEVコンセプトはモーターに換装しているのである。
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水素エンジン搭載の「AE86 H2コンセプト」は「スプリンター・トレノ」がベースで、開発・製作は水素エンジン開発を行なっているGRカンパニーが担当している。
エンジンはベース車と同じ「4A-GE」のままだが、インジェクターやプラグ、燃料タンク&供給システムを水素エンジン用に変更。これは2021年からスーパー耐久シリーズに参戦している「水素カローラ」と基本的には同じ考え方だが、最大の違いは燃料噴射の部分だ。
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水素カローラは直噴式を採用するが、H2コンセプトはポート噴射を採用する。水素エンジンの一番の課題は「異常燃焼を防ぐこと」だが、必要な瞬間に必要なだけの燃料を吹くことができる直噴に対して、ポート噴射はそのコントロールが非常に難しい。解っていながら挑戦しているのは、ズバリ保有車へのコンバージョンのためだ。
水素用の燃料タンクは、すでに実績のある燃料電池車「MIRAI」用(2本)をカーボン製のキャリアで覆いラゲッジルームのスペース内に上手にレイアウト。ただし、水素タンクは法律で「車室外」に取り付ける必要があるため、フロアの一部を加工(元に戻せるレベル)し、室内と燃料タンクは遮断されている。車両重量はベース車+55kgの995kgと1トン切りを実現している。
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水素の充填口はAE86の燃料給油口と同じ場所にレイアウトされ、リッドの裏には車載容器総括証票や「水素に限る」ステッカー/コーション、リアハッチの裏には車載容器一覧証票、リアウィンドウ右下には燃料の種類を示すステッカー(水素)が貼られるなど、細部まで純正クオリティを実現している。
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モーターを搭載する「AE86 BEVコンセプト」は「カローラ・レビン」がベースで、開発・製作はコーポレートで電動化をけん引するレクサスインターナショナルが担当。
ボンネットを開けると、4A-GEがあった場所にモーターが綺麗に搭載されている。モーターは北米で販売されるピックアップトラック「タンドラi-FORCE MAX(パラレルハイブリッド)」用を流用。
モーター単体での出力は未公表だが、タンドラのハイブリッド車(i-FORCE MAX)とガソリン車との性能差は50ps/140Nmなので、AE86専用ECU制御でそれ以上のパフォーマンスを実現しているのは間違いない。
更に驚きはBEVにも関わらずマニュアルトランスミッション(MT)を組み合わせている事だろう。開発陣は「無駄な事は重々承知ですが、無駄を楽しむことも大事」と語る。
トルクは4A-GEと同程度と予想するが、モーターは踏んだ瞬間に最大トルクを発揮するため純正の5速MTからトルク容量の大きいGR86用の6速MTに変更している。
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バッテリーは先代「プリウスPHV」用(8.8kWh)を流用。リアシート/ラゲッジ部に上手にレイアウトするが、さすがにリアシートは取り外され2シーター仕様だ。
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充電は普通充電のみで、充電口はAE86の燃料給油口と同じ場所にレイアウト。H2コンセプトと同じようにリッドの裏には「電気に限る」のステッカー、リアハッチの右下には燃料の種類を示すステッカー(電気)が貼られるなど、こちらも細部まで純正クオリティだ。
ちなみにBEVコンセプトのみロールケージ搭載だが、開発陣にその理由を聞くと「特に意図はなく、ベース車両(中古車)に元々装着されていたので」と教えてくれた。車両重量はベース車+70kgの1030kgとBEVとしてはかなり軽量に仕上がっている。
ちなみに豊田社長はプレスカンファレンスで「実はLEVINには『EV』の2文字が隠れており、やっと搭載できた」と語り、会場から笑いも……。
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ちなみにこの2台は展示用のショーカーではなく実際に走行も可能で、筆者はその走りを富士スピードウェイ・ショートコースで確認済みだ。AE86 H2コンセプトは燃焼が難しく出力が十分ではないので流す程度の走行だったが、軽快で粒が揃ったサウンドはガソリン車よりも心地よく感じたほど。
一方、BEVコンセプトは直感的に「速い」と感じるレベルでドリフト走行もこなしていた。外からはインバータ音しか聞こえないが、室内ではスピーカーからエンジン音(疑似音)が聞こえるそうだ。更にモーターなのでエンストはないが、シッカリとクラッチ操作をしないとギア鳴りはするとのこと。
2台ともベース車の前後重量配分よりも良い値になっており、ハンドリングに関してはむしろ良いバランスになっているのも興味深い所である。と言っても現時点ではどちらのモデルも航続距離(どちらも50km前後⁉)を含めたいくつかの課題があるのも事実だが、そう遠くないタイミングで解決してくれそうな気も……。
保有車のカーボンニュートラルと言う意味では、すでにスバルと共同で開発を進めるCN燃料のほうが身近だと思うが、あえて難しい課題から挑戦を行なっていく姿勢は、今のトヨタらしい部分と言えるだろう。「クルマ好きもカーボンニュートラルを“自分事”としてもっと考えてほしい」、そんなキッカケになれそうなクルマの登場、今後の展開にも期待大だ。
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