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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第5回】僚友同士のバトル中のチーム代表とのやりとり。アップデート奏功も喜べないスペインGP

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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第5回】僚友同士のバトル中のチーム代表とのやりとり。アップデート奏功も喜べないスペインGP

 今シーズンで4年目を迎えるハースF1チームと小松礼雄チーフエンジニア。ヨーロッパラウンド初戦となったスペインGPでは、ハースは今シーズン初のダブル入賞を果たしたが、その一方でまさかの同士討ちを演じてしまった。あの時チームは、どういう判断を下していたのだろうか。小松エンジニアが現場の事情をお届けします。

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 第5戦スペインGP(カタロニア・サーキット)では、過去3レースのようにタイヤに関してそれほど苦労することはないと思っていました。プレシーズンテストを見ていてもそうでしたが、バルセロナのような高負荷のサーキットで、この時期のように路面温度が40度以上にまで上がれば、タイヤの問題に悩まされることなくトップ3チームに次ぐパフォーマンスを発揮できると予想していました。

 逆に、ここでもし自分たちがそれなりのパフォーマンスを出せなければ、プレシーズンテストの後に方向性を間違ってしまったということになります。ですが予想通りのパフォーマンスを発揮できたのでほっとしました。

 カタロニア・サーキットは低速コーナーもありますが、中速以上のコーナーが多いコースです。ウチのクルマはこういったダウンフォースが重視されるサーキットに合っているので、ここ3レース(バーレーン/中国/アゼルバイジャン)は苦戦が続きましたが、ドライバーも自信を持って楽しく走れたのではないかと思います。

 というのもプレシーズンテストと開幕戦オーストラリアGPはきちんと走ることができましたし、そこまではクルマもタイヤもしっかりと機能していたんです。ドライバーが最初に『クルマがおかしい。今までドライブしてきたクルマとは感触が違う』と訴えたのがバーレーンGPのフリー走行1回目でしたが、バーレーンでは予選結果が良かったので、日曜まで問題に気付けなかったんです。その後、中国、アゼルバイジャンと悩まされ続けましたが、やっとその状態から開幕戦の時のような良い感覚まで戻すことができました。

 またスペインGPではアップデートを投入しました。実は、今回のアップデートはハース史上最大のアップデートだったんです。すべて空力系のものですが、フロントウイング、ノーズ、バージボード、フロア、それにリヤウイングも改良しました。変えていないのはサイドポットやエンジンカバーくらいですね。

 最初は、金曜日にロマン(グロージャン)のクルマにのみアップデートを搭載して、ケビン(マグヌッセン)の方は従来の仕様で走らせました。その理由は、プレシーズンテストで得たデータとの比較は従来のクルマが適していること。そして、クルマ間で性能を比較してアップデートの性能を確認できることです。

 このアップデートが功を奏して、2019年シーズン初のダブル入賞となりました(マグヌッセンが7位、グロージャンが10位)。昨年のスペインGPでもそうでしたが、トップ3チームには届かなくても、それ以外のチームのなかではダントツで速いのではないかという予想だったので、良い意味で予選結果やレース中のロマンのペースは想定通りでした。

 一方ケビンは、少しペースが上がらなくて、ピットストップ後も(ニコ)ヒュルケンベルグに引っかかってしまいました。トロロッソ・ホンダにも先行されましたが、トロロッソ・ホンダは2ストップ作戦、ケビンは1ストップ作戦という戦略の違いがあったので、これは特に心配していませんでした。

■ロスの大きさを痛感。モナコ&カナダのカギは?
 ですからセーフティカーが出るまでは7位&8位入賞に向けて順調にレースを進めていました。しかし、再スタート後にケビンとロマンが1度ならず2度までも接触してしまいました。

 レース再開直前のシケインではケビンが前を走るロマンの後ろにぴったりとつけていたので、リスタート後の1コーナーで仕掛けるだろうなとは思っていました。案の定ケビンは仕掛けていき、そこでふたりはぶつかりましたが、この時点では彼らの順位が入れ替わっただけで、後続に抜かれることはありませんでした。

 ここでギュンター(シュタイナー/チーム代表)からは「何か(ドライバーに)言ったほうがいいか?」と聞かれましたが、僕は、ここで何も言わなければ彼らを信用しているということを示せるから、何も言わない方がいいと思いました。「もう一度接触したらもちろん言うつもりだけど、そういうことはないと思うから、ここはドライバーたちを信用しよう」と言ったのですが、結局再びぶつかってしまったので、さすがにレースエンジニアを通じてドライバーに一言いいました。

 僕らの基本的な姿勢としては、ドライバー間で戦略が違うとか、明らかに前のクルマが遅くて後ろが詰まっている場合などを除いて、チームオーダーを出すつもりはありません。レースをするためにサーキットに来ているので、普通にレースをしてくれればいいと思っています。しかし、接触してチーム全体の結果を下げることは許されません。

 ロマンは最終的に10番手までポジションを落としたので、もし8番手のままレースを終えていたらと考えると、3ポイント失ってしまったことになります。コンストラクターズランキングでも、5位に上がれたはずが今は6位ですし、大きなロスになってしまいました。

 だけどバーレーン、中国、アゼルバイジャンとあれだけ苦しんでパフォーマンスを発揮できなかったのに、ランキング5位のレーシングポイントと2ポイント差というのは、ある意味ラッキーです。アゼルバイジャンが終わった時点で大差をつけられていてもおかしくなかったので、今シーズンは今のところ中団チームはどこもなかなか安定して結果を出せていないということです。

 しかし一喜一憂している場合ではなくて、バルセロナとはコース特性の異なる次のモナコGPやカナダGPはまた厳しい戦いになると思います。スペインGPまでの3戦で直面した問題をすべて解決したから速かったというわけではなくて、サーキット特性がウチのクルマに合っているから速かっただけなので、そのあたりはまだまったく満足していません。

 中国に行く前まではあまり予選の心配はしていませんでしたが、次戦以降は心配な部分もあります。バーレーンや今回のスペインではレッドブルに近いタイムを出せましたが、中国ではルノーと競っていてレッドブルには全然届きませんでした。モナコとカナダでは、それに近い予選になるというか、中団トップを争えるかどうかという状況になると覚悟しています。もちろんもっと上を狙えればいいのですが、今の時点ではまだわかりません。

 クルマのポテンシャルは高いので、あとはタイヤをきちんと使えるかどうかが問題です。直線とシケインで構成されているカナダや、モナコとかシンガポールのような低速の公道サーキットなど極端な例を除けば、一般的なサーキットではクルマのトラクションもかかるし、バランスも良い。安定してブレーキも踏めるので、扱いにくいクルマではありません。

 唯一マシンが扱いにくくなるのは、タイヤが作動していない時だけなので、それだけにフラストレーションが溜まります。アゼルバイジャンではあれだけタイヤの管理に振り回されましたからね……。しかし、それはどのチームも一緒です。もっとチーム力を上げて上手く対処できるようにしなければと思います。

 レース後に行われたインシーズンテストの感触も良かったですし、モナコやカナダをはじめ今後のレースに活かせるようなデータを集めることもできました。まずは、この2つのレースをどう乗り越えるかがカギです。

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