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世界に挑む日本人ライダー密着取材/カワサキZX-6RでWSS参戦の長尾健吾が感じた自信

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世界に挑む日本人ライダー密着取材/カワサキZX-6RでWSS参戦の長尾健吾が感じた自信

 9月16日、ひとりの日本人ライダーがスーパースポーツ世界選手権(WSS)に挑んだ。長尾健吾。2017年にピレリカップ600チャレンジシリーズでチャンピオンを獲得し、2018年シーズンは全日本ロードレース選手権ST600クラスに参戦するライダーだ。日本人ライダーがワイルドカードとして、WSS第10戦ポルトガルに挑む様子を追った。

 WSSは4気筒600cc、3気筒675ccの市販車バイクで争われるチャンピオンシップ。市販車最高峰レースであるスーパーバイク世界選手権(SBK)と併催の形で開催されている。過去には藤原克昭や、現在ヨシムラ・スズキMOTULで全日本ロードJSB1000クラスを戦う渡辺一樹が参戦していたが、2018年シーズンのフル参戦ライダーは、大久保光(カワサキ・プセッティ・レーシング)ただひとりだ。

カワサキZX-6Rをもとに大久保光が語るWSSマシン。ほぼノーマルの車体に搭載されるフルチューンエンジン

 今回、長尾がWSSにワイルドカードとして挑むことになった背景には、2017年シーズンに参戦していたピレリカップにある。『ダイレクトに世界へ』を合言葉に2015年から始まったこのチャンピオンシップは日本国内で全8戦が行われ、チャンピオンにはWSSの一戦にワイルドカード参戦の権利が付与される、つまり世界への挑戦権を得ることができるレースシリーズだった。

 長尾はそのピレリカップの2017年チャンピオンとして、WSS第10戦ポルトガルにワイルドカード参戦する権利を得たのだ。なお、ピレリカップは2017年をもっていったんの完結を迎えており、2018年シーズンの開催はない。

 2017年ピレリカップチャンピオンとしてポルトガルのアウトードロモ・インテルナシオナル・ド・アルガルヴェに乗り込んだ長尾は、今年23歳。2018年は全日本ロードST600クラスに参戦して第5戦筑波レース1では優勝を飾ったほか、鈴鹿8時間耐久ロードレースではSSTクラスでの優勝に貢献している。

 長尾は今回の参戦にあたり、こう考えていたという。「僕はワイルドカード参戦だとは思っていなかった」。

「日本で見てくれている人は『スポット参戦だから』と考えている人が多いと思うけれど、僕はそうは思っていなかったんです。レースを勝ちに来たつもりでした。最初からWSSで走るライダーだと思って臨んだんです」

■初日に発生したシフトトラブル
 長尾は今回、WSSのトップチームのひとつであるカワサキ・プセッティ・レーシングから参戦した。WSSのタイトルホルダー、ケナン・ソフォグルが所属していたチームであり、WSSにフル参戦する唯一の日本人ライダー、大久保と同じチームだ。ちなみに、長尾と大久保は旧知の仲だという。

 ポルトガルのアウトードロモ・インテルナシオナル・ド・アルガルヴェは、高低差が激しく難コースと評する関係者も多いサーキット。さらに、現在全日本ロードでヤマハYZF-R6を駆る長尾にとって、カワサキZX-6Rは未経験のマシンでもあった。

 木曜にチームと正式合流した長尾は、金曜から始まるセッションに向けてマシンのポジション合わせを行うと、夕方にはコースを徒歩で一周。その高低差に「なかなか日本にはないサーキット、という印象ですね」と驚いた様子を見せていた。

 この日のサーキットの雰囲気にはまだどこか穏やかなものが流れていたし、長尾もチームとの合流にやや緊張した面持ちを浮かべながらもリラックスしているようにも見えた。

 迎えたセッション初日。午前中のフリー走行1回目を終えた長尾はナーバスになっていた。フリー走行1回目の結果はトップから約5秒差の28番手。それよりも、マシンに乗り込む前にはどこか浮足立っている様子さえ見せた。初の海外レース、初のWSS参戦、未知のコースとマシン。どこかリズムをつかみきれない部分があったのだろうか。

 それでも午後のフリー走行2回目を終えると、その表情はいくぶん落ち着いたものに変わっていた。フリー走行2回目はシフトトラブルが発生。操作してもシフトが落ちない症状が出た。それでも「1本目の走行より慣れることができている」と、フリー走行1回目のタイムを、確実に縮めていた。

 シフトトラブルを解消して挑んだ土曜の予選、スーパーポール1(SP1)。WSSでは初日フリー走行2回目までの上位10名がトップ12グリッドを争うSP2に進出し、それ以外のライダーはSP1からの予選となる。このSP1の上位2名がSP2に進出できるシステムだ。

 SP1からの予選となった長尾は、SP1のトップタイムから約3秒差のタイムをマークし、予選26番手を獲得する。

「攻めていくにつれて、バイクのセッティングが合わない感じになってしまいました。ただ、バイクもコースも理解が深まっています。1回目のアタックではけっこう上位にいたんです。でも2回目のアタックでタイムが詰まりませんでした。その原因が、攻めた走りができるようになるにつれて、セッティングが合わなくなってきたということだとわかったんです」

 長尾が駆るZX-6Rはフル参戦ライダーである大久保や、この大会から同チームより参戦した元MotoGPライダー、エクトル・バルベラと同じ仕様とは言い難かった。長尾は「チームが持っているデータはたくさんありそうなので、そこは心配していません。ただ、(マシンの)伸びしろはあまりなさそうな気がしています」とも語っている。

 そんななか進化を続ける長尾に、担当メカニックは「グッジョブだ」と声をかけたという。それでも長尾は「自分では納得できない部分があるから、素直に受け入れられないんですけどね」と表情を崩さない。

 こうした順応力の高さとより上位獲得に向けた力強い姿勢を、長尾はレースウイークをとおして見せていた。それは、パーマネントライダーのつもりで参戦した、という長尾の言葉を納得させるものでもあった。

■WSSに参戦してつかんだ手ごたえ
 決勝レースは晴れ渡った空の下、ドライコンディションのもと行われた。26番グリッドから好スタートを決めた長尾は、オープニングラップを19番で終える。2周目の1コーナーでオーバーランを喫しポジションを落とすが、その後はねばり強く周回を重ね、22番手を走行。

 レースはラストラップの11コーナーで起こったクラッシュにより赤旗提示。レギュレーションによりラストラップの2周前、16周時点の結果が反映されるとともに上位ライダー数名が失格となるなどしたため、長尾は最終的に17位で、WSSワイルドカード参戦を終えた。

 決勝レース翌日、インタビューに応じた長尾の表情は、赤旗で終わったレースに悔しさをにじませながらもどこかすっきりとしていた。

「赤旗で終わってしまったので、少し不完全燃焼ではありますが、レース自体は思っていたよりもしっかりできたと思います。今あるなかではしっかりと出しきれました。最終ラップでは前のライダーを抜くつもりでしたし、オーバーテイクは難しくはないと思っていました。そんななかで赤旗が出てしまったので…レースなので仕方ないですけどね」

 長尾は初参戦したWSSのレースウイークを、こう振り返る。

「すごく(周囲のライダーの)レベルが高いなとは思いませんでした。ちゃんとレギュラーライダーとして参戦すれば、きっと周りと戦えるという手ごたえがありました」

「トップを走れるバイクではなかったのが残念でしたが、そのなかでも自分の力は出せたと思います。ここで走るライダーだと思って最初から臨めたのがよかったです」

 チームの代表であり、総監督でもあるマニュエル・プセッティ氏から言われた「パッケージとしてはこれくらいのタイム」と言われたタイムをマークできた。それも自信になったという。

 担当メカニックも決勝レース後、「いい仕事をしていたよ」「いいライダーだな、お前」と長尾を評したそうだ。決勝レースでは持っているすべてを出しきることができた。予選後には素直にうなずけなかった称賛の言葉は、決勝レース後に受け止められた。

「僕の気持ちとしては、今回しっかりレースができたと思う。だから、『ありがとう』って」

 WSS参戦は、これまでのレース活動のレベルの高さを証明する結果にもなった、と長尾は言う。

「アルガルヴェは難しいコースだったからこそ、自分のプラスになることも多かったです。バイクも初めてのカワサキZX-6Rでしたが、3日間で乗りこなせたかなとも思います。今までの自分のレース活動が、そういう高いレベルにあったんだなと感じることができました」

「日本でのレース活動は…、と言う日本人も多いけれど、JSB1000や僕が参戦しているST600のレベルが低いのかと言えば、それは違うと思いました。(海外のレースに参戦する)チャンスさえあれば、準備ができるライダーならしっかり戦えると思うんです」

「今回、圧倒されたというより、自信がついちゃった。またチャンスがあれば挑戦したいですね」と笑った長尾。23歳の若武者が挑んだ世界選手権は、彼に世界で戦える確かな実感をもたらした。

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