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初試乗 ホンダEプロトタイプ 電動化の新しい波 都市部に絞ったパッケージング

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初試乗 ホンダEプロトタイプ 電動化の新しい波 都市部に絞ったパッケージング

もくじ

ー 割高でもアイフォーンを選択する理由
ー 航続距離200kmでも満足できるユーザーのため
ー ハイテクを身近にさせるノスタルジア
ー 目指したのはDセグメント並みの快適な乗り心地
ー 都市部で活きる機敏なハンドリング
ー ホンダEプロトタイプのキーポイントと次の展開

試乗 テスラ・モデル3 ツインモーター 450ps、260km/hの4ドアEV

割高でもアイフォーンを選択する理由

アップル社のアイフォーンを購入する際、読者は何を期待してお金を払っているだろうか。ライバル機種を上回るスタイリッシュなデザインとカッティングエッジな技術? 優れたインターフェイスと汎用性? あるいはアップルというブランドに対して? ライバル機種なら、技術的に同等以上の機能を搭載しながら、アイフォーンより安価に購入することもできるのだ。

なぜこんな質問をしたのかというと、ホンダの新しいEVは、アップル社のアイフォーンに近いプロダクトを目指しているため。それを象徴するものとして、上層部は極めて簡潔な名前「E」を与えた。そしてプレミアム性を持たせた価格、3万ポンド(435万円)にも納得してもらえると考えている。アイフォーンのように、ホンダは優れたデザインと高い実用性を兼ね備えていることをアピールする。

約95%が生産モデルと同じ内容を備えているという、Eプロトタイプが発表されたのは、今年の3月に開催されたジュネーブ自動車ショー。少なくともAUTOCARのサイトアクセス統計をみる限り、このホンダEは今のところ既に高い注目を得ているようだ。極めてスタイリッシュなエクステリアデザインは好意的に受け止められている。高い注目度に関しては、2017年のアーバンEVコンセプト発表時から、変わらない流れではあった。

ホンダEの素晴らしいエクステリアデザインは写真のとおりだが、スペックシートをみると、どうも腑に落ちないところがある。実際の内容以上の価格をクルマにつけようとしているのではないか、という疑念が湧いてしまう。そこで冒頭の質問へとつながる。

航続距離200kmでも満足できるユーザーのため

われわれが入手しているホンダEのスペックは多くはない。電動モーターをリアに搭載し、後輪を駆動。最高出力は150psで最大トルクは30.5kg-m。ここまでは良いのだが、液冷式のバッテリー容量は33.3kWhで、航続距離は200kmに留まっているところがネック。

比較で見てみると、BMW i3の航続距離は310km、ルノー・ゾエの航続距離は389km、キアeニロに至っては453kmに達する。そしてこのモデルのすべてが、ホンダEよりも安価か、同程度のプライスタグを下げて販売されている。しかもライバルの場合、より大きいボディを持ち、実用的なリアシートやラゲッジスペースを備えているモデルの方が多い。

電化過渡期にある目下、EVを買おうと考える購入者層にとって、航続距離は重要視するポイントのひとつ。バッテリー容量や航続距離が多ければ多い方がいい、という現在の一般的な考え方に、明らかにホンダEは逆らっているように思う。

しかし本田技術研究所でホンダEのプロジェクトリーダーを務める人見康平は、意図的に現状の考え方とは異なるアプローチを取っていると説明する。「すべての顧客の要望をカバーするには、Eよりも長い航続距離を持たせる必要があることはわかっています。しかし、それを叶えると、クルマとしてはナンセンスなものにもなりかねません。必要以上に大きく、重く、価格も高くなってしまいます。またバッテリーが大きいほど、充電に要する時間も長くなります。わたしたちとしては、動力性能や都市部での扱い、充電時間などを鑑みると、このサイズと航続距離がベストバランスだと考えています」

「加えて、シティカーのような小さなクルマを求める層にとって、Eの持つ航続距離は充分な数字です。車重を減らし、ドライビングパフォーマンスやハンドリングを向上させつつ、都市部での移動手段としてのパッケージングも満たしています。航続距離200kmでも満足していただけるユーザーのためにデザインされたクルマなのです」 と人見は説明する。

「より長い航続距離を希望されるお客様にとっては、ホンダEが適切な選択ではない、ということも認めなければなりません。しかし、この200kmの航続距離に納得していただけるお客様にとっては、この付加価値も魅力的な存在に映るでしょう」 これが開発者による見解だ。

ハイテクを身近にさせるノスタルジア

それを踏まえてクルマを改めて見てみよう。走行はホンダ社内の低速試験コースでの短時間に限られたものの、Eプロトタイプの内面までを知る初めての機会となる。スタイリッシュで前衛的なプロダクトといえるのか、機能過多の高価格車なのか、現時点での仕上がりを確かめられるはず。

まずはエクステリアデザインから。正直、凄く良いと思う。コンパクトなボディサイズに、丸みを帯びたスタイリング。初代シビックを彷彿とさせる、感情がこもったようにすら見える丸いヘッドライト。レトロチックに感じる読者もいると思うが、人見としては、ノスタルジア、郷愁を誘うようなデザインと表現して欲しいようだ。「まったく新しいEVとして、見慣れたアピアランスを持たせる必要があると考えました。エキゾチックで、斬新なデザインよりも受け入れてもらいやすくなります」

そしてインテリアも極めてスタイリッシュ。従来とは異なる質感の、実用性の高そうなファブリックや、大きなタッチスクリーンと木材が配された、レトロ・フューチャーと呼びたくなるデザインのダッシュボード。このシンプルなデザインも、人見の見解としては、新しいテクノロジーをより身近に感じさせるための要素なのだという。「スマートフォンと同じです。備えた技術をストレートに表する、シンプルなアピアランスを持たせることが重要です。もしデザインが複雑になると、受け入れるのが難しくなると思います」

フロント周りはトラディショナルといえるボンネットを備えたデザインを採用。比較的直立したフロントガラスがAビラーを細くし、前方視界を向上させている。ドア上部にはサイドミラーの代わりにカメラが据えられ、ダッシュボード両端にレイアウトされたディスプレイに鮮明な映像を表示。ダッシュボード中央の大型モニターへは、セレクターでリバースを選択すると、クルマ全体を上から見下ろしたような360度の合成映像が表示される。またフロントガラス上部のリアミラーには、従来どおりの鏡に反射した図像だけでなく、カメラで撮影した映像も表示が可能で、任意に選択できる。

多くのEVなどと同様に、パワートレインのコントロールスイッチはセンターコンソール部分に配置される。走行モードとしてはドライブ、リバース、パーキングの3種類。トグルスイッチで走行モードをノーマルとスポーツを切り替えられ、アクセルペダルで減速までカバーできるシングルペダル操作での運転に対応する。

目指したのはDセグメント並みの快適な乗り心地

ホンダEの豊かなトルクは、加速時に実感できた。スポーツモードを選んでいても、ペダル操作と加速のバランスが良く、パワーデリバリーはスムーズ。0-96km/h加速に要する時間はおよそ8秒だという。アクセルペダルを深く踏み込めば、素早くスピードが立ち上がるが、このクルマのサイズ感だから凶暴性を感じるほどではない。

また一般的なEVと同様に、Eプロトタイプにも回生ブレーキはもちろん備わる。シングルペダル・モードでの操作や、ステアリングホイール裏のパドルで機器の強さを調整可能。アクセルペダルから完全に足を離すと、クルマの減速率が最大化され、回生率も最も強くなる。

Eプロトタイプの最も大きな特徴が、都市部での取り回しのしやすさ。ボディサイズが小さい上に、フロントタイヤが45度まで切れるおかげで、最小回転半径は4.3m。使い古された表現ながら「ゴーカート・ハンドリング」という表現を思わず用いたくなるほど、俊敏性と反応の良さを獲得している。笑顔にならずにはいられない。

乗り心地もいい。前後ともにマクファーソンストラット式の独立サスペンションを採用している。ホンダによれば、より大きなボディサイズのクルマにも匹敵する乗り心地を目指したという。ただし、今回試乗したのは起伏が殆ど無いホンダ社内のテストコースだったので、あくまでも現時点での印象は限定的だ。

「比較的高めの価格設定に見合う付加価値を持たせるに当たり、Dセグメントに匹敵する快適性と衝撃吸収性を目指しました。走行パフォーマンスや乗り心地の面で、ライバルのEVモデルを超えるだけでは不十分なのです」とアシスタント・プロジェクトリーダーのシンヤ・タカヒロが説明する。

Eプロトタイプの車重や車体寸法は公表されていないが、コンパクトカーであることには間違いない。後席に座れる大人はふたりのみ。レッグスペースは限られており、ラゲッジスペースも週末の買い出しには手狭だろう。だが、量産モデルのEが登場するのは今年末の予定だから、そこまでは具体的な評価はお預けとしておこう。

都市部で活きる機敏なハンドリング

しかし、3万ポンド(435万円)という予定価格への疑問はどうしても残る。他社がより大きいボディに大容量バッテリーを搭載し、実用性を高めようとしているのが実情だ。プロジェクトリーダーの人見が説明する通り、Eのターゲット層はこのパッケージングと小さなバッテリーで満足してもらえるのだろうか。

「このホンダEを選んでくださるようなお客様にとって、価格は最優先となる事項ではないと考えています。もし価格を優先するのなら、EV自体を選ばないのではないでしょうか。スマートフォンを選ぶ時も同じです。値段を重視するのなら、アイフォーンは選ばないはずです。最先端の技術や未来性を選択する場合、価格は二の次になりますよね」 と話す人見。「そのような姿こそ、このクルマに期待している評価です。スタイリッシュさだったり、デザインや機能性、モビリティとライフスタイルとの融合による、未来的な可能性という理由で、選んでいただけると考えているのです」

わたしは、シティカーとして焦点を絞った素晴らしいデザインを肯定する意見と、ボディサイズや航続距離に納得できないとする意見と、評価が分かれると考えている。それはまさに、アイフォーンと同じ見られ方ではある。しかし、極めて限られた時間と場所での試乗ではあったが、このクルマが単にレトロな、いやノスタルジックなデザインをまとったEV以上の内容を備えているということは、間違いなさそうだ。

機敏なハンドリングを備えている、という片鱗は、都市部でのランナバウト(ロータリー交差点)でも間違いなく活きてくる素質だと思う。レスポンスに優れるドライビングファンな仕上がりは、すでにエクステリアデザイン以上に、われわれを笑顔にしてくれるものだといえそうだ。

ホンダEプロトタイプのキーポイントと次の展開

Eプロトタイプのキーポイント

・ホンダEのプロトタイプのために、全く新しいEVプラットフォームが作られ、33.5kWhのバッテリーは床下に搭載される。プラットフォームの設計的に、プロトタイプより大きなバッテリーを搭載した仕様のリリースは難しいだろう。しかし、バッテリの技術進歩により、航続距離を伸ばせる可能性はある。

・ホンダによれば、100kWhの急速充電器を用いれば30分で80%まで充電が可能だという。一方で都市部に限られた使用の場合は家庭用充電器がメインとなり、急速充電器の使用率は下がると考えられ、バッテリーの寿命を伸ばすことにつながる。

・サイドビューカメラは標準装備。一般的な光学式の鏡と比較して、90%も空気抵抗を減らすことができるとしており、クルマ全体としても走行距離を3.8%も伸ばすことが可能だという。

・当初はエンブレム自体が光っていたEプロトタイプだが、今のEUでは認められておらず、現在は金属製のものが用いられている。クルマのフロントノーズの形状や高さは、前方に搭載するセンサーの配置条件によって決められたという。

Eプロトタイプの次の展開

今年の末にホンダEの量産版が発表されれば、ホンダにとっては初の量産純EVモデルとなる。加えて、2025年までに全てのモデルをハイブリッドシステムを含む電動化技術を搭載するという計画の旗振り役も果たすことになる。だが今のところ、Eに続く純EVの計画は聞こえてはいない。

ホンダは小型のEVプラットフォームをEのために開発している。ホンダによれば、今のところ今後どのような展開となるかは未定とのことだが、将来的なモデルの基盤となるはず。「我々がホンダEで目指したのは、新しいクルマ自体の提案でした。単なる交通手段ではなく、そこに新たな価値を加えたかったのです。クルマを道具からサービスへと変化させるものです」とホンダのヤマモト・コウは説明する。

「我々は注意深く次のステップ、どんなタイプのクルマが良いのかを検討しています。よりスポーティなEVモデルが良いのか、ミニSUVのような実用的な方向が求められているのか。我々に求められている部分です」

続報を期待して待っていようと思う。

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