2024年のF1第9戦カナダGPの予選は、稀に見る形で決着した。メルセデスのジョージ・ラッセルとレッドブルのマックス・フェルスタッペンが1000分の1秒まで同じタイムで“最速”となるも、先にタイムを計測したラッセルが決勝レースのポールポジションを射止めたのだ。
F1ではレギュレーションにより、予選で複数のドライバーのベストタイムが同タイムになった場合は、そのタイムが先に記録された順で順位が割り当てられることになっている。ただそういったケースは非常に稀であり、直近の“同タイムポール”の事例は、1997年ヨーロッパGPまで遡らないといけない。
■【特集】勝利への執念があってはならない方向に……F1史に残る不正行為を振り返る:後編
1997年シーズンの最終戦であるヨーロッパGPは、なんと3人のドライバーが同タイムで並んだというF1史に残る“奇跡”が起きたグランプリでもある。
1997年のF1は、ウイリアムズのジャック・ビルヌーブとフェラーリのミハエル・シューマッハーが激しいチャンピオン争いを繰り広げていた。そして第16戦日本GPを終えた時点でシューマッハー1点リードとなり、両者は最終戦が行なわれるスペインのヘレス・サーキットに乗り込んだ。
ヘレスは全長4.4kmほどのコースで、当時のF1マシンは1分20秒台前半のラップタイムを刻んでいた。予選方式は現在のようなノックアウト方式ではなく、決められた時間の中でベストタイムを競う計時方式だが、まず好タイムを出したのがビルヌーブで、1分21秒072でトップに立った。
その後シューマッハーもアタックに入るが、タイムは1分21秒072でビルヌーブと全くの同タイム。これで2番手となった。極め付けはビルヌーブのチームメイトであるハインツ-ハラルド・フレンツェンで、彼も1分21秒072を記録したのだ。3人が同タイムを記録するというまさかの事態に、緊張感漂うタイトル争いを繰り広げるシューマッハーも、コックピットで待機中にモニターを見つめて笑みをこぼすほどだった。ビルヌーブも後に「まるで誰かが意図的に(タイムを)操作しているようだった」と振り返っている。
翌日の決勝レースは、違った意味で周囲を驚かせるような結果に終わった。レース中盤、シューマッハーの背後に迫ったビルヌーブがヘアピンのドライサックでインから追い抜きをかけると、アウト側のシューマッハーはそれをブロックするようにイン側にステアリングを向け、2台は接触。シューマッハーはその場でレースを終え、ダメージを負いながらも走行を続けたビルヌーブは3位でフィニッシュしてタイトルを手中に収めたのだ。その後、シューマッハーはこの事故が悪質なものと判断され、同年のランキングから除外されるという裁定を受けた。
なお決勝レースを制したのはマクラーレンのミカ・ハッキネン。参戦7年目での初優勝となり、翌年にはワールドチャンピオンに輝いた。
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