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テオ・プルシェールがインディカーで残した爪痕。復帰への道筋と後任ノーラン・シーゲルの才能

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テオ・プルシェールがインディカーで残した爪痕。復帰への道筋と後任ノーラン・シーゲルの才能

 2023年FIA F2のチャンピオンは、誰も想像のできなかった波乱のキャリアを突如として歩まされることとなっている。

 F1を戦うザウバーとリザーブドライバー契約を結んでいるテオ・プルシェールは、修行のために全日本スーパーフォーミュラ選手権(SF)にフル参戦……のはずが、4月初旬にアロウ・マクラーレンから声がかかり、第2戦ロングビーチでインディーカーに急きょデビューを果たした。

プルシェールがシート喪失。アロウ・マクラーレンがノーラン・シーゲルと複数年契約/インディカー

■初戦から高評価。打ち切り直前までテストにも参加

 初戦ではパワーアシストのないインディカーのステアリングの重さに苦労を強いられながらも、予選22番手から11位へとポジションを上げて完走したことで高評価を受けたプルシェール。チームは彼の続投を決め、続く第3戦バーバー、第4戦インディアナポリス/ロードコースにも出場する。

 インディアナポリス500マイルレース(インディ500)はさすがに任せてもらえず、カラム・アイロットが走ったが、アロウ・マクラーレンはインディ500開催期間中に、『次戦デトロイトから最終戦までウチで乗ってもらう』という記者会見を開いた。

 こうしてインディカーのレギュラードライバーとしての正式契約を結んだプルシェールは、SFのチームであるITOCHU ENEX TEAM IMPULとの契約を打ち切った。日本のチームには迷惑をかけることになったが、世界のトップカテゴリーにひとつに手を届かせた彼の決断を責めることはできない。

 このときマクラーレンCEOのザック・ブラウンは、「サウバーと交渉し、プルシェールを譲り受けた」と話していたが、それが僅か1カ月ほどで契約解除になるとは。彼の代わりに起用されたのは、1歳若い19歳のアメリカ人ドライバーであるノーラン・シーゲル。しかも、シーゲルとアロウ・マクラーレンは複数年契約を結んだという。ただ、もはやマクラーレンとの契約にどれほどの有効性があるのかは不明だ…。

 インディカーで計5戦を戦ったプルシェールは、ワールド・ワイド・テクノロジー・レースウェイで初のオーバルテストも行って経験を積み、第6戦デトロイトではインディカーでの優勝経験も持つパト・オワード、アレクサンダー・ロッシを予選で上回って決勝で初のトップ10入りを達成していた。

 第7戦ロードアメリカで13位フィニッシュした後には、ミルウォーキー・マイルでのハイブリッドマシンによる合同テストにも参加していたほどで、チームとしては若きフランス人ドライバーの将来性に満足しているように見えていた。

 それが、「信じられない。今週末は伝説のサーキット=ラグナ・セカでレースだ!」とツイートした直後にチームから放り出された。インディアナポリスに居を構えた直後だった……という話もある。

 20歳のフランス人FIA F2チャンピオンの、インディカーでのパフォーマンスは良好だった。とくに、ドライバーの力量が大きくものをいうストリートコースのロングビーチとデトロイトで好成績を残した点は、彼の実力としておおいに評価されるべきだ。

 これまで5戦に出場し75ポイントを稼いだ彼は、開幕戦からフル出場して2戦多く走っていたルーキーのリヌス・ルンドクヴィスト(チップ・ガナッシ・レーシング)と25点差にまで迫っていたため、ルーキー・オブ・ザ・イヤー獲得の可能性すら充分に残されていたはずだ。

 インディカーのシートを突然失い、SFに戻ることもできない彼の2024年シーズンは、夏を迎える前に終わってしまったということなのだろうか。そうであるとするならば、彼のキャリアは心ないチームの振る舞いによって大きく傷つけられたと言っていいだろう。

 20歳の青年にとってはとても大きな衝撃であり、苦痛も与えられたに違いない。いったい、彼とアロウ・マクラーレンとの契約とは、いったいどのようなものになっていたのだろうか。

■他チームからインディカー復帰の可能性

 ザウバーがプルシェールをふたたびリザーブドライバーとして雇い入れるかは不明だが、彼らのプルシェールに対する高評価に変わりはなく、セカンドチャンスを用意すべく動いているとの情報がある。

 これはザウバーの後押しを受け、プルシェールは今年中にインディーカーに復活参戦し、来年もインディカーで走るという計画だという。将来的なF1参戦に向け、F1とは大きく異なる経験をアメリカで積ませようという、これまでのヨーロッパのチーム、あるいはF1チームの間にはほぼ見れれなかったポジティブな考え方だ。

 プルシェールの2024年中のインディカー参戦が実現するとしたら、それはデイル・コイン・レーシング(DCR)からになるだろう。彼らの2台のマシンはどちらも最終戦までのドライバーが確定していないからだ。お世辞にも強力な体制とは言えないDCRだが、経験豊富なスタッフや多くのチームメイトから学べることも少なくないだろう。

 2025年シーズンに向けては、DCR以外のチームはシートがほぼ埋まっている状況だ。考えてみるならば、今季5台体制のチップ・ガナッシ・レーシングに居る若手をひとり押し出すか、現在3台で戦っているアンドレッティ・グローバルがさらに1台増やす、以外には有力チームのシートを獲得するチャンスはなさそうだ。

 4月に新規参戦の計画を発表したイタリアのプレマ・レーシングの候補に上がる可能性は考えられるが、過去の新規チームがそうだったように、初年度から多くを期待することはできない。インディ500も考えると、プレマよりもDCRの方が良い選択と言えるかもしれない。

■インディ500ウイナーも太鼓判を押す19歳シーゲル

 最後に、プルシェールに代わってアロウ・マクラーレン6号車のシートを得たノーラン・シーゲルについても書いておこう。

 シングルシーターとスポーツカーで年齢に似合わぬ豊富な経験を積んできている彼は、インディカーの登竜門シリーズであるインディNXTに昨年からフル参戦し、デビュー年にして2勝を挙げてランキング3位につけた。

 2023年のシーズン終盤には、鈴鹿サーキットで行われたスーパーフォーミュラ合同/ルーキーテストにもB-Max Racing Teamから参加している。2024年は、インディNXTでのチャンピオン候補最右翼として参戦し、インディカーでの経験も積もうと数戦に出場する計画を立てていた。

 開幕した2024年インディNXTでは、HMDモータースポーツのエースとして開幕戦で優勝を飾り幸先の良いスタートを切ったが、その後のNXT戦では勝ち星をあげられず。インディカーの方は、ザ・サーマルクラブで開催されたミリオンダラー・チャレンジ(ノンチャンピオンシップ戦)でデイル・コイン・レーシングから初めての出走を果たし、同チームより第2戦ロングビーチで正式にデビューを飾った。

 インディ500は惜しくも予選落ちに終わったが、ここでアドバイザーを務めたアロウ・マクラーレンのスポーティングディレクターであるトニー・カナーン(2004年シリーズチャンピオンで2013年インディ500ウイマー)に感銘を与え、彼の強力なプッシュによってアロウ・マクラーレン入りは決まったという。

 インディNXTでのシーゲルは、第5戦デトロイトでメカニカルトラブルにより上位フィニッシュを逃し、タイトル獲得の可能性が下がったことも影響してか、第7戦ロードアメリカではフンコス・ホーリンガー・レーシングのマシンに乗るチャンスを得ると、インディNXT卒業を決意。これがアロウ・マクラーレンを刺激したと言われており、『ライバル勢にさらわれる前に契約をしてしまえ』という急激な方針転換を促した。

 さらにシーゲルは、マクラーレンCEOのブラウンが共同オーナーを務めているユナイテッド・オートスポーツから今年のルマン24時間に出場(その縁もあって、インディ500でカナーンがアドバイザーを務めた)。ル・マン初出場でLMP2クラスの優勝を飾ったこともプラスに働き、地元カリフォルニアのラグナ・セカでのレースより、アロウ・マクラーレンのレギュラードライバー抜擢に繋がった。

 その才能の高さは多くの関係者が認めるところで、アロウ・マクラーレンのインディカープロジェクトで陣頭指揮をとるギャビン・ウォードも「チームの長期的なビジョンを安定させるための起用」と話している。成績だけを見れば、シーゲルは入門・中級フォーミュラカーシリーズで一度もタイトルを獲得したことがなく、ステップアップを急ぎ過ぎてきた感もあるが。

 インディNXTにおいても、パト・オーワード、カイル・カークウッドやリヌス・ルンドクヴィスト、クリスチャン・ラスムッセンといったチャンピオンたちや、オーワードとチャンピオンの座を争ったコルトン・ハータや、カークウッドと戦ったデイビッド・マルーカスなどと比較すると、成績でもレースぶりでもインパクトは弱い印象だ。

 アロウ・マクラーレンのシート獲得も、父親のビジネスとチームのメジャースポンサーとの関係、あるいは、巨額の持ち込み資金による……などの噂も流れている。F1も戦うマクラーレンらしく、19歳という若さに大きな可能性を見出しており、2024年シーズンの残り9戦を経験にあて、2025年シーズンからトップレベルでの活躍をしてもらいたいとの期待を抱いているのだろう。

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みんなのコメント

1件
  • swe********
    スーパーフォーミュラに戻って欲しい。
    どのチームでもいいから。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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