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F1エンジンに通じる“特殊技術”を搭載。SUVの容姿をしたスポーツカー/マセラティ・グレカーレ・トロフェオ試乗

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F1エンジンに通じる“特殊技術”を搭載。SUVの容姿をしたスポーツカー/マセラティ・グレカーレ・トロフェオ試乗

 モータースポーツや自動車のテクノロジー分野に精通するジャーナリスト、世良耕太がついに上陸したマセラティ・グレカーレに試乗する。グレカーレに用意された3グレードのうち、今回はNettuno(ネットゥーノ)と呼ぶ、3.0リッターV6ツインターボエンジンを搭載した“トロフェオ”を選択。見た目はSUV、中身は攻めのスポーツカーの『グレカーレ』の世界を深掘りする。

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■地中海に吹く北東風という名の意味するマセラティのSUV

デビッド・ベッカムが第一弾をプロデュース。マセラティ“特注”コレクションのMC20、グレカーレが登場

 マセラティ『Grecale(グレカーレ)』は、新世代マセラティの2番手として登場した都市型SUVだ。最初に登場したのはスーパースポーツの『MC20』で、『グレカーレ』は『MC20』で取り入れたマセラティの新しい顔を受け継いでいる。低く、突き出た位置にあるグリルと、奥まった高い位置にある小ぶりなヘッドライトが共通点。この位置関係は、マセラティの往年のレーシングカーに範をとったものだ。

 『グレカーレ』はGT、モデナ、トロフェオの3つのグレードで構成されるが、最上級グレードのトロフェオは『MC20』からダイレクトに受け継いでいる要素がある。エンジンだ。Nettuno(ネットゥーノ)と呼ぶ、3.0リッターV6ツインターボエンジンが搭載されている。

 ネットゥーノが特殊なのは、プレチャンバーイグニッション(PCI)を適用していること。モータースポーツに造詣が深い層ならなじみの技術のはずで、現在のF1エンジンのスタンダードとなっている。

 スーパーGT GT500クラスでは、HRC(ホンダ・レーシング)とトヨタ(TCD/TRD)が2.0リッター直列4気筒ターボエンジンへのPCIの適用を認めている。2018年のル・マン24時間でトヨタに初優勝をもたらしたTS050ハイブリッドの2.4リッターV6ターボもPCIを適用していた(2017年から)。

 量産車へのPCIの適用は現在のところ、『MC20』と『グレカーレ』、それに、近い将来国内に導入される『グラントゥーリズモ』のみである。『MC20』はミッドシップのスーパースポーツ、グラントゥーリズモはFRの2ドアクーペであることを考えると、SUVにネットゥーノの組み合わせは異色であり貴重だ。

 PCIはスパークプラグの先端にプレチャンバー(副室)を設け、主燃焼室側に開いた小さな穴から混合気を取り込んで点火する。すると、小さな穴からジェット噴流が噴き出し、主燃焼室の混合気を一気に燃焼させる。

 これにより燃焼圧が瞬時に大きく立ち上がり、燃料が持つエネルギーが効率良く圧力に変換されて出力が向上する。PCIはリーンな混合気を瞬時に燃焼させるポテンシャルを備えているが、ネットゥーノでは排ガス(とくにNOx)浄化の観点から理論空燃比(ストイキ)での燃焼だろう。速い燃焼による高い出力を得るためのPCIというわけだ。

 量産エンジンはレーシングエンジンと異なり、運転領域が広い。とくに吸気の流動が弱く燃料噴射量が少ないアイドリングや低回転低負荷ではPCI燃焼を成立させるは難しく、ネットゥーノは主燃焼室にもスパークプラグを配置している。主燃焼室スパークプラグのコンベンショナルな燃焼と、副室スパークプラグによるPCI燃焼はシームレスに切り替わる。

『MC20』は車両ミッドにネットゥーノを搭載し、トランスミッションは8速DCTの組み合わせ。一方、『グレカーレ』はネットゥーノをフロントに縦置き搭載し、8速AT(ZF製の名機8HP)を組み合わせる。

 プロペラシャフトはカーボン製。トランスミッションにはフロントに駆動力を分配する機構が取り付けられ、前輪を駆動する。つまり、4WDだ。『MC20』のネットゥーノはドライサンプなのに対し、『グレカーレ』(とグラントゥーリズモ)のネットゥーノはウエットサンプである。

『グレカーレ』のネットゥーノは最高出力390kW(530ps)/6500rpm、最大トルク620Nm/2750rpmを発生する。463kW(630ps)/730Nmの『MC20』版に対して控え目な数値に抑えられているが、それでも530馬力である。車両重量は2トン超え(2030kg)だが、卓越したパフォーマンスを披露してくれるのは想像に難くない。

■トロフェオの醍醐味はコルサモード。変化の激しい二面性を体感

 ステアリングホイールにはドライブモードの切り換えダイヤルが付いており、コンフォート、GT、スポーツ、コルサ、オフロードの各モードに切り換えることができる。デフォルトはGTだ。トロフェオはエアサスペンションを備えており、ライドハイトの調節が可能。ダンパーは減衰力可変タイプだ。

 スポーツに切り換えると、ライドハイトは15mm下がってエアロモードとなり、アクティブエグゾーストバルブは常時オープン。エンジンブーストが最大値に設定され、EPS(電動パワーステアリング)の制御も変更される(手応えが強くなる)。オフロードはライドハイトが20mm高くなり、変速がマイルドに制御される。名称どおりでオフロード走行に適したモードだ。

 トロフェオの真骨頂は英語でレースを意味するコルサだ。GTとモデナには設定のないトロフェオ専用のモードで、アクセルペダル感度およびレスポンスが最高レベルに設定され、変速がスポーツモードにも増して高速化される。また、トラクションコントロールの介入頻度が低下する。

 センターの12.3インチタッチスクリーンでは“車両設定”のメニューを呼び出すことで、オートエントリー/イグジットサスペンションをオン/オフにすることが可能。停車時はライドハイトを低くすることで乗り降りを助ける機能だ。青空バックの写真は、この機能がオンになっているため、ライドハイトは低くなっている。

 市街地を周囲の流れに合わせて走行している限り、高性能エンジンを積んだ高性能SUVに乗っている感覚は希薄だ。人によっては低周波のこもり音が気になるかもしれない。高速道路を走っても同様で、ずっと低周波のこもり音と付き合わされる。試乗時に「3気筒エンジンのトルク変動によるゴロゴロ音に似ている」とメモしたのだが、正解だった。

 資料によれば、低負荷時は右側3気筒を気筒休止し、左バンクの3気筒のみで運転しているという。ゴロゴロしたこもり音はこれが原因だろう。減筒運転することで負荷が高くなり、トルク変動が大きくなる。常用域でそれが目立ちがちだ。V6ターボエンジンを搭載するトヨタのWECマシンはフルコースイエロー時に燃料消費をセーブするため減筒運転を行っているが、あれと同じだ。

 スポーツモードに切り換えると常用回転数が高くなるのでこもり音は消え、すっきりした走りになる。燃費の差までは確認できなかったが、こもり音と付き合わされるGT、コンフォートモードでも燃費はあまり期待できないので、こもり音が気になるなら割り切ってスポーツモードを選択してもいいかもしれない。

 コルサモードに切り換えたときの興奮を味わったかどうかで、『グレカーレ・トロフェオ』に帯する評価は変わると思う。できるなら、コルサを体感してからトロフェオを評価してほしい。

 このモードを味わってこそのトロフェオである。ステアリングのダイヤルを回してモードを切り換えた途端、ラグジュアリーなSUVからスポーツカーへと印象が一変する。スポーツモードにも増して脚が引き締まり、ステアリングの手応えが増す。

 ワインディングロードで次々にコーナーをクリアしていると、「これ本当にSUV?」と疑問に感じるほど、操作に対してクイックに反応し、気持ちいいほど鼻先が向きを変える。外側にふくらんでしまうのではないかという不安感とも無縁で、まるでゴーカート感覚だ。アップシフトした際には、変速のインフォメーションを伝えるかのように、コツッ、コツッとしたショックが入る。これがまた、気分を盛り上げる。

 おもしろいのはエンジンサウンドの変化で、スポーツモードではボロボロとしたやんちゃなビート音を響かせるのだが、コルサモードでは澄んだ快音を響かせる。スポーティな走りをしているときは、後者のほうが感覚にマッチする。

『マセラティ・グレカーレ・トロフェオ』は日常で使い勝手のいいSUVでありがなら、コルサモードを選択した途端にキャラクターが一変。姿形は変わらないが、中身はスポーツカーになる。変化の激しいその二面性が大きな魅力だ。

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