今のクルマは高い?
text:Takahiro Kudo(工藤貴宏)
editor:Taro Ueno(上野太朗)
「MTが選べない」
「クルマの値段が高くなった」
筆者のようなある程度の年齢に達したクルマ好きは、最近のクルマにそんな印象を持っているかもしれない。
たしかに、装備や安全機能の充実などを背景に車両価格が上がっているのは間違いないし、MTを選べるモデルもグッと減った。
だからそんなクルマ好きの嘆きは正しいのといえる。
とはいえ、安くて楽しくてMT車がゼロになったかといえば、決してそうではない。数こそ少ないものの、しっかりと生き延びているのだ。
そこで今回は、「100万円台、走りが楽しいMTモデル」を紹介しよう。
1. スズキ・アルトワークス(153万7800円~/5MT)
「楽しい」、「安い」、「MT」。
そんな3拍子がそろうクルマの代表格といえば、なんといっても「アルトワークス」だ。
ベーシックな軽自動車の「アルト」をベースに64psのターボエンジンを組み合わせ、サスペンションもスポーティに調教。
声を大にしていいたいのは、車両重量がわずか670kg(FFモデルのMT車)しかない超軽量級だということ。
クルマの軽さは走りの楽しさに直結するが、600kg台は今どきのクルマとは思えない水準。
現行型のマツダ「ロードスター」がデビューする際「最軽量モデルで1000kgを切った」と話題になっていたことを考えれば、いくら車体の小さな軽自動車とはいえ640kgがどれほどの軽さか理解できるだろう。
それを「手頃にパワフル」なエンジンとMTで操るのだから、走りが楽しくないわけがないのだ。
それにしても、レカロシートまで標準装備して153万7800円はいくら何でも安すぎではないだろうか。スズキの底力を感じさせるスポーツコンパクトだ。
駆動方式はFFのほか4WDもあり、4WD車のトランスミッションは「5AGS」と呼ぶシングルクラッチも選べる。
2. スズキ・スイフト・スポーツ(187万4400円~/6MT)
スズキといえば、アルトワークスのお兄さん的存在である「スイフト・スポーツ」も魅力的。
コンパクトカーの「スイフト」をベースとしてスポーツモデルに仕立てたモデルで、エンジンは最高出力140psの1.4Lターボ。駆動方式はFFで6MTを組み合わせる(6ATも選択可能)。
スイフトがベースといっても、つくりは本格派。標準スイフトよりも高出力のエンジンは基本的に同社の「エスクード」と共通だが、こちらはハイオク仕様としてパワーとトルクをアップした専用チューニングだ。
足まわりは専用のショック&ダンパーにとどまらず、リアサスペンションに強化したトーションビームやトレーリングアームを採用し、ハブベアリングも専用の強化品とするなどかなり手を入れて作り込んでいる。本気度が凄いのだ。
質実剛健で知られるあのスズキがここまでやる? そう思わずにはいられない。
「どうしてスズキはスイフト・スポーツにここまで気合を入れるのか」
筆者はかつて、開発スタッフにそんな質問をぶつけたことがある。
その答えは「スズキを代表するスポーツモデルだからですよ」と明快なものだった。それでいて、値付けはスズキらしいのだから嬉しい限りだ。
スイフト・スポーツの通常モデルの価格は207万200円から。
それだとこの記事の趣旨である「100万円台」を超えてしまうのだが、受注生産として設定している先進安全機能非搭載のモデルなら、なんと187万4400円から。
これを「お買い得」をいわずして何をお買い得というべきか。
3. マツダ2 15MB(165万円~/6MT)
マツダのコンパクトカーである「マツダ2」には興味深いグレードが設定されている。「15MB」だ。
エアコンはマニュアル式だし、マツダがほぼ全車に標準搭載しているセンターディスプレイも非搭載、さらにはステアリングもウレタンと装備もインテリアの仕立てもかなり質素。
エクステリアも、こういっては何だがスポーツモデルっぽい雰囲気は皆無だ。
しかし、1.5L自然吸気のエンジンは通常モデルのレギュラー仕様(圧縮比12.0)からハイオク対応(圧縮比14.0)の116psへとチューニングされ、6速MTはファイナルギアレシオもローギア化して1~3速をクロスレシオ化(4~6速は他のグレードと同様になるようにギア比を調整されている)。
何の変哲もないように見える15インチホイールも実は軽量設計だったりする。
この正体はなんなのか?
実はサーキット走行やモータースポーツに参加するためのベース車両だ。
グレード名の「MB」はズバリ「モータースポーツ・ベース」の略。まさに安くて楽しいコンパクトカーだ。
4. 日産マーチ・ニスモS(187万6600円~/5MT)
何を隠そう、日産のベーシックコンパクトカー「マーチ」にもスポーツモデルが設定されている。
それが「ニスモS」だ。
「ニスモ」とは、モータースポーツで活躍する日産直系の組織。そんなネーミングを冠したモデルだけあり、スタイリングも見るからにスポーティでいかにもホットハッチだ。
しかし、注目はパワートレイン。通常のマーチは79psの3気筒1.2Lエンジン+CVTだが、ニスモSは専用となる116psの4気筒1.5Lエンジンに5速MTを組み合わせるのだ。
しかもエンジンは、単にそのユニットを搭載しただけでなく、カムや圧縮比と制御を専用としたハイオク仕様。メーカー純正チューニングが施されているというわけである。
ハンドリングに関しては、ダンパーやバネそしてスタビライザーといったサスペンションに加え、ステーやクロスバーの追加でボディも補強。タイヤはグリップ自慢の「ポテンザRE-11」を履く。
これだけ手が込んでいるにもかかわらず、価格は187万6600円。
ちょっと安すぎるのでは? と思うほどだ。
5. ホンダNワンRS(199万9800円~/6MT)
アンダー200万円の楽しいMT車はまだある。
たとえばホンダの軽自動車「Nワン」に用意されているスポーティグレード「RS」はターボエンジンを搭載したうえで、トランスミッションは6速MTが選択可能。
このギアボックスは、スポーツカーの「S660」とギア比も含めて同じもので、ショートストロークのシフトフィールが気持ちいい。
MTモデルの車両重量は840kgだ。
6. ルノー・トゥインゴ S (181万5000円~/5MT)
輸入車のなかにも、100万円台のMTモデルが存在する。
軽自動車プラス・アルファ程度とコンパクトなサイズのハッチバックである「トゥインゴ」には、5速MTを組み合わせた「S」というグレードが存在。
1.0L 3気筒自然吸気のエンジンも最高出力73psとターボ付軽自動車と同じくらいの感覚で、950kgの車体に対して手頃なパワー感だ。
特筆すべきポイントは、後輪駆動だということ。
「後輪を滑らせて派手に……」というほどのパワーはないが、駆動力の影響を受けない自然な曲がるハンドリングが楽しめるのだから貴重な存在としかいいようがない。
この価格で後輪駆動のMT乗用車が買えるのだから驚きだ。
「楽しい」、「安い」、「MT」。
そんな3拍子が揃ったクルマは少数派ではあるものの、今ならまだ新車で購入可能。
「最近のクルマは……」と嘆くのもいいけれど、せっかくなら紹介したモデルたちで楽しめるうちに楽しんでおくのはいかがだろう。
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