FIAの世界モータースポーツ評議会(WMSC)は、2026年からのレギュレーション変更に向けてミュールカーでのテストを許可するべく、F1のスポーティングレギュレーションの一部を改訂することを承認した。
このレギュレーション変更により、各F1チームは今年の間に10日間のミュールカーを使ったテストが可能となり、2026年以降のグランプリを走る新規則下のマシンをシミュレーションすることができる。
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しかしこのミュールカーは、各チームがレギュレーション変更に向けた準備を整える上でどう役立つのだろうか?
■ミュールカーとは何か?
F1における”ミュールカー”とは、テスト走行を行なうためだけに改造されたシャシーのことを示す。このマシンは通常、予定されているレギュレーション変更に伴って登場するマシンの特性を”模倣”すべく改造されるため、元の車両の仕様とはかなり異なる場合がある。
改造に関するレギュレーションは、実戦仕様のマシンと比較すると非常に緩いため、各チームは様々な手法でマシンを改造し、レギュレーション変更によって要求されることを比較的正確に再現することができる。
2017年のレギュレーション変更に向けて、このミュールカーが活躍したことがあった。このミュールカーは、100%正確なモノではなかったものの、エンジニアがプロジェクトを進めていくためには十分すぎるものだったと言える。
現在のレギュレーションが導入される前にも、ミュールカーを使ってのテストが行なわれた。ただこの時は、マシンの空力に対する考え方が大変更されるタイミングであったため、空力特性を確認するというよりも新たに投入が予定されていた(そして実際に現在使われている)ピレリの18インチタイヤ開発を支援することに重点が置かれたミュールカーだった。
■レギュレーションの変更点
今回WMSCは、今年のスポーティングレギュレーションを変更。ミュールカーでのテストが10日間許可されることになった。当該の条文はスポーティングレギュレーションの”第10.10条”に、”ミュールカーのテスト(TMC)として追記された。下記はその一部である。
a)TMCとは、選手権にエントリーした競技者が参加する(または競技者および公認されたパワーユニットサプライヤーに代わって第三者が参加する)競技会ではないコース走行時間として定義され、現行のテクニカルレギュレーションまたは直近4年のテクニカルレギュレーションに準拠するように設計および組み立てられた車両を使用するが、指定されたタイヤサプライヤーに将来のタイヤの実走行テストの手段を提供するか、将来の選手権のためのコンポーネントまたはシステムをテストする手段をFIAに提供する目的で適切に改造される。競技参加者は、FIAによる事前の許可なしに、そういう車両を第三者に販売または提供することはできない。
b)車両には、FIAが決定する開発用タイヤのテスト、または将来のチャンピオンシップ・シーズンに向けてFIAに代わってコンポーネントやシステムをテストするために必要な最小限の改造が施されている必要があり、その改造に限定される。
c)TMC中は、テクニカルレギュレーションの第8.3条で要求されている、FIA ECUが車両に装着されている必要がある。
k)1月1日から12月31日まで、FIAが全ての競技者との協議の上、またテストの目的によって必要な場合は、指定されたタイヤサプライヤーと協議の上、TMCのみを目的として最大10日間の車両テストが許可される。
-i)これらのテストに参加するドライバーは、フル・スーパーライセンスの資格を有し、キャリア中に少なくとも1回のフォーミュラ1レースに出場しているか、または最新のフォーミュラ1カーで一貫してレース速度で500km以上の走行を完了している必要がある。
-ii)競技会を開催するサーキットで予定されているテストは、以下の条件が満たされる場合にのみ、その大会の前に実施できる。
--a)使用する車両は選手権開催年の直前の4年間のいずれかのテクニカルレギュレーションに準拠するよう設計および製造された、適切に改造された車両であり、 b)i)およびI)で許可されている変更を除き、選手権開催年の直前4年のいずれかの間に少なくとも1つのレースまたはTCCで使用された仕様のコンポーネントとソフトウェアのみを使用する必要がある。
--b)ドライバーは第10.10条k) i)の要件に基づく資格を有しているが、現在の選手権には参加していない。
--c) サーキットは選手権の開催年の直前の年に選手権の競技会を開催したコースであること。新しい規則では、走行中にテスト項目を使用できないことも規定されているため、チームが現在の競技会で有利になることはない。
■F1チームが直面する課題
過去のミュールカーは、レギュレーション変更に伴って最低重量が引き上げられることに対処すればよかった。しかし2026年からのマシンは現在よりも軽量化されることになっているため、チームとしてはミュールカーを軽く作らなければ、正確なデータを取るのは難しい。
ダウンフォースに関しても、これまではレギュレーション変更に応じて増やしたり、減らしたりすればよかった。しかし2026年からはアクティブエアロが導入されることが予定されており、これをミュールカーで再現するのはほぼ不可能であろう。
大幅に変更されるパワーユニットの問題もある。かつては、ミュールカーでもパワーユニットは現行と同じものを使うことができた。しかしレギュレーションでパワーユニットの規格も変わる今、ミュールカーでどれだけのことを学べるのかというのは疑問だ。
ただ、過去4年いずれかのマシンを改造のベースに選択することができるというのは、チームにとって選択肢が増えるということを意味する。
例えば、2021年の旧レギュレーション下でのシャシーを、ミュールカーのベースにすることも可能だ。この2021年マシンは現行の車両よりも小さく、2026年からの車両の寸法に比較的近い。ただこの車両は、現在のようにグラウンド・エフェクト効果を多用するものではなく、ウイングなど車両の上面に取り付けられたパーツでダウンフォースの大半を稼ぐというコンセプトだった。一方で現行レギュレーション下のマシンは、2026年のマシンと比べると明らかに大きく、重い。
2026年に向けてどれだけ有益なミュールカーを用意できるか、それはFIAが定めた規制の範囲内で、マシンをいかに改造するかにかかっている。
そしてうまくミュールカーを準備することができれば、2026年以降のF1を戦う上での優位性を確保する、最初のコース上でのチャンスを”掴んだ”ということに繋がる可能性もある。
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