開幕前唯一となる公式プレシーズンテストに続き、英国らしい雨絡みの週末となったドニントンパークでの2023年BTCCイギリス・ツーリングカー選手権開幕戦は、フォード陣営のNAPAレーシングUKが席巻。予選では移籍組のダニエル・ロウボトムと元王者アシュリー・サットンがフロントロウを占拠し、決勝ではダン・カミッシュが最初と最後のヒートを制覇し“ダブル”を決めるなど、古豪モーターベース・パフォーマンスのフォード・フォーカスSTが猛威を振るっている。
共通ハイブリッド機構導入2年目を迎えたBTCCは、昨季初タイトルを獲得したトム・イングラム(ブリストル・ストリート・モータース・ウィズ・エクセラー8/ヒョンデi30ファストバック Nパフォーマンス)を筆頭に、シリーズ4冠のコリン・ターキントン(チームBMW/BMW 330e Mスポーツ)や、昨季FFへのスイッチ初年度ながらタイトル戦線に絡んだサットンなど、錚々たるメンバーを含む全27台が集った。
BTCCシーズンラウンチ開催。新王者イングラムのヒョンデに元王者サットンのフォードが追随
そのハイレベルな攻防を予感させるかのように、シーズン最初のプラクティスからサットン、ターキントンと役者たちがきっちり最速を奪い合うと、続くFP3では今季限りで活動を休止したホンダ陣営の名門、チーム・ダイナミクスから移籍のロウボトムが僚友サットンを従えてのワン・ツーを記録する。
こちらも今季最初の『トップ10シュートアウト』が実施された予選でも、後輪駆動のスバルとインフィニティで王座を獲得したチャンピオン経験者を従えて、ロウボトムが堂々キャリア通算3回目のポールポジションを奪取した。
「昨年は本当に大変な1年だったが、冬の間に多くの作業が行われた。それが報われたからこその、今日の最終的な結果さ」と、新天地移籍の成果を強調したロウボトム。
「2022年には自分が思っているほど速いかどうか、疑問に思うような最低点がいくつかあった。でもそうでないことを証明できて最高の気分だ。アッシュ(サットンの愛称)が限界を追求するためラップを失った点は僕に味方したが、ポールを獲得できて本当にうれしい。FP1のロングランでもフィーリングは良かったし、明日は少し混乱する天候を見抜くのが勝負どころだね」
その予言どおりとなった日曜の決勝は、ポールシッターが濡れたレース1スタートで出遅れ混乱の引き金になると、2台並んだフォーカスSTの間に鼻先を捩じ込んできた昨季のタイトルコンテンダー、3番グリッド発進のジェイク・ヒル(レーザーツール・レーシング・ウィズ・BMモータースポーツ/BMW 330e Mスポーツ)に弾かれるかたちで、サットンがグラスエリアを滑走。この際のダメージでピットに向かい、そのままリタイアを喫することに。
同じくセカンドロウ4番手に並んでいたターキントンも、2番手に浮上した直後にオールド・ヘアピンでワイドとなり、ポジションを狙ったカミッシュとのコンタクトでトップ10圏外まで追いやられてしまう。
セーフティカー出動を挟んだ中盤には、昨季までの旧BTCレーシング時代からエースを務めてきたジョシュ・クック(ワン・モータースポーツ・ウィズ・スターライン・レーシング/FK8型ホンダ・シビック・タイプR)が、今季よりチーム・ダイナミクスの技術支援も得て生まれ変わったチームを牽引すべく、トップ5を争う位置を走っていたが、ここでグラベルに捕まり万事休す。勝負は首位のヒルを追うカミッシュと王者イングラムの3台に絞られる。
するとそこへ9番手発進だったルーキーのアンドリュー・ワトソン(カーストア・パワーマックスド・レーシング/ヴォクスホール・アストラBTCC)が印象的なペースでみるみるポジションを上げ、なんと優勝戦線に加わり4ウェイバトルを演じる勢いを見せる。
レース21周のチェッカーまであとわずかとなった19周目には、ヒルのBMWに異変が生じ「油圧がわずかに低下」してペースダウン。これで首位を奪ったカミッシュが逆転のフィニッシュを決め、かろうじて2位を守ったヒルの背後では、ほぼサイド・バイ・サイドの白熱バトルを演じたイングラムが、躍動するルーキーをなんとか抑え切っての表彰台を確保した。
■「ようやく栄光を取り戻すことができた」とWTCC優勝経験者のチルトン
続くレース2も波乱の展開となり、表彰台を争うためにはタイヤの選択が極めて重要であることが判明。上位集団の大半がドライアップの路面を見越してスリックタイヤでスタートを切ったものの、直後にふたたび雨が降り始めるとすぐさまポジションダウン。
ここで名門ウエスト・サリー・レーシング(WSR)移籍の新加入アダム・モーガン(チームBMW/BMW 330e Mスポーツ)と、王者の僚友トム・チルトン(ブリストル・ストリート・モータース・ウィズ・エクセラー8/ヒョンデi30ファストバック Nパフォーマンス)がいち早くレインタイヤに換装し、滑りやすいコンディションの中で状況を改善してみせる。
これで首位を奪ったWTCC世界ツーリングカー選手権経験者のチルトンが、モーガンを従えて4年ぶりにBTCCでの勝利を挙げ、長い不振のトンネルから脱出。3位にもチルトンの僚友で同じ戦術を採ったルーキー、ローナン・ピアソン(ブリストル・ストリート・モータース・ウィズ・エクセラー8/ヒョンデi30ファストバック Nパフォーマンス)が入ったものの、レース後の再車検で最低地上高違反が発覚して敢えなく除外処分に。代わってサム・オズボーン(NAPAレーシングUK/フォード・フォーカスST)が自身初のBTCCポディウムを得る結果となった。
「このシリーズで勝つことは至難の業で、ここ数年厳しい年を過ごしてきたが、その踏み石の上でようやく栄光を取り戻すことができた」と、喜びを語ったレース2勝者のチルトン。
「アウトラップでは100%スリックだったが、グリーンが振られてレースラップを走り始めるとすぐターマックに“トラムの線路”が見え始め、頭の中で警鐘が鳴った。それで『すぐにウエットを準備してくれ』ってラジオで叫んだよ。『今すぐ付け替える、今すぐ付け替える』ってね」
引き続きウエット路面となった最後のレース3は、フロントロウから発進したフォードの2台で明暗が分かれ、カミッシュが“ライト・トゥ・フラッグ”を決めてこの週末の2勝目を記録。一方の予選最速ロウボトムはふたたび隊列に飲み込まれ、ターキントン、サットン、ヒルと猛者たちを仕留めたイングラムが、さすがのドライブで2位に入賞。同じくターキントンへの逆襲を決めたサットンが最後の表彰台に立った。
「昨日は計画どおりに行かなかったが、今日は満面の笑顔さ」と、強豪ひしめく勝負のなか2勝をさらったカミッシュ。「スタート前には予選5番グリッドは『充分ではないかもしれない』と考えていたが、思い起こせばちょっとしたショックから12カ月が経ち、こうして2勝で立ち直れたのは素晴らしいことだ」
「レース2は雨の中でスリックを履いていて面白かった。チャンスはあったが(タイヤ交換のため)コールしなければならず、集団がセーフティカーのもとでピットインしたとき自分が悪い場所にいることに気づいた。当然、ここでも勝利を狙っていたけど、リバースグリッドのことを考えるべきだったね」
これでランキング首位に立ったカミッシュを、王者イングラムとBMWのヒルが追う展開となった2023年のBTCCシーズン。続く第2戦は5月6~7日にブランズハッチのショート版インディ・サーキットで争われる。
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