FIA F2帰りのルーキー、岩佐歩夢(TEAM MUGEN)が速さを披露し、参戦2戦目にしてポールポジションを獲得した全日本スーパーフォーミュラ選手権第2戦オートポリス。予選Q2は後続に0.338秒という、スーパーフォーミュラでは“大差”とも言える驚速ぶりで首位を手にした岩佐だが、その後方では6台が0.125秒以内にひしめく大混戦となった。
このなかで、岩佐と同じホンダ陣営に属し、今季ここまで好調を維持しているように見える3人のドライバーのコメントから、それぞれの状況を探ってみたい。
「こうなると思ってました」「なぜかギヤが入らない」「アウトラップは任せて」【SF Mix Voices 第2戦予選(1)】
■事前の準備も奏功し「いいステップを踏めた」山本尚貴
予選3番手を獲得し、岩佐、牧野任祐(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)とともに記者会見に登壇した山本尚貴(PONOS NAKAJIMA RACING)は、チームメイトの佐藤蓮を上回るという部分で目標を達成できたものの、「岩佐選手に2戦目でポールポジションを取られてしまったので、純粋に素晴らしい結果だなと思いつつ、僕や牧野選手含めてそう簡単に負けてしまってはいけない相手に負けてしまったという悔しさがある」と心境を吐露した。
一方で、冬のテストから開幕戦にかけて維持していた自身の好調ぶりを、コンディションがまったく変わったオートポリスでも維持できたことには安堵している様子だ。
「実際、路面温度が開幕戦よりも高い状態で走り出してみたフィーリングでいうと、あまり調子は良くなかったので、『暑くなってくると、NAKAJIMA RACINGの苦手な部分が出てきちゃうのかな』というのは感じていましたが、終わってみれば3番手ということで、そこまでのリカバリーやアジャストを含めて、かなり良いステップを踏めたと思います」と山本。
表彰台を獲得した開幕戦鈴鹿の後、第2戦に向けては、「まず鈴鹿を同じコンディションで走ったときに(開幕戦の)予選5番手を上回るタイムを出すにはどうしたらいいか、というところから始め、サーキットのレイアウトが変わり、路温もかなり上がることを考えて、どういうアジャストをしていくべきか、考えました」と準備を進めてきた。そのなかで用意していた複数のセットアップ上のオプションを、オートポリスのプラクティスから予選にかけて、適正に選択できたことが、前戦を上回る3番手というポジション獲得につながったようだ。
今回、チームメイトの佐藤はQ1落ちを喫したが、山本は「2台のセットや運転の仕方が違うので、何をやったらタイムが出ないのか、何をやったからタイムが出たのかという部分では、チームとしてはいいデータが取れた。(次戦の)SUGOだったり富士テストに向けていい材料がそろうのかなと思うので、64号車に関しては調子もいいですし、決勝でもいいデータを取って、シーズンを通して上位で戦い続けることにつなげたい」と、チーム全体としていい状態にあることを強調している。
■「セクター2を速く走らせる方法は分かっている」牧野任祐
一方、午前のフリー走行でトップタイムをマークし、Q1Bグループもトップ通過、Q2で2番手となった牧野も、寒い時期に見せていた速さをここオートポリスでも維持できたことを喜んでいる。
「オートポリスのサーキットレイアウトと特性は、僕らはもともと相性がいいですが、今日は想定よりもだいぶ暑かったので、そのなかでちゃんと前に来られたのはポジティブだと思う」と牧野。
DOCOMO TEAM DANDELION RACINGは、昨年6月の富士テストから新たなコンセプトを導入、2023シーズン後半に一気にSF23を手なづけた印象だが、そのコンセプトで初めて走るオートポリスということで、セットアップのベースとなる部分はコンディションが変わっても引き続き武器となっていることが確認できたようだ。
ポールポジションを獲得した岩佐はセクター2でダントツの速さを見せたが、これについて牧野は「クルマのコンセプトの違いかな、と思っています」と冷静に分析する。
「セクター2を速く走らせる方法は、僕らはよく分かっているつもりです。2022年も2023年も、とくに僕の5号車は『セクター1、2でめちゃくちゃ速くて、セクター3は耐える』みたいな形でした。けど、去年途中からコンセプトを変えたことで、“セクター3寄り”にしてきたつもりなので、その分で負けているのかな、と」
「とはいえ、ちょっと(岩佐との)ギャップが大きいな、というのは正直ありますね。その差をもうちょっと、最小限に抑えていきたかったです」
決勝に向けては、「今日のフリー走行の感じからしても、レースペースは結構きついんじゃないかと。それはみんな一緒だと思うのですが、そのなかでも自分たちが前に出られるように、何か準備できたらいいと思っています」と牧野は展望を語っている。
■悩める野尻智紀。岩佐車との違いはリヤのスタビリティ
2~3番手のふたりが一定の満足感を得ている一方、事態を飲み込めないといった表情を浮かべながらミックスゾーンにやってきたのは予選5番手の野尻智紀(TEAM MUGEN)だった。
姿を見せると同時にかなりの数の記者が野尻を囲んだのだが、「聞いてもらえます? 僕の話も(苦笑)」と何やら悩ましげな様子。
「結果としては悔しいですね、やっぱり。久々のオートポリスで、このコースは走っていて楽しいし、ポールを獲ったときの爽快感みたいなものは、鈴鹿サーキットに並ぶくらいのものがあるので、その格別な思いは味わいたかった。ですが、走り出しから振り返るとあまり調子が良くない感じはありました。そのなかで一歩一歩やってはきたものの……ここまでしか行けなかった、という感じです」
走行前日の取材に対しても語っていたように、2023年の九州大会を欠場している野尻は、2022年以来、2年ぶりのオートポリス走行だ。この2年の間にはSF23シャシーと新スペックのタイヤが導入されただけでなく、ダンパーも共通化されている。
「ですが、不思議なことに、弱点が同じなんですよ(苦笑)」と野尻は困惑の原点について説明し、やがてそのコメントは“自問自答モード”となっていった。
「去年、(代役でオートポリスに出場した)大津(弘樹)選手もリヤのスタビリティに苦労していましたし、今日もリヤのスタビリティがかなり無いという部分で苦労していました。なんなんでしょうね? ブレーキ踏むと(リヤが軽くて)ダメなんですよ。2022年とかはみんな曲がらない方向で苦労していて、その時は僕らはちょうどよく曲がれていた。でも曲がりすぎるくらいの状況では、非常によろしくないところがあって。その辺を突き止められたら、どのサーキットでも行けるような気もしますけど……」
ポールポジションを獲得したチームメイトの岩佐のマシンについて野尻は、「向こうの方がリヤのスタビリティが維持できている……『ピーク』どうこうよりも『維持できている』ので、ブレーキしたままハンドル切りやすそうな特性は、僕らよりあったかな」と分析。
「昨年のリアム(・ローソン)選手と大津選手の比較でも、そんな感覚はありましたね。かといってリヤ車高落とせばいいわけではないので……もっと曲がらなくなってしまいますしね。バランスを取るのが非常に難しいので、明日の決勝も結構大変なんじゃないかな。明日の決勝失敗すると、僕で渋滞が起こるような気がするので、見極め方を間違えないようにしないといけないですね」
近年、安定してトップ3近辺につけることが多かった野尻だけに、5番手という順位ですら「テンションが下がる感覚がある」というが、同時に「いままでがおかしかっただけで、こんなもんだよな」と自分を納得させている様子。そして、「ここからどう巻き返せるかが一番大事なところだと思う」と、決勝に向けてチームとともに解決策を見出す決意を固めていた。
想定外の高温に見舞われている今週末、予選AグループからBグループに向けて通常はあり得ないタイムダウンが見られるなど、一筋縄ではいかないオートポリス。決勝に向けてはどの陣営もタイヤのデグラデーションを気にしていることからも、難しいレースとなることは間違いなさそうだ。
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