5月24日のことだった。ホンダは東京・青山で記者会見を行ない、2026年からF1に正式復帰することを発表した。会見にはアストンマーティン会長のローレンス・ストロール、グループCEOのマーティン・ウイットマーシュ、そしてホンダの三部敏宏社長、ホンダ・レーシング(HRC)の渡辺康治社長が揃う、力の入ったものだった。
ホンダは2015年からF1にパワーユニットサプライヤーとして参戦。当初パートナーとなったのはマクラーレンであり、1988年から1992年の黄金コンビ”マクラーレン・ホンダ”復活だと、大きな注目が集まった。
■HRCを介した”プロジェクト”で、ホンダのF1活動はより健全な形になった……HRC渡辺社長「以前よりもF1を継続しやすい形を組み立てたつもり」
しかし蓋を開けてみれば、新生マクラーレン・ホンダは苦戦の連続。フェルナンド・アロンソとジェンソン・バトンというふたりのチャンピオン経験者をもってしても、入賞がやっと。3年間のパートナーシップで、1度も表彰台を獲得することができなかった。
結局2017年限りで両者の関係は終了。ホンダは2018年から、トロロッソにパートナーを切り替えることになった。トロロッソはレッドブルの姉妹チーム。レッドブルとしてはワークスのパワーユニット(PU)がどうしても欲しかったが、その先行試験という意味合いも強かった。
この年、ホンダのPUは急成長し、2019年からはレッドブルもホンダPUを使うことになった。そして同年オーストリアGPでマックス・フェルスタッぺンの手により”レッドブル・ホンダ”としての初優勝を達成した。そして2021年には、メルセデスのルイス・ハミルトンとの激闘を制し、フェルスタッペンがチャンピオンに輝いた。
ホンダエンジン搭載車に乗るドライバーがチャンピオンに輝くのは、1991年のアイルトン・セナ以来のことである。
ただこの2021年限りでホンダはF1を撤退することになった。レッドブルとしては自社製PUを準備しF1を戦うことを目指したが、これは事実上不可能であり、実質的にはホンダが引き続きPUを開発・製造し、レッドブル・パワートレインズ(RBPT)に供給する形をとった。
レッドブルは益々力を増し、2022年、2023年とダブルタイトル連覇。2023年には22戦21勝という史上最高勝率を記録してみせた。
そんなホンダは、正式に2026年からF1に復帰を果たす。今は”RBPT・ホンダ”のバッジ名だが、ホンダとしてはF1は撤退している立場。しかし、2026年からは正式に”ホンダ”でのF1復帰となる。
2026年からはF1のテクニカルレギュレーションが大変更される予定。このタイミングでホンダもF1に戻ることになった。
この2026年からのF1用PUは、エンジンの出力と電動パワーの出力が、50:50になる予定だ。そのため、運動エネルギーを回生し使用する、モーター/ジェネレータも、バッテリーも大きくなる。そしてそのエネルギーを蓄えるバッテリー(エナジーストア)の容量も増える。
そしてもうひとつ、エンジンで使う燃料も、現在のガソリンではなく持続可能燃料に切り替えられることになる。この持続可能燃料は成分こそガソリンとほぼ同じだが、化石燃料由来ではなく、バイオ由来もしくは水と空気から合成する形となる。
世の中の自動車産業は、炭素排出量をゼロにするため電動化の方向に向かっている。ホンダも、2040年までに全ての市販四輪車をEV(電動車)もしくはFCEV(燃料電池車)にすることを目標に掲げている。
しかしその一方で、全ての自動車を電化できるのかという問題は、どうしても付き纏ってくる。電動車で使う電気を火力発電で作っては元も子もないし、世界中を走る自動車を全て電動車に置き換えるのも不可能に近い。そのために注目されている代替燃料のひとつが、F1で使う予定の持続可能燃料である。
電動化比率が増えること、そして持続可能燃料を使うことで、多くの自動車メーカーが次世代のF1に興味を持っている。現行の3メーカーはもちろん、ホンダとアウディは2026年からのF1参入を決めているし、RBPTはフォードがサポートすることになっている。2028年からであるものの、キャデラックもF1参入を目指している。将来の自動車の姿のひとつが、この次世代F1にあるのだろう。
さてホンダが組むことになるアストンマーティンは、ジョーダン時代から使ってきたファクトリーから、巨大な新しいファクトリーに移動を完了。風洞実験設備なども今後出来上がっていく予定である。ローレンス・ストロールの本気度が窺える。
また、現在タイトルスポンサーを務めているアラムコとの提携延長も発表。これにはF1で使う燃料の共同開発が含まれており、2026年に向けてガッチリとタッグを組むことが決まった。ホンダのF1復帰、そしてアストンマーティンとの提携が決まった後、すでに燃料に関するワークショップがアラムコとの間で行なわれていたため、これは規定事項だった。
HRCのPU開発拠点であるSakuraでは、2026年に向けたPU開発が急ピッチで進められている。一方で持続可能燃料についてホンダは、2021年の段階でF1燃料の一部ですでに実用化。そのノウハウは、間違いなく2026年に活かされるはずだ。
気づけば、2026年まではあと丸2年だ。
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みんなのコメント
ゼロからの再出発、もうレッドブルではやり尽くした感があるのでタイミング的にも丁度いい。