先週水曜日(1月31日)、FOM(フォーミュラ・ワン・マネジメント)は、2025年からのF1参戦を目指していたアンドレッティの申請を却下したことを発表した。その際にFOMは、アンドレッティの欠点を率直の述べ、さらにその理由を詳細にわたって説明した。
FOMは、アンドレッティが十分な競争力を手にする可能性はほとんどないと考えており、たとえチームの名前が有名なモノであったとしても、F1に追加の価値をもたらすことはないだろうと指摘したのだった。
■会合招待の知らせが“迷惑メール”行き!? アンドレッティ、F1新規エントリー却下理由に異議。なおも2026年参戦目指す
また、アンドレッティは2025年にF1に参入することを目指していたが、その翌年にはレギュレーションが大きく変更される予定であるため、このふたつのレギュレーションのためにマシンを製造するという計画は甘いとした。
ただこのFOMの決定に対して、アンドレッティのF1参入を認める立場にあるFIAは「次のステップを決定するために対話を行なっている」という声明を出すに留めている。
■アンドレッティには競争力を期待できないのか?
FOMの主な主張は、中期的に表彰台を争うなどある程度の成功を収めない限り、11番目のチームはF1に付加価値をもたらすことはなく、大きな関心も集めないというモノだ。
この条件を考えれば、F1に参加することは、将来有望なチームであったとしても、まずは”スタート地点に立つ”ということではないのは明らかだ。
F1における歴史が最も短いチームは、2016年に参戦を開始したハースである。しかしこのハースは、ここまで8年間F1を戦ってきたが、最高位は2018年オーストリアGPの4位。表彰台は獲得できていない。そして2023年のコンストラクターズランキングは最下位であり、チーム創設以来代表を務めてきたギュンター・シュタイナーが事実上更迭されることとなった。
このハースに続いて参戦歴が短いのは、1997年に参戦を開始したスチュワート・グランプリを源流に持つレッドブルだが、それもハースより20年近く長い歴史を持っていることになる。
今のF1は、知名度が世界的に劇的に向上しただけでなく、チームの予算上限が制定されたことにより参戦しやすくなり、価値も大きく引き上げられた。そのため、既存のチームが売りに出される可能性はほぼなくなったと言える。
そして、キャデラックのブランド名でアメリカの巨大自動車メーカーであるゼネラルモータース(GM)を後ろ盾に持つアンドレッティは、その状況を打破する……つまり新規チームとして参戦する準備がしっかり整っているように見えた。しかし最初の3シーズン以内に素晴らしい競争力を発揮するのは非現実的であると、FOMは判断したのだ。
■競争力のないアンドレッティは、関心を集めない?
FOMは、競争力が期待できないなら、F1の価値を引き上げる上でアンドレッティは意味をなさないとして、参戦を許さない決定を下した。このことは、最も理解しにくいところだと言えよう。アンドレッティは、アメリカで有名なアンドレッティを使って、今やF1のブームが訪れているアメリカでの人気をさらに拡大させればよかったのではないだろうか?
前述の通り、アンドレッティはGMを後ろ盾にF1参入を目指している。実際、GMもマシンの開発を担っている。さらにインディカーで活躍中のコルトン・ハータをドライバーとして起用すれば、アメリカ国内での人気はさらに上がり、テレビの視聴者数や同国内で行なわれる3グランプリのチケット販売にも貢献するはずだ。
これはハースとは明らかに異なる状況だ。ハースはこれまで、アメリカ人ドライバーを起用したことはないし、その他でもアメリカ国内でのF1人気を高める上でほとんど貢献していないと言うべきだろう。そういう意味では、アンドレッティ、キャデラック/GM、ハータという組み合わせは、ハースよりもはるかにアメリカ国内に訴えかけるモノが大きいと言えそうだ。
アメリカでのF1人気は、NetflixのF1ドキュメンタリー番組『栄光のグランプリ(Drive to Survive)』による部分が大きい。しかしこのプログラムでは、ハースのシュタイナー代表を取り上げることが多かったものの、アメリカという部分はあまり強調されていない。つまり、アメリカとは関係ない内容だったにも関わらず、Netflixの番組はF1の人気拡大に寄与したのだ。
アメリカ人ドライバーの存在についても同じことが言える。現役唯一のアメリカ人ドライバーは、ウイリアムズのローガン・サージェントである。サージェントは現状は優勝や上位を争える立場にはいない。しかしそれでも、昨年のアメリカGPのチケットは完売。つまりアメリカ人ドライバーの活躍は、アメリカ国内でのF1観戦チケット販売にそれほど大きな影響は与えないということだ。
アンドレッティが実際に参戦したらどうなるか? それは試してみなければ分からない。しかし今回のことを考えれば、FOMは新規参入を目指す団体が断れないほど優秀でない限り、既存の10チームの商業的利益が損なわれる可能性があるリスクは冒さないだろう。
■アンドレッティはF1を過小評価している?
FOMが下した結論で最も厳しいのは、アンドレッティがF1を過小評価しているというものだった。冒頭でも述べたように、2026年からレギュレーションが大きく変更される予定なのに、全く異なるレギュレーション下の2025年マシンを作るのは、平たく言えば”世間知らず”だと斬ったのだ。
アンドレッティは、インディカー、フォーミュラE、オーストラリアのスーパーカー、スポーツカーレース、エクストリームEなど数多くの国際選手権に参戦しており、そのほとんどで成功している。つまり世界的に見ても、トップクラスのレーシングチームと言えるだろう。
しかもシャーロットとインディアナポリスのアメリカ2拠点に加えて、ドイツのケルンとイギリスのシルバーストンという合計4つの拠点を設けるというアンドレッティの計画は、かなり野心的である。
そして元アルピーヌのニック・チェスターなど、F1で実績のあるスタッフを招聘し、さらに風洞実験もスタート。アンドレッティの本気度は目を見張るモノがある。
チェスターほどの経験を持った人物ならば、2025年用マシンと2026年用マシンをどう作り上げるか、そのために必要なことは何なのかということについて、具体的な絵を描いていたはずだ。しかもアンドレッティはまだ参戦中のチームではないため、2025年に向けてマシン開発を自由に進めることができる権利があったはずだ。
また2026年からのレギュレーションはまだ確定しておらず、しかも開発が解禁されるのは2025年の1月1日以降。そう考えれば、アンドレッティがふたつのレギュレーションに合わせたマシンを開発するというのは、それほど非現実的ではないように見える。
■アンドレッティの参戦拒否で、アメリカのF1離れは起きないのか?
FIAは、アンドレッティのF1参戦を既に承認している。しかしFOMはこれを拒否。しかもその理由には、FIAの管轄である技術的な計画についても言及されていた。今回のことで、FIAとFOMの溝がさらに深まることが予想される。
FOMがアンドレッティのF1参入を許さなかった主な理由は、ここまで述べてきたとおり商業面についてだ。F1は新型コロナウイルスの感染拡大の影響を大きく受け、F1チームの存続の危機に直面した。しかしそれを団結して乗り越えてきた。そういう経緯もあり、各チームの経済面を保護することが、以前よりも特に重要視されることになったのだ。
FOMの声明には、次のように書かれている。
「今回の評価には、既存のF1チームとの協議は含まれていない。しかし選手権の利益を考慮して、11番目のチームの参入が、チャンピオンシップの全ての商業的利害関係者に及ぼす影響を考慮したのだ」
「チャンピオンシップの純粋な商業的価値を示す重要な指標として、CRH(商業権所有者)の財務結果に期待できる、重要なプラスの影響を特定することはできなかった」
FOMの監査結果の詳細全てを把握しなければ、今回の件に対して効果的に反論するのは難しいだろう。しかしアメリカで最も有名とも言えるレーシングチームの参戦を拒否するということは、アメリカ人はF1に歓迎されない存在だと感じている人たちの興味を、さらに削ぐことになるだろう。
マイケル・アンドレッティは今回の決断について「強く反対する」と発言。少なくとも当面の間、プロジェクトの「作業は順調に進んでいる」と語った。
FOMは、GMがF1のパワーユニット供給メーカーとして登録した2028年に向けては、見方が変わる可能性について匂わせている。しかし2028年まではまだ4年もあり、その間何も利益を生まないプロジェクトを続け、人員を採用し続けていくことは簡単ではないはずだ。
F1へのドアは、まだ半分しか開いていない。アンドレッティにそれをこじ開けるつもりがあるのか、それはまだ分からない。
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