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マクラーレンF1での任務も本格化する平川亮。WECではトヨタGR010ハイブリッドの“弱点”に危機感

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マクラーレンF1での任務も本格化する平川亮。WECではトヨタGR010ハイブリッドの“弱点”に危機感

 3月2日に決勝が行われた2024年WEC世界耐久選手権の開幕戦。初開催となったカタールのルサイル・インターナショナル・サーキットで、トヨタGAZOO Racingの2台のGR010ハイブリッドは苦戦を強いられた。

 今季よりハイパーカークラスに4マニュファクチャラーが追加参戦するなか、王者トヨタは公式テストの段階からクラス中段に沈み、決勝でも粘りの走りを見せつつも、10時間の長丁場のレースを6位と9位で終えた。これにより、2018年のシルバーストン戦から続いていたトヨタの連続表彰台獲得記録は途切れている。

平川亮がマクラーレンの2022年型F1マシンでテスト。チームはFP1ルーキー起用プランを検討中

 ここでは、セバスチャン・ブエミ、ブレンドン・ハートレーとともに8号車をドライブした平川亮に、苦闘の開幕戦の裏側とそこで見えた課題、そして今季就任したマクラーレンF1のリザーブドライバーとしての仕事ぶりなどを聞いた。

■「明らかにおかしかった」フェラーリの動き

「うーん……なんとも言えないですね」

 まずは2024年最初のレースを終えての率直な気持ちを聞くと、思いがけぬ成績を引きずっているのか、平川の口は重かった。

「自分は(昨年)11月のカタールでの事前テストに参加できました。フェラーリとポルシェは一緒に走っていましたね。そこで実際、あんまり(サーキットと)クルマが合っていないなという印象があり、もちろんその部分を対策してレースに臨んだのですが、思ったよりも苦戦したなという印象です」

 予選ではニック・デ・フリースがアタックした僚友7号車が2番手を獲得したが、この速さを平川は「驚き」と語る。決勝ペースに関しては「正直、遅かったですが、速いときもあったりして、なぜそうなったのかが分からないのでちょっとまだモヤモヤしている感じです」と言う。

 決勝で平川は、スタートから4時間経過する直前に初めて8号車に乗り込んだが「左側のタイヤはサードスティントだったので、結構バイブレーションが酷かったり、タイヤもグリップしなくてしんどかった」という。

 コースインすると、やがて背後からは50号車フェラーリ499Pのアントニオ・フォコが迫る。「全然ペースが違うな、とは思ったのですが、前にいかせたくはないので、そのなかで抑えるような走りになりました」と平川。

 バックモニターやミラーでフォコの50号車を観察しながら走っていた平川は、「明らかに動きがおかしい」と感じていたという。

「インカットしまくっていたり、トラフィックでも(タイヤをコース外に)落としながら抜いていたり。途中からはもう、なにか(決定的に)抜かれる場面が来たら、無理に抑えなくてもいいかなとは思いつつ、今後のこともあるので(そのときまでは)しっかりと抑えるような走りをしました」

 フォコのあまりにも血の気の多すぎる走りに危険を感じた平川は、劣勢のなかでも冷静かつ適切に、リスクマネジメントをしていたようだ。最終的にインに飛び込まれた際には無理な抵抗はしなかったが、無線ではその直前のフォコのトラックリミットをオーバーする走りに対して、苦言を呈した。

「無線で不満は言いましたけど、淡々と走る感じでしたね。上位のポルシェやキャデラックに対しては速くなかったので、そこ(に対抗すること)は現実的ではなかったですが、直接比較できる7号車と比べて若干ペースは良かったので、クルマの調子としては良かったのかなと思います」

 なお、今回の決勝での8号車はブエミが130周、ハートレーが64周をドライブしたのに対して、平川は139周と最多周回を受け持っている。前述のように乗り始めの段階でタイヤのマイレージが左右で異なるなど、10時間の長丁場ならではの難しい局面も多かったが、平川は冷静かつ安定した走りで、チームの期待に応えて力走。8号車のベストラップも記録している。

■「重量以前の問題」に取り組む必要性

 決勝前から指摘されていたが、トヨタに今回のBoP(性能調整)で与えられた最低車重1089kgの影響は小さくなかったようだ。なお、優勝したポルシェ963は1048kg、キャデラックは1032kgとなっており、トヨタは9車種中もっとも重い。

「これはBoPに対する不満ではありませんが、カタールについては、重量が効いてきている、というのはひとつの結論かなと思います。ポルシェやキャデラックは重量が軽いわけですし、そこは思ったよりも効いたんじゃないかと」

 平川は重量の件について「カタールに関しては」と、とりわけ強調して発言した。今後はイモラ、スパ・フランコルシャンとヨーロッパのサーキットが続く。そこでは状況は好転するという読みかと思いきや、また別の問題が占める要素が高くなりそうだと平川は示唆する。

「重量の話以前に、若干高速コーナーが苦手な雰囲気が漂っています。正直、BoPの話以前に、セットアップなどクルマの方を改善していかないといけない、というのはチームとして感じているところです。イモラは高速コーナーはあまりないので、どちらかというと得意なサーキットにはなると思いますが、スパやル・マンに向けてはそのあたりを改善していかなくてはいけないと思っています」

 平川によれば、この『高速コーナーが苦手』という性格は昨年から顔を覗かせていたもので、たとえばル・マン24時間レースが行われるサルト・サーキット終盤のポルシェカーブでは、そういった雰囲気が「結構、ありました」という。

「ホモロゲーションで決められてしまっているので、クルマを(物理的に)変えようと思っても、できません。セットアップが一番のキーかなと思いますね」

 厳しい現状が突きつけられた第1戦となったが、第2戦以降に向けて、セットアップを詰めていく余地はゼロではないようだ。平川個人としても、昨年のリベンジを果たすためにル・マンは絶対に落としたくない。

「自分たちとしてはル・マンで勝つというのが目標なので、悪かったところをイモラ、スパでしっかり改善して、ル・マンにいい流れを作れるように、もう一度気を引き締めて頑張らなければいけないなと思っています」

 なお、2024年型のGR010ハイブリッドにおける数少ない見た目上の変化としてはヘッドライトがあるが、これについてはアラゴンのテストで平川が真っ先に試して効果を実感したのだという。

「最初に去年までのヘッドライトで走ったら、やっぱり見えなくて、目が慣れるまでに何周もかかるんですよ。そのあとに新しいものを付けたら、もうビックリするくらい見えて。その後、また古いのに戻したら何も見えなくて『もう走れない』ってそのままピットに帰ってきたくらい。それくらい大きな進歩です。カタールは(コース上の照明が)すごく明るかったのですが、ル・マンの夜がどういうふうに見えるか、楽しみですね」

■マクラーレンのファクトリーでシミュレーターも

 WECのレギュラードライバーを務めながら、マクラーレンF1のリザーブドライバーを務めるという多忙なシーズンに突入している平川。今季開幕までのスケジュールを本人に聞くと、年末年始は日本で過ごせたものの、年明け早々には渡欧し、スペイン・アラゴンでWECのテストに参加したという。

 以来、拠点を置くモナコが生活の中心となっているが、1月末には南仏・ポール・リカールでWECのテスト、さらにその数日後には同じくポール・リカールでF1のテストに参加。そして2月下旬、WEC公式テストと第1戦のため中東カタールへと移動したわけだが、合間を縫うようにしてF1関連の業務は着々と増えてきているようだ。

 このインタビューはWEC開幕戦の数日後、日本とモナコを結んでリモートにより行ったが、前日まで平川はイギリスでマクラーレンのシミュレーターをドライブしていたという。これは、インタビュー翌週に行われたイタリア・イモラでのテストに備えるためのものだった。

「チームは落ち着いていましたね。(開幕戦の)バーレーンまではすごい忙しかったみたいですが、いまはバーレーンからサウジアラビアの連戦中で、ファクトリーはだいぶ落ち着いていて。バーレーンはクルマがそもそも苦手なのですが、そのわりには良かったのではないかという評価と、サウジアラビアはクルマに合ってるので、どうなるかな、といった話をしていました」

 F1のレースの現場への帯同については、「正直、まだ確定はしていないですが、何レースかは帯同させてもらえる予定」と平川は言う。

 WECでの成績がなんとか上向くように努力を続けながら、F1リザーブドライバーとしても着々と経験を積み重ねている平川。ふたつのカテゴリーで世界をつかむための多忙な日々が、これからも続いていく。

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