アメリカのミッドオハイオで開催された『FIA TCRワールドツアー』の第3戦は、接触バトル多発で多くのドライバーが「クレイジーな週末」と称する肉弾戦を経て、テッド・ビョークとヤン・エルラシェール(リンク&コー・シアン・レーシング/リンク&コー03 TCR)が連勝を達成。しかしアクシデントが続いたレース2は、本来ならワン・ツー・スリーを飾るはずだったビョークが表彰台剥奪、サンティアゴ・ウルティア(リンク&コー・シアン・レーシング/リンク&コー03 TCR)は「週末の予選、決勝からの失格」を言い渡されるなど、物議を醸すかたちで終わっている。
創設2年目を迎え、新たにFIAステータス認証を取得したTCRのツアー戦が北米大陸へ。そんなレースウイークに向けては、彼の地で戦う豪華ゲストもエントリーすることに。
世界戦デビューの地でエルラシェールが復活。リンク&コーが週末完全制覇を達成/TCRワールドツアー第2戦
近年はIMSAミシュラン・パイロット・チャレンジでヒョンデ陣営を代表するブライアン・ハータ・オートスポート(BHA)からは、ハリー・ゴットサッカーとマーク・ウィルキンス(ヒョンデ・エラントラN TCR)が。そしてシリーズ初の女性ドライバーとしてライリー・ペグラム(ペグラム・レーシング/アウディRS3 LMS)が名乗りを上げると、週末を目前にサミ・タウフィックに代わりミーガン・トムリンソン(ボルケーノ・モータースポーツ/アウディRS3 LMS 2)も、ふたり目の女性ドライバーとしてグリッドに並ぶことがアナウンスされた。
一方、前戦マラケシュのレース2で車両にダメージを負っていたエルラシェールとウルティアの最新型リンク&コー03 TCR“FL”は、エンジン交換によりレース1で12グリッド降格のビハインドを背負うことに。同様に戦績による補償重量でもそれぞれ30kgと40kgを搭載し、厳しい勝負になることが予想された。
そんな前提条件を反映し、週末のフリー走行(FP)はヒョンデ陣営のBRCヒョンデNスクアドラ・コルセ優位で進むと、予選ではミケル・アズコナが僚友ノルベルト・ミケリスを0.5秒以上突き放し、待望の今季初ポールポジションを手にした。
「シーズン序盤の苦戦の後、週末の最初からこの瞬間を待ち望んでいた」と喜びを語ったアズコナ。
「正直に言うと、FPは僕たちにとって厳しいものだった。路面状況が非常に難しく、滑りやすい路面だったからね。でも最高の状態にマシンをセットアップするべく多大な努力をし、FP2の後は満足できるほどマシンは完璧だった。だからこそ、明日は仕事を完遂する必要があるね」
そう語ったアズコナはレース1のスタートから首位を堅持するも、その背後では2列目3番手発進から王者ミケリスを早々に仕留めたビョークが浮上してくる。その2台に対し、当初はギャップを築くことができた首位アズコナだったが、終盤に入りペースが鈍るといくつかのコーナーでビョークとサイド・バイ・サイドの状態に。
残りわずか数周でトップの座を明け渡し、ファイナルラップでは僚友のミケリスにも道を譲り、フィニッシュ後にはエラントラN TCRのフロントアンチロールバーに問題を抱えていたことを明かした。
「奇妙な音が聞こえ、クルマのバランスが非常に悪くなったから、何かが壊れたんだ」と失意のアズコナ。
「DNFになりたくないからクルマをコントロールし始めたが、ベストを尽くしてもビョークに対抗するのは非常に困難だった。2位でフィニッシュしようと考えていたが、チームからポジションを譲るように言われたんだ……」
■バトル中に“規約違反の行為”があったとして3名にペナルティ
一方、このヒートで終始ビョークを追走した選手権首位のミケリスは「青いマシンはかなり速く、昨日(のFP)と比べてかなり改善されていた」との見立てを述べた。
「スタートがかなり悪かったから、すぐにポジションを落とした。でもレースの最初から力強さを感じ、マシンが活き活きとし始めた。最終的に2位でフィニッシュしたのはOKだが、マタドール(アズコナの愛称)には同情する。彼は勝利に値した。しかしときにはこういうこともある」
予選トップ10リバースの採用でマルコ・ブティ(ゴート・レーシングチーム/FL5型ホンダ・シビック・タイプR TCR)がリバースポールから発進したレース2は、中段グリッドからリンク&コー・シアン・レーシング艦隊が前方車両を蹴散らしながら浮上してくる展開に。
オープニングヒートで降格ペナルティを消化したエルラシェールが、今季のツアーフル参戦が決まったドゥサン・ボルコヴィッチ(ゴート・レーシングチーム/FL5型ホンダ・シビック・タイプR TCR)を早々に仕留めて2番手に進出すると、さらに派手なオーバーテイクショーを演じたのがビョークに。
このヒートを8番グリッドから出たWTCC世界ツーリングカー選手権“最後の王者”は、僚友ウルティアのリアバンパーに迫ると、続くラップでは3位争いのボルコヴィッチにも追いつき、ターン9で接触しながらも前に出る。
これに乗じてウルティアやマ・キンファ(リンク&コー・シアン・レーシング/リンク&コー03 TCR)も続き、その勢いを見た2番手エルラシェールはビョークを先行させ、ホンダのブティ攻略を任せる。
その期待どおり、13周目のターン9でFL5型シビックのイン側に鼻先をねじ込み、接触しながらもトップに躍り出たビョークに続き、エルラシェールもこのバトルに乗じて2番手へ。その数コーナー後、ビョークはチームメイトを先頭のポジションへ戻す徹底したチームプレーを演じてみせる。
一方のブティは、ウルティアと複数コーナーでホイールをぶつけ合うバトルを強いられ、表彰台圏内から脱落。最終的に17周を終えてエルラシェール、マ・キンファ、そしてビョークの順でチェッカーを受け、4位にエステバン・グエリエリ(ゴート・レーシングチーム/FL5型ホンダ・シビック・タイプR TCR)、5位アズコナのトップ5となった。
しかしレース後のスチュワードは、これらバトルの中で規約違反の行為があったとして3名にペナルティを課し、レース2チェッカー後のスローダウンラップで、グエリエリに激突したウルティアを実質的に週末から追放する措置を採った。
「スチュワードはビデオ映像を検証し、この問題について徹底的に議論した結果、112号車のドライバー(ウルティア)が186号車(グエリエリ)との衝突の責任を負っていると判断した。チェッカーフラッグが振られた後、112号車は速度を落とさずに複数の車両を追い越し、186号車に近づく際に減速し、186号車との故意の衝突を引き起こした。112号車のドライバーは自分の責任と意図を認め、186号車のドライバーに謝罪した。そのためスチュワードは112号車のドライバーがその操作の責任を負っていると判断し、宣告のペナルティが適切であると決定した」
さらにホンダのブティとシアン・レーシングのビョークにも接触による5秒加算ペナルティが課され、後者は3位表彰台から6位へと降格。最後の表彰台はグエリエリが手にする結果へと変わっている。
そんな禍根を残す結末となったFIA TCRワールドツアーの続く第4戦は、そのままアメリカ大陸を南下してブラジルへと移動し、7月20~21日にインテルラゴスで争われる。
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