選択肢が多すぎる
text:AUTOCAR UK編集部
【画像】ドライバーの夢を乗せて走るクルマたち【世界のスーパーカー7選】 全242枚
translator:Takuya Hayashi(林 汰久也)
2020年、スポーツカーの販売台数は前年比7%増となり、新車市場全体の2.9%を占めるようになった。外出機会が減っている中、かなり印象的な売れ行きだ。
大半はアウディTTやマツダMX-5(ロードスター)のような比較的手ごろなモデルだが、フェラーリやランボルギーニといった高級ブランドのスーパーカーはどうだろうか?
残念ながら、バラ色とは言えない。フェラーリを除いて、全体的にスーパーカーの販売台数は減少している。ジェイトー・ダイナミクス社のアナリスト、フェリペ・ムノスによると、欧州の3大市場(英国、ドイツ、スイス)ではスーパーカーの価格が0.8%下落したという。
「これは主に、比較的安価な仕様の導入と、最も高価な仕様への需要の低下の結果です」とムノスは述べている。
この見解は、AUTOCARが話を聞いた多くのディーラーの意見とも合致する。英ノースヨークシャー州にあるアレクサンダーズ・プレステージ社のマネージングディレクター、アンドリュー・ノースは、2020年は20万ポンド(約2800万円)以下のスーパーカーの販売は非常に好調だと語った。
実際、ノースは8月だけで7台のフェラーリ488を「強気の値段」で売ったという。しかし、ハイエンドモデルを作るメーカーが多すぎて、それが価格だけでなく需要の減少を招いているとも述べた。
彼はその例としてマクラーレンを挙げ、あまりにも多くのモデルを作っているため、選択肢が多すぎると述べている。「マクラーレンは自業自得です。ですが、マクラーレンだけではありません」
下落を続ける中古スーパーカー
オークションサイト「Collecting Cars」の創設者であるエドワード・ラベットは、次のように語った。
「メーカー各社が競い合っているので、マクラーレン・エルバ、アストン マーティン・スピードスター、フェラーリ・モンツァSP1とSP2があります。こうしたクルマの買い手をすべて知っているわけではありません」
買い手は依然として、究極の「独占性」を求めている。自身の名前を冠したディーラーの創設者であるトム・ハートリーは、ベントレー・パイクスピーク・コンチネンタルGTを引き取ったばかりだが、これは右ハンドル仕様で製造された3台しかないうちの1台だ。
「3台しかないので、ベントレーのコレクターがわたしからこのクルマ買うことになるでしょう。買い手は世界でたった3人しかいないオーナーのうちの1人になるでしょう」とハートリー。
人々は究極の独占性を求めて高額を支払うが、ハートリーは、上昇したものは下がる可能性があることを覚えておくことが重要であると述べている。2008年の金融危機後に見られた価格上昇は間違いなく終わり、中古スーパーカーの価格は2016年以降25~30%下落している。
ニューモデルでさえ、ファミリーカーと同じように減価償却に直面することがよくある。ハートリーによると、2018年にフェラーリ812スーパーファストを42万5000ポンド(6095万円)で販売したが、取材の1週間前には同じ2018年モデル(走行距離3200km)を22万ポンド(3155万円)で販売したという。
ラベットは、「わたしが思うに、買い手はいささか世間知らずで、何のコストもかけずに非常に高価なクルマを乗り回せると考えていたのではないでしょうか」と述べた。
今、派手すぎるクルマは売れない
サーキット走行に特化したクルマのオーナーにとっても朗報は少ない。AUTOCARが話を聞いたディーラーやコレクターの中には、ポルシェ911 GT3やGT3 RSの価値が著しく低下しているため、買い替えを提案する人もいた。
2020年はサーキットに行きづらくなっているため、サーキット走行に特化したクルマの価値が下がっているというのがコンセンサスだ。
また、このような現状に起因する社会的要因もある。「パンデミックのせいにするのは非常に簡単だと思います」とラベットは語る。
「30万ポンド(約4300万円)のクルマを運転している人は、おそらく多くの従業員を抱えたビジネスを営んでいて、時短勤務にしたり、解雇したりしなければならなかったかもしれないからです。従業員を解雇するなどした場合、フェラーリで走り回っていることを誇示するのは適切なのでしょうか?おそらくそうではありません」
そのため、それほど派手ではないが高価なモデルを求める買い手が出てきた。ブリストル近郊のウィリアムズ・オートモービルズ社のヘンリー・ウィリアムズによると、顧客の多くはスーパーカーを手放したか、少なくとも隠しているという。
ウィリアムズは、ロータスやケータハムと一緒にモーガンを販売している。それは、ポルシェやフェラーリのように贅沢ではないので、周りの人が反応する可能性が低いからだという。
彼が苦労しているのは、オーナーが下取りを希望するスーパーカーを、希望通りの価格で他のディーラーに引き取ってもらうことだ。昨年、多くのスーパーカーが市場に出回ったことが、状況をさらに悪化させているのではないかと推測している。
検索してみたところ、英国の大手中古車サイトで800台のフェラーリが見つかったが、その中には488ピスタが30台、F8トリビュートが19台、812スーパーファストが45台含まれていた。供給過剰が価格を押し上げることは滅多にない。
「アイコン」となるモデルに注目
SUVの普及もその一翼を担っていると、ムノスは言う。ほとんどのディーラーによると、SUVには確かに魅力が多く、かなり高い値段で取引されているという。
「信じられない」とこぼすのはハートリーだ。「最初に感じたのは、発売されたときには大きな打撃を受けるだろうということでしたが、ウルスは18か月前の個体であっても、十分な金額で取引されています」
これはすべて市場のリバランスと見ることもできる。しかし、富裕層の買い手は最新のハイエンドスーパーカーを手に入れることに執着しなくなってきていると言う人もいる。彼らにとっては、人生があまりにも速く、デジタル化しすぎているため、自分にとって何か意味のあるクルマや、気軽に楽しめるクルマを求めているのだ。
それが、1980年代の偉大なクルマのほか、アストン マーティン・シグネットのようなかつては酷評されたクルマの価格上昇の理由だろう。
ラベットは、希少なフェラーリ、ポルシェ、メルセデスを所有している裕福なコレクターが最近、街乗りを楽しむためにオークションサイトからフィアット・パンダ4×4を6000ポンド(86万円)で購入したと教えてくれた。
AUTOCARが話を聞いた人たちは皆、ある1点についてはっきりと同意した。簡単に利益を上げたがっている投機家やディーラーの時代は終わり、その代わりに、トヨタGRヤリスのような未来のアイコンに目を向けているということだ。
一方、コレクターにとっては一筋の光明が差している。車両価格分析会社キャップHPIの自動車評価担当エディターであるクライヴ・ウィルソンは、価格のさらなる軟化は見られるものの、スーパーカー市場は比較的堅調に推移するはずだと述べている。
「1年後の価格が今日よりも下がっていても、スーパーカーは他の中古市場を上回るパフォーマンスを発揮すると予想され、長期的には合理的に安定した市場につながると考えられます」
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みんなのコメント
逆に景気のいい時に大盤振る舞いする奴が負ける。
高い買い物は景気の悪い時に限る