トヨタのお膝元で開催されているWEC世界耐久選手権の2024年シーズン第7戦。レースウイークの中日となった9月14日は、日曜の決勝レースに向けた予選が行われ、今季限りでチップ・ガナッシ・レーシングとの提携を終了するキャデラックが、日本メーカーの5年連続でポールを阻む活躍を見せた。
そんな白熱した予選&ハイパーポールが実施された富士スピードウェイのパドックから、最新情報とトピックの数々をお届けする。
3年目で巡ってきた初アタッカーに“魅せた”平川「状況を考えると最大限」と納得の手応え【トヨタ予選の裏側】
■7戦で6車種目のポールシッター誕生
キャデラックはWECで初めて総合ポールポジションを獲得し、アレックス・リンとアール・バンバーが駆る2号車は第3戦スパ・フランコルシャン以来、5戦連続で予選トップ4入りを果たした。キャデラックVシリーズ.R(キャデラック・レーシング)のこれまでの最高位は2番手であり、今季2024年のスパとル・マンで記録している。
リンが獲得した初の総合ポールは、全クラスを通じて4度目。前回は2017年、Gドライブ・レーシングから参戦したその年のル・マン24時間レースでLMP2クラスのポールシッターに輝いている。
LMGT3クラスで初めてポールポジションを獲得したフランソワ・エリオ(ビスタAFコルセ/55号車フェラーリ296 GT3)は、フェラーリに同カテゴリー初のポールをもたらした。これによりイタリアのスーパーカーブランドは、シボレー、ポルシェ、ランボルギーニ、マクラーレン、アストンマーティンに続き、2024年の予選でトップに立った6番目のLMGT3メーカーとなった。
フェラーリAFコルセ所属のアントニオ・フォコは、昨季2023年の富士の苦戦を考えれば、50号車フェラーリ499Pで7番手にとどまったことに失望していないと述べた。
このイタリア人ドライバーは、「昨年から一歩前進できたのだからポジティブな面を見る必要がある。チームとして僕たちはよく働いてきたと思うし、できる限りのことをした。昨年のレースから多くのことを学び、昨年のベースを生かし、週末を通して良い一歩を踏み出すことができた」と語った。これに続けられた「チャンピオンシップのライバルたちが目の前にいるので、チャンスがあれば彼らと戦おうと思う」という言葉は半ばお手上げと捉えることもできるが果たして……。
■選手権リーダーが苦戦する理由
アレクサンダー・マリキンは92号車ポルシェ911 GT3 R(マンタイ・ピュアレクシング)で今シーズン初めてハイパーポール進出を逃し、決勝レースをクラス14番手からスタートする。
チームメイトのジョエル・シュトーム、クラウス・バハラーとともにLMGT3クラスのランキング首位に立っている彼は次のように語った。「(合計45kgの)サクセスバラストの影響もあるが、この結果はそれだけが原因ではない。我々の計算では、サクセスバラストのせいでコンマ4秒か5秒失っているが、実際には1秒以上ロスしている。おそらく、バラストとセットアップのミックスか、僕たちが知らない他のなにかだろう。ロングランについても同じような状況なので、明日は難しいレースになりそうだ」
富士でも多くのファンを惹きつけているバレンティーノ・ロッシを擁するチームWRTは、2台揃ってハイパーポールを逃した。31号車と46号車のBMW M4 GT3は開幕戦から第6戦まですべてのラウンドで予選トップ10に入っていたが、今年初めて一次予選で敗退。31号車は後ろから3番目のクラス16番手、ロッシ組46号車は12番手から挽回を図る。
TFスポーツの小泉洋史(82号車シボレー・コルベットZ06 GT3.R)とプロトン・コンペティションのライアン・ハードウィック(77号車フォード・マスタングGT3)は、今年初めてハイパーポールに進み前者が7番手、後者は10番手のグリッドを得た。これによりLMGT3の初年度にハイパーポールを経験していないのは、60号車ランボルギーニ・ウラカンGT3エボ2(アイアン・リンクス)と87号車レクサスRC F GT3(アコーディスASPチーム)だけとなった。
■2025年シーズンの宮田莉朋
TOYOTA GAZOO Racingのチームディレクターを務めるロブ・ロイペンは、現在リザーブドライバーを務める宮田莉朋が、ELMSヨーロピアン・ル・マン・シリーズやFIA F2でのレース活動を含め、来季2025年も同様のプログラムで一年を過ごすことを示唆した。
「莉朋に関しては役割は変わらないと思う」と同氏。「彼は我々のリザーブドライバーだがFIA F2に参戦している。全員がこれに賛成しているので問題はない。彼は今F2をやっているのだから、急いでレースラインアップに彼を昇格させる理由はない」
宮田が2年目もF2に残るのかと尋ねられたロイペンは、次のように答えた。「それが彼の今シーズンの焦点だ。来年わかるだろう」
■遅れて罰金×2
金曜日のFP1で出された赤旗について、ユナイテッド・オートスポーツの59号車マクラーレン720S GT3エボに責任があり、このクルマがリンの2号車キャデラックに衝突したと判断された。マクラーレンをドライブしていたグレゴワール・ソーシーはスチュワードから警告を受けている。
ハーツ・チーム・JOTAは、今週末のレースに関わるチームの人員申告リストの提出期限を守らなかったとして、500ユーロ(約7万8000円)の罰金を科された。イギリスのチームは、9月4日の締切から24時間以上経ってリストを提出した。
ポルシェGTカーの91号車と92号車を走らせるマンタイ・レーシングは別件で500ユーロの罰金を科された。同チームのドライバー6名全員とチームマネージャーは、ドライバーミーティングに4分遅れたという。
■今年中にロッシがハイパーカーをテスト
BMW Mモータースポーツ・ディレクターのアンドレアス・ルースは、来年のWECハイパーカーとIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権のGTPクラスに参加するドライバーのラインアップを確定させるために「懸命に取り組んでいる」と述べた。しかし同氏は、ドイツメーカーが抱える23人のファクトリードライバーの数を減らす可能性を否定した。
「LMDhだけでなくGTのプログラムの数を見ると、すべてのチャンピオンシップにドライバーを派遣するのに少し苦労する週末がある。そして、またすぐに別のレースの週末になり、同じように苦労することになる。同時にやることが多すぎるんだ」
ルースは来年のル・マン24時間レースに、IMSAで活躍するBMW MチームRLLを追加参戦させることについては現時点で「深い議論はない」としつつも、その潜在的なメリットを認める。「クルマは多ければ多いほどいい。その分だけル・マンで優勝する可能性が高まるからね」
二輪レースの元世界王者であるロッシは、今年の後半にBMW MハイブリッドV8で初テストを受ける予定だ。しかしルースはバーレーンで行われるWEC恒例のルーキーテストでそれが行われるかどうかについて明言を避け、「彼は間違いなく今年テストを受けるだろう」と言うに留まった。
■チームオーダーも辞さない
フェラーリAFコルセのチームマネージャーを務めるバッティ・プレグリアスコは、50号車と51号車のドライバーラインアップに「非常に満足」しており、来年に向けて「大きな変更は期待していない」と語った。これはフェラーリのサテライトチームが走らせる83号車フェラーリ499P(AFコルセ)でロバート・クビサとロバート・シュワルツマンが残留しない可能性があるという話が続いているなかでの発言だ。
技術的な責任を負っていない83号車のラインアップ変更について尋ねられたプレグリアスコは、「それはさまざまな状況による」と語った。「彼らはとても良いチームなので、そのままでいてくれたら非常に嬉しい。しかし、このクルマのことは答えられない」
同氏は、もし何らかの変更があれば11月に行われるバーレーンのルーキーテストで新しいドライバーを試すことになるだろうと語った。
ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツのマネージングディレクター、ジョナサン・ディウグイドによると、5号車ポルシェ963が選手権をリードする姉妹車の6号車よりもレースで優位に立った場合、ポルシェはチームオーダーを出す可能性が高いという。
ディウグイドは、「もし(すべてがうまくいき)日曜日に30秒のリードを持ってワン・ツーとなっていれば、ドライバー選手権のためにポジションを入れ替えさせるだろう。しかし一般的な目標は、フェラーリとトヨタの前にポルシェを出すことだと思う」と述べた。
アメリカ・ラウンド前に肘を骨折し、第6戦ローンスター・ル・マンを欠席していたWECのフレデリック・ルキアンCEOが今週末、富士スピードウェイのパドックで現場復帰を果たした。
WEC富士の決勝日、9月15日(日)は8時40分からピットウォーク、10時15分からグリッドウォークが実施された後、11時から17時にかけて富士6時間耐久レースの決勝レースが行われる。
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