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“らしい”言葉から初めて感じた年下のセナ。Vol.50発売記念『GP Car Story』“セナのマクラーレン”が重版決定

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“らしい”言葉から初めて感じた年下のセナ。Vol.50発売記念『GP Car Story』“セナのマクラーレン”が重版決定

 GP Car Story編集長の三橋です。2012年に創刊した『GP Car Story』は、2024年12月にレギュラー号のナンバリングが「50」に到達しました。12年の長きに渡わたり、弊誌が続けられたのも、読者のみなさんのおかげです。本当にありがとうございます。

 ここだけの話……50車種も取り上げれば、売れたクルマ、そうでないクルマ、いろいろあります(笑)。なかでもアイルトン・セナがドライブしたクルマたちは、間違いなく「売れたクルマ」に属します。特筆すべきはマールボロ・カラーのマクラーレンでしょう。黄色いヘルメットと赤白のクルマの組み合わせが放つ存在感はあまりに強く、それはGPカーのラインアップの中でも“稼ぎ頭”という意味で他を圧倒したのは言うまでもありません。

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 おかげさまでVol.50の『MP4/5B』も多くの方に手にしていただきました。その感謝の想いも込めて、ここではVol.50に掲載したセナのインタビューをお届けしたいと思います。

 これから読んでいただくインタビュー(の取材)は、1990年11月に行なわれたものです。鈴鹿で2度目のタイトルを決めた直後、30歳のセナが発する言葉からあなたは何を受け取るか、お楽しみいただければと思います。

 特別なお知らせもありますので、最後までお付き合いいただけるとありがたいです! それではまた、インタビューのあとに……。

* * * * * *

──あなたは、このタイトル獲得を心から喜んでいないようです。お祝いのパーティーもありませんでした。それはなぜですか。

アイルトン・セナ「僕は、いつでも感情を表に出さないようにしている。派手に祝うのは、僕のスタイルではないんだ。自分自身の中では、とてもうれしく思っているよ」

──鈴鹿(日本GP)でのアラン・プロストとの接触事故は、おそらくあなたのタイトルに影を落とすことになるでしょう。そのことを残念に思いますか。

セナ「タイトルに影を落とすようなことなど、何もない。ドライバーズ選手権は鈴鹿の1戦だけで勝ち獲ったわけではなく、それまでのすべてのレースの結果によって手にしたんだ。僕は誰よりも多くのポールポジションと優勝を記録し、レースをリードした距離も誰よりも長かった」

──1988年の初タイトル獲得とこの2回目を比べると、あなたにとってより大きな意味を持つのはどちらでしょう?

セナ「初めてのチャンピオン獲得は、誰にとっても特別なものだ。ただ、あのような状況でタイトルを勝ち獲ったことを考えれば、2度目の方が価値があると言えるかもしれない」

──「あのような状況」とは、具体的にはどんなことですか。

セナ「昨シーズンは獲得したはずのタイトルを“盗まれる”という最悪の出来事を経験した。モータースポーツは僕の人生そのものだから、あのような扱いを受けて僕は精神的に大きな打撃を被った。実際、開幕戦のフェニックス(アメリカGP)ではまったくモチベーションが上がらなかったけど、それでもレースには勝った。そして、第2戦のサンパウロ(ブラジルGP)で母国の同胞の熱い気持ちに触れて、ようやく内なる炎が蘇ったんだ。僕のキャリアを通じて、間違いなくもっともタフなシーズンだったよ」

──ちなみに、プロストは鈴鹿でのあなたの“アタック”はやりすぎだったと思っているようです。

セナ「“彼”が言うことなんてまったく気にしていない。僕は、そこにスペースがあったから飛び込んだだけだ。そのくらいのことは分かっていたはずで、あれはスペースを空けた彼のミスだよ」

──あなたにとってプロストは、“名ばかりの先輩”のようですね。

セナ「“彼”と僕は難しい状況で出会い、互いに相手を見誤っていた。彼は他のドライバーたちにもそうしたように、僕を潰そうとしてきた。だが、彼の試みが成功することは決してないだろう。僕はいつでも自分自身の信念に従って生きているからだ」

セナ「モンツァで彼と握手したのは、ただ僕らの間の緊張を和らげるためで、本当の和解ではなかった。僕は言葉を信じない。信じるのは行動だけだ。そして、彼は自身の行動をもって、モンツァで握手した後もまったく変わってないことを示した。ポルトガルGPの後には陰謀を企て、さらにはチームメイトのナイジェル(・マンセル)にもプレッシャーをかけて、ついにその正体を現したんだ。フィアットやフェラーリのような世界的企業までが、彼の駆け引きみたいなものにしてやられたわけだから、もう笑うしかないね」

──F1のトップドライバーたちの間では、どうしてこれほどトラブルが多いのでしょうか。

セナ「世界中を見渡しても、F1ほど傲慢な人間ばかりが集まったスポーツはほかにはない。ドライバーに限らず、チーム代表、エンジニア、そしてジャーナリストまでが、みんな自分のことしか考えていないからね。そんな業界では、公正さなんて存在しようがない」

■危機感が必要

──1990年のベストレースをひとつ挙げるとすれば、どのグランプリになりますか。

セナ「今年は多くのレースでいいドライブをした。なかでもハイライトは、モンツァ(イタリアGP)だと思う。僕はぶっつけ本番に近い状態で、ポールポジションを獲った。午前中のセッションでエンジントラブルに見舞われ、マシンのセットアップ作業が何もできなかったんだ。だけど、レースではあらゆる面で“彼”に勝った。タイヤのチョイスや戦略もこちらの方が良かったし、バックマーカーの処理の巧みさでも優り、彼がアタックしてくるたびに速いラップタイムを叩き出して突き放した」

セナ「それから、ハンガリーGPも良かったよ。優勝はできなかったものの、勝つことよりも選手権ポイントを6点加えることの方が重要な場面で、戦術的に文句なしのドライブをしたんだ。昔の僕だったら、大きなリスクを冒してでもティエリー(・ブーツェン)にアタックしていただろう」

──1990年はタイトルを手にしたとはいえ、翌年に向けて技術的な面でマクラーレンがフェラーリにリードされていることを憂慮していますか。

セナ「今季のマシンは基本的なコンセプトが3年前のもので、もう開発の余地もなくなっていた。91年に向けて、まったく新しいマシンが必要だ。現時点でフェラーリがかなり優勢なのは、むしろいいことなのかもしれない。チームのメンバーにとっては新たなモチベーションになるし、首脳陣も危機感を持ってくれるだろう」

──FIA国際自動車連盟はいつもあなたを公平に扱ってきたとは言えず、鈴鹿でのポールポジションの位置に関する議論はその一例でした。現在のこのスポーツの管轄機構について、あなたはどう考えていますか。

セナ「F1の世界では、時としてごく当たり前の理屈が通じないことがある。FIAは統治機関だから、何をどうするかは彼らが決めている。その判断は間違っていることもあれば正しいこともあり、いずれにしても僕らは従うしかない」

──最後に、あなたと神の密接な関係について、ごく手短に聞かせてもらえますか。

セナ「神はあらゆるものを掌握しておられる。一度でもそれを身をもって学ぶような経験をすると、さらに深く知りたくなるものなんだ。それは普通とは少し違った人生の楽しみ方でもある。だけど、このことについてはあまり話したくない。プレスがしばしば、僕の信仰心を誤解してきたからだ」

セナ「あまりにも率直に多くを語りすぎたという意味では、僕自身にも責任があるかもしれない。内面的なことに関しては口を閉ざして、何も明かしたくないと思う理由もそこにある」

* * * * * *

 どうも、ふたたびの三橋です。Vol.50を手に取ってくださった多くの方々にとっては、すでに目にされた記事でしょうが、あなたはこのインタビューから何を感じられましたでしょうか?

 私はセナ・ファンであることを隠すつもりはありません。彼の死は当時事故原因を知りたがっていた高校生の私に“ジャーナリズム”という道を示してくれました。セナがいなければ、今頃は違う仕事をしていただろうし、こうして『GP Car Story』を作ることもなかったはずです。

 個人的に私はこのインタビューをとても気に入っています。彼の“らしさ”がつまっているので、最初に目を通した時から心を掴まれたのですが、なにより初めて“年下のセナ”を感じられたのがうれしかったからです。

 セナは私より18も年上。10代前半の子供からすれば、18も年が上の世代の人は世界が違って見えるほど大人に感じます。セナの死から30年が経ち、当時10代だった私ももう50を手前のおっさんです。そんな今の私がこのインタビューを読んだ時に初めて年下のセナを感じたのです。それがとても新鮮でした。

 これはただの子供の言い訳、それが私の率直な感想です。「悪いのは自分でなくアイツら」、それを一生懸命に訴えようとしている。現在の40代後半の私から見た、30歳のセナは正直に言って子供でした。この感覚を体感できただけで、このインタビューを読む価値があったと思えています。自分にとってセナはずっと神格化してきた存在です。とはいえ、彼がした1990年鈴鹿の行為を肯定するつもりはありません。セナの中にある“善と悪”、人にはいいところも悪いところもある、それを理解したうえで私は彼のファンなので……。

 このインタビューのセナは年相応等身大の若者そのもの。ただ、これ以降の彼は急速に心の成長を遂げていったと思っています。セナの存在がF1をも超越していく要因は、心の成長とともにあったと私は信じていますし、1991年から1994年にかけてのセナは急速に大人の階段を駆け上がっていったと感じるのです。その意味でこのインタビューは、成長過程でまだセナの心に幼い部分が残っていた頃の最後の貴重なものだと感じました。それを意識して読み返すと、ファンとしてはまだ幼く感じられる彼の言葉が愛おしく感じられ、満たされた気持ちにもなるのです。

 2012年に『GP Car Story』を立ち上げた際に、自分の中では創刊直後の4号で特集する車種を決めつつ、セナ・ファンのひとりとして最初に考えたのは、彼の「マクラーレン」をどう配置するかでした。ファンである以上、どうしてもセナのマクラーレンを制作したい衝動に駆られます。その偏りをなくすため、Vol.1で『MP4/4』、Vol.10に『MP4/7A』、Vol.21『MP4/5』、Vol.30『MP4/8』、Vol.41『MP4/6』、そして最新Vol.50の『MP4/5B』と、およそ10号置きに規則性を持たせて配置したのです。自分の中でこれだけを決めて、私はGP Car Storyを始めました。

 創刊から12年でようやく『Vol.50』に達し、当初から自分が特別な想いを抱いていた“セナのマクラーレン”を無事にすべて特集し終え、やはり達成感はあります。ありがたいことにセナのマクラーレンは特集のたびに多くの方々が手に取ってくださり、その結果、品切れで一部の方に迷惑をおかけしてしまったことは否めません(申し訳ありません)。

 そこで今回、Vol.50『MP4/5B』の発売に合わせて、すべての“セナのマクラーレン”特集を重版することになりました。2月5日(水)、本日よりお買い求めいただけます。これまでずっと再販をお待ちいただいた方、Vol.50の『MP4/5B』を読んで初めて弊誌に興味を持っていただいた方、これを機にたくさんの方々に“セナのマクラーレン”をコンプリートしていただけたらと思います。

 最後に“セナのマクラーレン”の完走はあくまで、のことです。この先、“2周目”があるかもしれません。現時点で断言はできませんが、ひとまずの完走になります。GPカーはまだまだ続いていきますので、「可能性はゼロではない」とだけお伝えしておきます。

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文:AUTOSPORT web
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