レーシングブルズの今季マシンVCARB02は、ドライバーにとってかなり扱いやすいマシンに仕上がっている。しかもチーム代表のアラン・パルメインは、ルーキーだけでなくトップドライバーにとってもメリットのあるマシンだと発言している。
その発言からすると、今季レッドブルのマシンで苦しんでいるマックス・フェルスタッペンが試しに乗る……という可能性もあっても不思議ではないが、実際にはどうなのだろうか?
■レッドブル、トラブル脱出にレーシングブルズは”活用”できない?「マシンの起源が違うから不可能だ」
今季のレッドブルのマシンRB21は、適切なパフォーマンスを発揮できるウインドウが著しく狭く、扱いにくいと言われている。一方で姉妹チームのレーシングブルズのマシンVCARB02は、ドライバーに対して”ユーザーフレンドリー”であり、安定して高いパフォーマンスを発揮することができる。
それは角田裕毅のパフォーマンスを見ても明らかだ。角田は今季開幕をレーシングブルズのドライバーとして迎えた。そして開幕2戦で常に上位勢に次ぐ位置を走り、中国GPのスプリントでは6位入賞。オーストラリアGPと中国GPの決勝では、大きな戦略ミスによりビッグポイントを失っている……計算上は、18ポイント失ったとも考えられる。
その速さにより角田は、第3戦日本GPからレッドブルに昇格。しかしその後は9位(バーレーンGP)が精一杯で、レーシングブルズに乗っていた頃の方が速いくらいである。
正反対に、角田にレッドブルのシートを奪われる形でレーシングブルズに戻ったリアム・ローソンは、シーズン前半で20ポイントを獲得。角田の倍となるポイントを稼いでいる。ハンガリーGPでは、フェルスタッペンよりも上の8位でフィニッシュした。
意図的に扱いやすいマシンを開発したレーシングブルズ
角田とローソンの成績の推移は、この2チームのプレッシャーの差、フェルスタッペンのチームメイトを務めることの難しさを如実に語っている。そして同時に、両方のチームのマシンの違いも、間違いなく物語っていることだろう。
レーシングブルズのパフォーマンスウインドウは明らかに広く、ドライバーにとっては扱いやすいマシンになっている。これは意図的に目指したものだったようだ。
「冬に開発に取り組んだ。そして、良いマシンに仕上がったと実感したんだ。実際にレースに出るまで判断が難しいが、バーレーンでのテストでも確信が持てなかった。その週は燃料をかなり多く積んで走ったからね」
パルメイン代表は、ベルギーGPの際にそう語っている。
「そして最初のレースで自分たちの成果を実感し、それがこのマシンの残りの開発の原動力となった」
レーシングブルズは、前身のRB時代、アルファタウリ時代、トロロッソ時代を通じて、ルーキードライバーが乗ることが多かった。レッドブルのジュニアチームという位置付けだからである。そのため、扱いやすいマシンを用意するのは、チームに根付いたDNAとも言える。
しかしパルメイン代表は、扱いやすいマシンになっていることは、ルーキーのためというよりも、むしろ一般的なことだと語った。
「正直に言って、そう(ルーキー向けだと)は思わない。昨年から今年にかけて、冬の間に発見したことだと思う」
「我々はマシンを作り上げた。おっしゃる通り、ルーキードライバーにとっては有利になるモノだ。しかしトップクラスのドライバーであっても快適にドライブすることができ、パフォーマンスを最大限に引き出せるマシンになっていると思う」
フェルスタッペンが乗れれば?
トップドライバーでもドライブしやすいのなら、例えば今レッドブルのマシンで苦しんでいるフェルスタッペンがこのVCARB02に乗ったらどんな速さを見せるのか……それは多くのファンが気になるところであろう。
レースウィークエンドは、多くの注目が集まり、スポンサーシップの関係もあるため、突然フェルスタッペンが別のマシンに乗るのは難しい。それは理解できる。しかしフィルミングデーを活用することはできるはずだ。
各チームには年に2日、ピレリ製のデモタイヤを使って、最新マシンを走らせることができるフィルミングデー(つまり撮影用の走行)を実施することが許されている。もしこれを使って、フェルスタッペンにVCARB02をドライブさせることができれば、レッドブルにもレーシングブルズにとってもメリットをもたらすことになるだろう。
例えばレーシングブルズとしては、現在のマシンの性能のベンチマークを設定することができるし、アイザック・ハジャーのパフォーマンスを見極めることができる。レッドブルとしても、扱いやすいマシンとは何たるかということを探る手助けになるはずだ。それを、フェルスタッペンという最高の”計測器”で測るのだ。
ハンガリーGPの際、レーシングブルズのマシンに乗ってみたいと思ったことはあるかと尋ねられたフェルスタッペンは、笑いながら「まあその話はしないでおこう」と答えた。
パドックのある関係者によれば、フェルスタッペンがレーシングブルズのマシンに乗らない理由のひとつは、この話題がライバルの間でデリケートな問題になりかねないということだ。そもそもレッドブルとレーシングブルズの関係性、つまりAチームとBチームの関係性について、疑問視するチームもあるからだ。
マクラーレンのチーム代表であるアンドレア・ステラは、ハンガリーGPの際に行なわれた会見で、AチームとBチームの関係性について改めて言及した。
「マクラーレンとしてはこれまでも、各チームの独立性について繰り返し問題提起をしてきた。完全に独立して活動するチームが、相互依存的な他チームを持つことの優位性から守られるよう、議論すべき重要な問題だ」
「マクラーレンはルールとその運用方法に関して、自信を持っている。これは、異なるチーム間の連携に伴うリスクに対処するための良い方法だと考えている」
「しかしこれは、建設的な議論の対象となるべきテーマであり、将来的には独立チームの問題に、現在とは異なる形で対処できるようになるかもしれない」
事実上はフェルスタッペンがレーシングブルズのマシンに乗ることはできるものの、ライバルチームの視線を考えれば、そういう印象を与えすぎないようにする必要があるかもしれない。
またもう一方で、両チームのマシンを比べるには、既に遅すぎるということもある。来季からF1のレギュレーションが大きく変わるため、いずれのチームも開発の中心を来季用マシンにシフト。今季用のマシン開発に割くリソースは少ないというのが現状だ。予算と風洞実験の制約もある。
またレッドブルのローレン・メキーズ代表は、RB21とVCARB02は「出自があまりにも異なるため、一方のマシンから別のマシンに何かを転用するのは不可能だ」とも語っており、いくら姉妹チームだとはいえ、それを有効活用するのは簡単なことではない。
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