ドラッグレース界の最高峰NHRA(National Hot Rod Association/全米ホットロッド協会)のシリーズ戦に向け、2020年初頭からプログラムの検討を進めていた北米トヨタは、11月12~14日にアメリカ・カリフォルニア州のポモナ・オートクラブレースウェイで開催された2021年最終戦に合わせて、新型『トヨタGRスープラ・ファニーカー』を初披露した。
トップフューエル・ドラッグスターに次ぐファニーカー・クラスの2018年チャンピオンであるJ.R.トッドと、ナショナル選手権勝者であるアレクシス・デジョリアのドライブで、2022年2月17~20日に開催される『ルーカスオイルNHRAウインターナショナルズ』で実戦デビューを飾ることがアナウンスされた。
NASCARの3シリーズでタイトル決定。カップシリーズは年間10勝目を挙げたラーソンが初戴冠
NASCARで3度のドライバーズチャンピオンを獲得し、現在もスチュワート・ハース・レーシングを率いてCupやXfinityのシリーズに参戦するトニー・スチュワートが、自らの名を冠するトニー・スチュワート・レーシング(TSR)名義でフル参戦することでも話題のNHRAに、かねてよりトヨタの北米法人も熱い視線を注いできた。
現在NASCARのトップカテゴリーたるカップ・シリーズでは『カムリ』で戦うトヨタだが、Xfinityのシリーズには並行して『GRスープラ』を投入している。その新たなモータースポーツ展開の選択肢として、トヨタ・レーシング・ディベロップメント(北米TRD)のエグゼクティブ・エンジニアを務めるアンディ・グレイブスは「(同社代表の)ポール・ドレシャル以下、北米トヨタのメンバー全員が、今こそ『トヨタGRスープラ』を展開して、NHRAのファンにスープラの姿を届ける絶好のタイミングだと感じたんだ」と、その参入動機を語っている。
「ご存知のとおり、すでにGRスープラはXfinityに導入されていて順調な戦果を挙げている。そしてこの新しいスープラのボディスタイルを使用できれば、NHRAにもさらなる興奮をもたらし、本当に素晴らしいクルマになると確信したんだ。我々としても、それを実現できたことを非常に誇りに思っているよ」と続けたグレイブス。
新規参戦カテゴリーに向け新しいボディを設計することは、トヨタやCALTY Design Research(キャルティ/1973年創設のトヨタ自動車による北米デザインスタジオ)のチームにとって目新しいことではないものの、グレイブスによればNHRAのパラメーター内で実際のデザイン作業行うことは、既存のNASCAR車両よりも「はるかに大きな課題」であったという。
■GRスープラのように見せるため、多くの作業が必要に
「そう、これに関しては……NHRAのメンバー全員と話し合いを重ねたが、彼らもレースカーにもっと生産車のスタイリング要素を取り入れるべく挑戦したいと考えていた」と率直に明かしたグレイブス。
「彼らもその方向に進みたい願望があり、我々としてもイメージ訴求の点でそれを望んでいる。しかし生産車のタテヨコ比に近いNASCARやトラック・シリーズならまだしも、ファニーカーは幅が広く、とても長大なホイールベースを持っている」
「我々のトヨタ・スープラ……とくにGRスープラでは、プロダクションカーのクォーターパネルとサイドパネルには大きなこぶや膨らみがたくさんあり、抑揚の効いた面構成が特徴となっている。それをファニーカーのデッキと車両側面に移植するにあたり、それが『トヨタGRスープラのように見える』ことを確認するのに多くの作業が必要だった」
このデザイン作業を通じて北米トヨタ本社と協業したCALTYは、CFD(Computational Fluid Dynamics)による初期のデザイン作業を経て風洞試験を実施し、NHRA技術部門を満足させるために、それらの性能要件を満たす開発工程が採用された。
「それは我々が慣れているよりもはるかに大きな仕事だった。このループでは、変更を確認したい内容や領域のパフォーマンス・フィードバックを提供し、変更後でも可能な限り多くのスタイルを維持できるようにした。個人的には、今日競合する他のどのファニーカーよりもはるかに多くのキャラクター要素を持っていると手応えを感じているんだ」
一方、このクルマのステアリングを握る第一人者のトッドも、今回のプロセスのもうひとつの珍しい部分として“ドライバーの視界”についてのフィードバックを提供し、安全性向上に貢献できたことを歓迎するコメントを残した。
「本当にワクワクする経験だった。彼ら(北米TRD)は私に対し『何を改善して欲しいか』について質問をしてきたんだ。通常、この世界のドライバーはそれを求められず『黙ってそこに座れ、シグナルに反応して床までガスペダルを踏め』と言うだけさ。でも競争をより良くし、ドライバーが快適であり、勝つために必要なすべてのツールとリソースをトヨタは求めていると感じたんだ」と、2018年にはカムリ・ファニーカーでタイトルを獲得したトッド。
「まずクルマの中でカメラグラスを着用し、最終的にはヘルメットにバイザーカムを取り付けて、自分が見ることが出来るものと見えないものの視野を確認した。その視界に関するフィードバックを元に、彼らは安全フォームを備えた頭部周辺空間の拡大と車室温の管理を徹底した。その結果、現在のトヨタTRDカムリよりもはるかに優れたものに仕上がったよ」
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