BMWモトラッドの「M」は、今や3機種にラインアップを拡大
BMWがモータースポーツ関連の製品開発と生産を担う部門として、BMWモータースポーツ社を設立したのは、1972年のこと。ここからレース活動とスポーツに特化したマシン開発がスタートし、間もなく公道版のスポーツモデルが誕生。青、紫、赤のMストライプを付けた特別なモデルたちは、BMWファンやレースファンの注目するところとなったが、以降、4輪では「M」(モータースポーツの頭文字)のロゴを付けたスポーツバージョンのモデルがリリースされてきた。
【画像22点】どれも価格は300万オーバー、最高出力210馬力以上!「BMWの最強バイク、Mシリーズの3車を写真で解説」
その流れが2輪へも波及し、車名にMを冠したモデルが登場したのは2021年のM1000RRからだ。スーパースポーツのS1000RRをベースにレースのホモロゲーションを見据えた仕様で、エンジン性能アップのほか風洞実験で練られた大きなウイングレットを装備して空力性能を研ぎ澄まし、各部も軽量化。さらにはグレードアップした前後サスペンションでパフォーマンスも磨き上げられた。
BMWモトラッドは最新型のM1000RRについて「最高速度は314km/hまで向上」と紹介しているが、公道上で試す場面は皆無。それでも魅力を放つのは、そんなポテンシャルを秘めていること。またそれを普通の道で普通に乗ることもできるし、手元に置いておけるからだろう。
4輪でレースでも走れるようなスペックのモデルを所有するとなれば、2輪とはケタ違いの費用になるだろうが、M1000RRの価格は384万9500円~(Mコンペティション・パッケージは448万8500円)なのに対し、ベース車のS1000RRは264万6000円~。つまり100万円+αでレース仕様に近づけられるなら「せっかくだし、奮発してMのRRにするか」という層がいても不思議ではないだろう(残念ながら、筆者は該当しない)。
しかし、BMWモトラッドはこれにとどまらず、ネイキッドのS1000RをベースとしM1000Rも2023年にリリース。そして2024年、クロスオーバーツアラーのS1000XRのM版M1000XRも、5月より日本で発売した。
「スーパースポーツのM版は腑に落ちるが、ネイキッドやツアラーのM版とはこれいかに?」と個人的には思うものの、BMWモトラッドとしては4輪と同様にMシリーズを同社のプレミアムブランドとして有効活用するねらいなのだろう。
かくして、その3モデルのMを試す機会が与えられたのだが、舞台はモビリティリゾートもてぎのサーキットフルコース。Mにとっては格好の性能発揮の場だが、試乗当日は最悪の雨なのだった。
……ちなみに3台合計すると1000万円以上のお値段になる。
純正タイヤは恨めしいほどのハイグリップ設定
試乗に用意された、色んな意味で屈強な3台のMシリーズだが、雨には分が悪い。その理由の第一は、標準装着のタイヤだ。
■M1000RR=ミシュラン・パワーカップ2。公道走行も可能なサーキット用タイヤ。ミシュランは「最適化されたグリップ性能で、優れたウォームアップ性能」とアピールするが、ウエット性能には一切言及していない。センター部に細かい溝は切られているが、サイドトレッドに溝は皆無だ。
■M1000RとM1000XR=ブリヂストン・バトラックス・レーシングストリートRS11。サーキット用タイヤの同社製R11をストリート用にチューニングしたタイヤ。前述のパワーカップ2よりトレッドに溝は多いが、ブリヂストンは「ドライ路面でのスポーティで高い運動性能を求める方」向けとしている。こちらもウエット性能は触れられていない。
以上のタイヤで、雨のサーキットを走り出すことを、まずはお断りしておく。
3台の試乗車は、ともにMシリーズのSTD(ベーシックモデル)に対して、カーボンホイールのほか、各部にカーボンパーツを装備した値段が高いヤツ……「Mコンペティションパッケージ」だ。
M1000RRは448万8500円(STDは384万9500円)、M1000Rは339万3000円(STDは271万7000円)、M1000XRは392万8000円(STDは327万9000円)。300万円を軽く超えるモデルが3連発、そして雨で滑りやすいタイヤ。攻める気分よりもまず、この試乗取材をどう転ばずに終えるかが最大の使命だ。
「バンク角は浅めを心がけ、速度も極力落としてください」との注意をBMWモトラッド側から頂きつつ、先導ライダー付きで出走となる。バイクの性能がどうのというより、いろんな意味でハードルが高い……。こうした試乗取材は過去にあまり経験がなく、ベースモデル(S1000RR、S1000R、S1000XR)に対してエンジンパワーも各部の仕様も盛ってある「M」に、戸惑いつつのスタートとなった。
【M1000XR】Mへのイメージは、畏怖から意外なる包容力に変わった
まずはクロスオーバーツアラーのM1000XR。雨天走行では緊張度が低くて済むモデルが最初に回ってきてひと安心。最もツーリング志向なキャラクターであり、第3のMとして直近に発売された注目モデルだ。長距離ツーリングにも適してアドベンチャー的なフォルムをまとった同車は、車格も他のMに対してひとまわり大きい。
またがって最初に感じたのは、意外なシートの高さだ(数値上もM系の中で最も高い850mm)。身長173cmの体格では両足接地で足裏の半分以上が浮き、シート面は横幅も広め。またがったままでサイドスタンドを払うにはけっこう無理して足を伸ばす感じなのがちょっと惜しい。だが、座ってしまえばリラックスしたツアラーの乗車姿勢で、座面が広めのシートもツーリングで具合がいいだろうと想像できる。
走り出しても、適度な車重(223kg、RRは191.8kg、Rは199kg)と長めのホイールベース(1548mm、RRとRは1455mm)、3車の中では最も寝たキャスター(25.1度、RRは23.8度、Rは24.2度)と長めのトレール(117.4mm、RRは101.4mm、Rは97.6mm)で、シビアすぎないハンドリングは全天候に対応!? 想像どおり融通が効きやすい。
惜しむらくは前述したタイヤであり、どんな状況でも安定して走らせられる印象のXRだから、よりツーリング指向のタイヤを履かせれば鬼に金棒。研ぎ澄まされたパワーと足回りであっても、走りがスポイルされることはないだろう。
モデルのキャラクターに配慮しセッティングされた並列4気筒エンジンは、XRでは他のMモデルより若干抑えられ、最高出力201psを1万2750rpmで発生(RRは212ps/1万4500rpm、Rは210ps/1万3750rpm)。ただし、これほどハイレベルなスペックになると、常用域では(ましてや雨の中ではなおさら)その差など分からない。
把握できたのは、50~60km/hといったこのモデルにとっての低速域でもぐずることなく流せることと、そこからストレートに向けて150km/h程度まで加速していくときの滑らかさ。
こうしたところは、排気量に余裕のある並列4気筒のスムーズなパワーデリバリの利点だ。加えて、こんな状況下でもXRがいい仕事をしているのはライディングモードの賜物で、レイン、ロード、ダイナミック、レースの各モードに加えて、エンジンのドラッグトルク(エンジンブレーキによるホイールロック)を3段階で調整可能なレースプロ1~3のモードまで装備。
試乗中はほぼレインとロードのモードしか使っていないが、走行状態に合わせて適正に動く昨今の電子制御サスペンション技術やトラクションコントロールにも、多分に雨天走行を助けてもらっていたのだろう。
(写真説明)
■試乗車のM1000XR・Mコンペティションパッケージ。カーボンホイールをはじめ、各部にカーボンを採用したほか、専用ステップ、M GPSラップトリガーインターフェイスを標準装備。
■ベース車のS1000XRに対して+31psの201psを1750rpm高い回転数で発生する専用エンジン。二次減速比と4~6速のギヤ比をショート化して、サーキットでのファンライドも意図した加速重視の方向に振っている。
■M1000RRよりは小ぶりなサイズながら、ダウンフォースの積極的な活用をねらってM1000XRにも専用ウイングレットが装備される。
■手動で高低調整可能な小型の専用ウインドスクリーンに覆われたコックピット。6.5インチTFTディスプレイには、M GPSデータロガーや同ラップトリガー用OBDインターフェイス機能を搭載(Mコンペティションパッケージ)。バーエンドミラーもM1000XRの特徴。
■Mコンペティションパッケージはブルーアルマイト色の専用キャリパー「Mブレーキ」を装備し(Mのロゴも入る!)、高い制動力を発揮。前後サスはフルアジャスタブルで、電子制御のダイナミックESAと組み合わされる。
■ステップの角度、高さ、ペダル位置の微調整が可能な「Mライダーフットレスト」(Mコンペティションパッケージ)。反対の変速シフト側は、クラッチ操作不要で適切なシフトアップ・ダウン操作が可能なギヤシフトアシスタントプロを標準採用。
■試乗車のブラック・ストーム・メタリック色がMコンペティションパッケージと組み合わされる一方、ライトホワイト色はMのSTD版として設定され、ホイールや各部パーツにカーボンが採用されない仕様。これはRR、Rでも同様だ。
■2015年に初代が登場のS1000XRは、2020年型で新型にバージョンアップ。そしてM1000XRの登場と同時に2024年型でモデルチェンジ。最高出力を+5psの170psとしたほか、エルゴノミクス改善、デザインの細部変更のほか、スマートキーやUSBポートの標準採用などで機能を充実化。価格は271万3000円。
【M1000RR】ピュアなトラック性能が雨の中では悩ましいが、妙に安定感がある
XRに次いでの試乗となったのが、Mの真打ちとも言えるスーパースポーツM1000RRだ。最高速度が314km/h(!)という斯界のモンスターマシンは、昨今のスーパーバイク世界選手権でドゥカティのパニガーレV4Rと並んで二強を形成するポテンシャルの持ち主だ。
またがった印象で、意外と手強さを感じないのはXRよりも足着きがよく(身長173cmでは足裏が1/3ほど浮く)、車体もコンパクトで軽い車重の恩恵だろう。左右のクリップオンハンドルの下で羽根を広げるカーボン製ウイングレッドが厳ついが、別に邪魔になるわけじゃない。しかし、転倒すると間違いなくグシャッとなる部分だろう(冷や汗)。
またその効果は100km/h程度から実感でき、200km/hでは約12kg、300km/hで最大22.6kgだという。何のことかと言えば、マシンを路面に押し付けるダウンフォースのことで、これがコーナリング時はフロントまわりのグリップを濃密にし、直線ではブレない直進安定性に貢献するのだ。……とはいえ、せいぜい出して160km/hという雨の下では「効いているのかも」という弱い実感しかない。
ただし意外だったのは、最も雨に向かないタイヤを履いていたにもかかわらず、接地感が希薄過ぎて怖いという印象がそんなになかったこと。車体のホールド感がしっかりしていること、前後荷重が適正に配分されていること、制動やトラクションがきっちりと電子制御されているのだろう。悪条件下でもM1000RRは無駄に牙をむかず、フレキシブルに走ってくれたのだった。
(写真説明)
■M1000RRは2021年に初代が登場、2023年型でモデルチェンジが実施された。専用チューンのエンジンやフレーム、サスは初代を踏襲しつつ、大型のウイングレットやカーボン製カウル形状など見直し、最高速を306km/hから314km/hまでアップさせている。
■CNCで削り出したインテークポート、軽量な2リング鍛造ピストン、軽量化したロッカーアームやチタン製バルブ、軽量なパンクス社製チタンコンロッドなどを採用し、カムを最適化した高性能チューンで、S1000RRに対し+2psの212psを発揮するエンジンは、Mシリーズでも最高のスペックを発揮。
■Mコンペティションパッケージに採用されるMブレーキダクトとMエアロホイールカバー。急制動でも効率よくブレーキを冷やすダクトは量産市販車初採用で、エアロホイールカバーは前輪周辺に発生する乱流を抑制して250km/h以上の超高速ストレートで効果を発揮するという。
■サーキットのドライ路面なら真価を発揮するであろう、ミシュランのパワーカップ2。マフラーはアクラポビッチ製。ビレット加工のステップは位置を6ヵ所から選べ、操作ペダル位置も変更できる専用品。
【M1000R】軽快さが魅力のネイキッドだが、その分、環境に左右されやすい!?
一番気軽に乗れそうなモデルという印象が強いのが、ネイキッドのM1000Rだ。コースにも何とか慣れ、最後の試乗となったこのストリートファイターなら、軽快でどんなシチュエーションでもそこそこ走れるだろうと、気楽な先入観で走り出したものの……。
想像どおりに、ハンドリングは3車中で最も軽快な印象だったが、それがウエットなサーキットに合わないのか、コーナーでグリップが抜けるような不安がある。キャスター角はRRとほぼ同等だが、トレールはRRより短く、アップライトな乗車姿勢が影響して前荷重のかかりが少ないためか、前輪側からインフォメーションが希薄な印象。
本来軽快さが生きるハンドリングのM1000Rは、エクストリーム的なアクションを含め、車体を自在に操れて面白いのかもしれないが、グリップ力の薄い路面が相手ではイケないのかも。
とはいえ、場所やコンディションが変われば当然評価が変わる。そして、Mシリーズを雨のサーキットで走らせても、まったくもって取るに足らない評価しかできないが、M=手強い、恐ろしい性能といった先入観を薄めてくれるほどの柔軟さを持っていたのは間違いない。
生憎にも、BMWの2輪版Mの真価を味わう貴重な機会は、乗り手にM(マゾ)な気分を体感させはしたものの……。
(写真説明)
■2番目のMとして2023年に登場したM1000Rは、M1000RRのカウルを取り外し、ストレートバーハンドルでアップライトな乗車姿勢に仕立てたモデル。試乗車はハイグレード版のMコンペティションパッケージ仕様。
■BMWモトラッドはこうしたネイキッドモデルを「ロードスター」と称するが、最高出力210psの高性能エンジンと、ハイグレードな車体構成のM1000Rについては「ハイパーロードスター」とアピール。
■バーエンドミラーを装備し、ハンドルはXRより低めにフラットなバーを装着。ライダーの上体は緩い前傾姿勢となる。左右のスイッチレイアウトと6.5インチのTFTカラー液晶ディスプレイは、ほかのM系2モデルと共通の装備。
<BMW M1000XR主要諸元>
■エンジン 水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク80.0×49.7mm 総排気量999cc 圧縮比13.3 燃料供給装置:フューエルインジェクション 点火方式フルトランジスタ 始動方式セル
■性能 最高出力148kW(201ps)/1万2750rpm 最大トルク113Nm(11.5kgm)/1万1000rpm 燃費15.38km/L(WMTCモード値)
■変速機 6段リターン 変速比1速2.647 2速2.091 3速1.727 4速1.500 5速1.360 6速1.261 一次減速比1.652 二次減速比2.765
■寸法・重量 全長2170 全幅850 全高1382 軸距1548 シート高850(各mm) キャスター25.1° トレール117.4mm タイヤF120/70ZR17 R200/55ZR17 車両重量223kg
■容量 燃料タンク約20L エンジンオイル約4.0L
■車体色 ライト・ホワイト/Mモータースポーツ、ブラック・ストーム・メタリック/Mモータースポーツ
■価格 327万9000円(ライト・ホワイト)、392万8000円(ブラック・ストーム・メタリック/Mコンペティションパッケージ)
<BMW M1000RR主要諸元>
■エンジン 水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク80.0×49.7mm 総排気量999cc 圧縮比13.5 燃料供給装置:フューエルインジェクション 点火方式フルトランジスタ 始動方式セル
■性能 最高出力156kW(212ps)/1万4500rpm 最大トルク113Nm(11.5kgm)/1万1000rpm 燃費15.38km/L(WMTCモード値)
■変速機 6段リターン 変速比1速2.647 2速2.091 3速1.727 4速1.500 5速1.360 6速1.261 一次減速比1.652 二次減速比2.706
■寸法・重量 全長2085 全幅740 全高1230 軸距1455 シート高832(各mm) キャスター23.8° トレール101.4mm タイヤF120/70ZR17 R200/55ZR17 車両重量191.8kg(Mコンペティションパッケージ)、193kg(STD)
■容量 燃料タンク16.5L エンジンオイル約4.0L
■車体色 ライト・ホワイト/Mモータースポーツ、ブラック・ストーム・メタリック/Mモータースポーツ
■価格 384万9500円(ライト・ホワイト)、448万8500円(ブラック・ストーム・メタリック/Mコンペティションパッケージ)
<BMW M1000R主要諸元>
■エンジン 水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク80.0×49.7mm 総排気量999cc 圧縮比13.3 燃料供給装置:フューエルインジェクション 点火方式フルトランジスタ 始動方式セル
■性能 最高出力154kW(210ps)/1万3750rpm 最大トルク113Nm(11.5kgm)/1万1000rpm 燃費15.62km/L(WMTCモード値)
■変速機 6段リターン 変速比1速2.647 2速2.091 3速1.727 4速1.500 5速1.360 6速1.261 一次減速比1.652 二次減速比2.706
■寸法・重量 全長2085 全幅850 全高1110 軸距1455 シート高830(各mm) キャスター24.2° トレール97.6mm タイヤF120/70ZR17 R200/55ZR17 車両重量199kg
■容量 燃料タンク16.5L エンジンオイル約4.0L
■車体色 ライト・ホワイト/Mモータースポーツ、ブラック・ストーム・メタリック/Mモータースポーツ
■価格 271万7000円(ライト・ホワイト)、339万3000円(ブラック・ストーム・メタリック/Mコンペティションパッケージ)
レポート●阪本一史 写真●BMWモトラッド、阪本一史
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