今シーズンのスーパーGTシリーズに登場するニューマシンの中で、GT300クラスで大きな注目を集めているのが、コンストラクターとしての活動に加えてレーシングチームとしてもスーパーGTに参戦を続けているaprが製作したTOYOTA GR86だ。カテゴリーとしてはGTAの定めるGT300規定に則ったクルマ(以下GTA-GT300)ということで、市販のクルマ、この場合はトヨタのGR86をベースにチューニングしたクルマということになる。ただしチューニングというとエンジンをパワーアップしたり、サスペンションを強化したり、というイメージがあるが、この場合は実際のところ、全く別物に作り替えているのだが……。
具体的にはベースモデルのモノコックのキャビンの部分を活かしながら、前後にパイプでスペースフレームを構成。搭載するエンジンも同じメーカーで生産されたものに乗せ換えている。例えばTOYOTA GR86の場合は、オリジナルの2.4リッター水平対向4気筒から5.4リッターV8に乗せ換えられて製作されている。
■2022スーパーGT、気になるニューマシンを大胆分析!:低く身構え、獰猛なイメージが漂うNISSAN Z GT500
この手法は、少し前のGT500クラスと同じようなクルマづくりとなっている。ただ当時のGT500クラスではトヨタと日産、ホンダが5台前後を製作してチームに貸与する格好だったが、近年のGT300はTOYOTA GR86にしろ埼玉トヨペットが製作しているTOYOTA GR Supraにしろ、他のチームに対して“市販”しているというのが最大の相違点だ。
かつてのGT300クラスは、各チームがチューニングや製作を行なう車両が多く、結果的に手造り感満載マシンだったのに比べて、TOYOTA GR86やTOYOTA GR Supraは、工業製品としての出来栄えも相当にレベルアップしている。GTA-GT300が日本に根付いている“モノづくり”の伝承に、ひと役もふた役も買っているのは間違いない。その意味でもGTA-GT300勢には頑張ってもらいたいところだ。
しかしレーシングカーである以上、その出来栄えよりもレースにおける競争力が優先されるのは言うまでない。昔なら単純明快、レースに勝ったら、年間を通じてチャンピオンになったら、それでクルマのパフォーマンスが証明されたことになった。しかし近年ではテクニカルレギュレーション(車両規定や技術規則)が複雑になっていることから、まずは車両規則によるライバルとの関係も考慮しながら判断するしかなくなっている。
GT300クラスにはGTA-GT300に加えて、FIAのグループGT3規定に則ったクルマ(以下FIA-GT3)が混走している。FIA-GT3は、自動車メーカーが年間200台以上生産した車両をベースに製作したもので、24ヵ月の間に20台を市販することが義務付けられている。
国内メーカーも日産が先駆けとなり、トヨタやホンダもこれに追随し、GT3規格のマシンをリリースしてきた。そして海外メーカー製のFIA-GT3車両とバトルを繰り広げ、2019年のスーパーGTでは日産のNISSAN GT-R NISMO GT3がチャンピオンに輝いている。
FIA-GT3はGTA-GT300と全く違った規定で製作されているため、両者のパフォーマンスを横並びにするよう性能調整が行なわれている。GTA-GT300のSUBARU BRZ GT300がチャンピオンに輝いた昨年は、シーズンを通じてFIA-GT3勢に対する”性能調整が厳しい”として不満の声が挙がっていたが、今シーズンはどうやらその反動として、GTA-GT300勢にとって厳しい性能調整が課されているようだ。
もうひとつの要素としてタイヤがある。スーパーGTは世界的にも少数派となっているタイヤ・コンペティションのあるレースカテゴリーで、GT300では多数派のヨコハマ勢に対して少数派のブリヂストン勢とダンロップ勢が戦いを挑む、という図式で展開されている。だからクルマ自体のパフォーマンスを確認するには、GTA-GT300なら同じGTA-GT300の、しかも同じタイヤを履くクルマとの比較で判断するしかない。
ちなみにTOYOTA GR86が搭載する自然吸気5.4リッターV8の2UR-G型エンジンに関しては、TOYOTA GR SupraやTOYOTA GR SPORT PRIUS PHV、FIA-GT3車両のLEXUS RC GT3にも同系統のエンジンが搭載されている。10台近くになった2UR-Gエンジン勢の同門対決も今シーズンのスーパーGTの注目ポイントとなっている。
さて岡山国際サーキットで行なわれた公式テストにに参加したTOYOTA GR86は、ダンロップタイヤを履くSHADE RACINGの20号車とヨコハマタイヤを履くaprの30号車の2台。そのうち20号車は初日に12番手、2日目は7番手と、GTA-GT300車両としては埼玉トヨペット Green Braveの52号車TOYOTA GR Supraに次ぐ“クラス”2番手だった。今シーズンからスーパーGTに参戦するチームであることを考えれば上々のパフォーマンスだったように思われる。ただ、aprが製作したもう1台のTOYOTA GR86であるmuta Racing INGINGの2号車は参加していなかった。
2日目にGT300クラスのトップタイムをマークした52号車の川合孝汰は「今日はトップタイムをマークできましたが(GTA-GT300車両はFIA-GT3車両に比べて)リストリクターを絞られていて厳しいです。それに今回は、同じGTA-GT300車両でブリヂストンを履く2号車(muta RacingのTOYOTA GR86)が走っていないので、(そのパフォーマンスが)気になるところです」とコメントしていた。TOYOTA GR86の真のパフォーマンスを確認するためには、52号車と同じブリヂストンを履く2号車の登場を待つしかない。それも、今月末に富士スピードウェイで開催される2回目の公式テストの注目点のひとつであろう。
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みんなのコメント
そこ行くとポルシェやベンツにBMWのドイツ車は誰でも買える所がスゴイ
言って見れば市販ベースがレーシングマシンと戦ってるワケだw
キショ