8月6日に静岡県の富士スピードウェイで行われたスーパーGT第4戦決勝は、レースの2/3経過を前に車両火災が発生して赤旗中断となったが、この中断中に雨が降り出し、再開後のレース展開を大きく左右することとなった。
レース再開時から雨は弱まっていき、やがて止むと路面は急速に乾いていく。GT300クラスでは残り10周前後から多くのマシンが次々とスリックタイヤへと履き替えていくなか、ウエットタイヤのままでステイアウトする2台がポジションを上げてワン・ツーを形成。86周目に入る時点で首位に立ったのは、SUBARU BRZ R&D SPORTの山内英輝。その5秒後ろには、Syntium LMcorsa GR Supra GTの吉本大樹がつけていた。
“もってる男”柳田真孝ふたたび。Studie BMW M4荒聖治をランキング首位に追い上げる殊勲の2位【第4戦GT300決勝あと読み】
■ドライアップを見越したタイヤ選択
11番手で赤旗中断を迎えていた山内は、「中断前から、クルマのバランスは非常に良かったですし、上がっていける手応えがありました」という。
赤旗中に降り出した雨に対しては、再開後の路面のドライアップを睨んだうえで、「ダンロップさんと、井口(卓人)選手が序盤に履いたタイヤの感触などから、硬めのコンパウンドを選択しました」。
68周目の競技再開後、じわじわと順位を上げた山内は、73周目には8番手へと進出する。その後、周囲のマシンは続々とスリックタイヤへと交換していくが、BRZ陣営は硬めのウエットタイヤが乾き始めた路面でも機能することに望みを託し、山内をステイアウトさせた。
「とにかく目一杯で走っていることはピットに伝えていました。あとはもう、周りとの(タイヤを換えるか換えないかの)駆け引きですよね」と山内。
「グリップ感がどんどん減ってくる状況のなかで、いかに“前へ”とクルマを転がすか。それをトライしながらドライブしていました」
一方、後方のSyntium LMcorsaもSUBARU BRZと同様のコンディション変化を見越して、再開後のスティントへと挑んでいた。吉本が振り返る。
「本当にアップダウンの激しいレースでしたね。レース序盤の(河野)駿佑のときも苦しんで、自分に変わってからも、日差しがなくなったことによってタイヤが機能しない状況に陥り、たくさん抜かれてしまいました。でも、最後に恵みの雨が来ました」
赤旗中断後は「一番硬いタイヤ」(吉本)で走行を再開したが、グリーンフラッグ直後はグリップ感が得られず、走行は困難だったという。12番手でリスタートを迎えた吉本は、すぐに14番手にまで順位を下げてしまう。
しかし、路面の水量が少なくなってきたところでタイヤとコンディションがマッチ。SUBARU BRZ R&D SPORTに追従する形で順位を上げていった。
■失速からのクロスライン、そして接触
コース上のウエットパッチを選びながら逃げる2台。87周目には吉本の27秒後方に、スリックタイヤに履き替えて追い上げるGAINER TANAX GT-Rの富田竜一郎がつけていた。先頭の2台は1分48~50秒台のラップタイムを刻んでいたが、背後の富田は1分41~43秒台と、1周につき数秒という違いで猛烈に追い上げてきていた。
「ギャップとタイム差を考えると、最後の1~2周で行かれるだろうな」
そんな吉本の読みどおり、91周目の最終パナソニック・コーナーから92周目のTGR(1)コーナーにかけて、富田は2台のウエットタイヤ勢をパスしていった。
これで2台は表彰台のポジションを争うことになるかと思われた。92周目を終えたところでは両車の差はコンマ7秒と、ほぼテール・トゥ・ノーズでファイナルラップに突入していく。ラップペースに優れる吉本は、山内に仕掛ける隙を狙っていた。
しかしその背後から、さらなる“スリック勢の刺客”がやってくる。最終ラップに入る時点では5秒後方にいたStudie BMW M4の柳田真孝と、DOBOT Audi R8 LMSのロベルト・メリ・ムンタンの2台が、猛然とギャップをつめてきたのだ。
4台は上りの第3セクターで完全にワン・パックとなると、グリップに優れるスリック勢がGRスープラコーナーで先行し、表彰台をもぎ取っていった。
ウエットの2台は、山内がイン、吉本がアウトという位置関係で、パナソニックコーナーに進入。クロスラインでインとアウトを入れ替えてエイペックスを過ぎたところで、山内の右リヤと吉本の左フロントが接触してしまう。吉本はそのまま走行を続けて4位でチェッカーを受けた一方、山内はスピンを喫して順位を下げたが、吉本に40秒加算のペナルティが科せられSyntium LMcorsa GR Supra GTは10位に降格。SUBARU BRZ R&D SPORTは6位となった。
「結果的には僕にペナルティが出ていますので、そこは申し訳なかったと思います」と吉本は第3セクターの状況を振り返る。
「6号車(DOBOT)が61号車(SUBARU)を抜くときに押し出すような形になって、61号車が失速したんです。僕は左から61号車の横に並ぶような形で最終コーナーに入っていきましたが、アウト側に寄せられたので、クロスラインをかける形でイン側にターンインしていきました。そこでイン側の縁石をまたぐようなところまで追いやられて、縁石上でクルマがバウンシングしてしまい、舵が効かない状態でぶつかってしまったんです」
一方の山内も、タイヤのグリップの限界を超えたところで最終セクターを走っていた。
「結構な勢いでBMWが(インに)入ってきて、その後ろから来たアウディも結構ギリギリでこちらのラインを残してくれなかったので、行き場がなくなってしまいました」とGRスープラコーナーで失速した状況を話す山内。
「60号車が抜きに来るのは見えていたので(最終コーナーに向けては)外に行って、そのあとクロスラインをかけられないように走ろうとしたのですが、全然フロントが入ってくれなくて、あれ以上は自分が動くことができない状態でした。縦のトラクション方向にグリップを使っているところで横から当てられてしまったので、もうどうしようもない感じでした」
ウエットタイヤ勝負に出た2陣営の、まさに意地と意地がぶつかり合う形となってしまった最終ラップの最終コーナーだった。
■ウエットタイヤに感じた進化
なお吉本によれば、Syntium LMcorsa GR Supra GTが終盤に使用したウエットタイヤは「今回ダンロップさんが開発して持ち込んでくれたもので、実は初めて履いた」という。
「どこまでもつかは正直分かりませんでした。ただ、(決勝前の)ウォームアップ走行のドライアップしていくなかでもドロップが少なく、いままでとは明らかに違う感触だったので、すごい進化を感じました。だからそこに賭けたい気持ちもありましたし、もちろんみんなと同じようにスリックに換えたら勝負権を失う、というのもありました」
今戦のレース最終盤のコンディションではスリックタイヤ勢に軍配が上がったが、今後似たようなコンディション下では、ウエットタイヤでの好走も期待できそうだ。
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