着座位置の高さによる運転のしやすさ、ゆとりの室内空間き、卓越した4WD性能によってあらゆる地形を走破でき、その気になればスポーツカー顔負けのパフォーマンスも発揮する。さらにこのクラスは、高級感も兼ね備える。ここでは最新のDBXを筆頭に、それぞれの魅力を紐解いてみた。
ハンドリングはまるで背の高いDB11
「アストンよお前もか」と嘆くか、あるいは「満を持しての登場か」と昂ぶるかは人によってまちまちだと思うけれど、ついにアストンマーティン名義のSUVが誕生した。“DBX”はプラットフォームを新たに起こし、工場までも新設したというから、「SUVは稼げるみたいだからとりあえず1台作っとこ」みたいな短絡的発想の商品企画でないことは容易に想像がつく。むしろ下手をするとアストンマーティンの未来を左右しかねない、成功が絶対条件のモデルなのである。
ありとあらゆるメーカーがSUVに手を出したいまとなっては完全なる“後発”だが、それだけにライバルを徹底的に分析して開発しただろうし、特に強いこだわりが感じられたのは操縦性だ。SUVといってもオーナーはそのクルマとの生涯のほとんどをオフロードではなくオンロードで過ごしている。したがって乗り心地や静粛性などの快適性やハンドリングに重きを置いた開発にならざるを得ない。ところが大きなタイヤを履いて車高が高いSUVにとっては、もし自分が設計者なら「だったらSUVじゃなくてワゴンかセダンに乗れよ」とさじを投げたくなるくらい難しい要件と言える。
特にアストンマーティンの場合は、DBシリーズやヴァンテージといったスポーツカーのイメージが強く、当然のことながらDBXにもそれに似た乗り味が期待されるわけで、設計はますます厄介だ。プラットフォームの新設に踏み切ったのも、そうでもしない限り市場の期待には応えられないという判断からだろう。エアサスやEデフやアクティブスタビライザーやトルクベクタリングや可変式の前後駆動力配分といった電子デバイスの数々を惜しみなく投入しているのも、目的の達成には欠かせないアイテムだからである。
これだけ聞くと、制御によって“作られた操縦性”に身を委ねることになり、運転の楽しさや嬉しさが薄れてしまうのではないかと心配になるが、DBXは制御の妙でこれを見事に克服している。ターンインからコーナーの脱出に至る過程で、それぞれのデバイスは働いているはずなのに、ドライバーにはそれがほとんど伝わってこない。介入と離脱が極めてスムーズであり、スッとフェードインしてあっという間にフェードアウトする。ばね上の動きのコントロール性と、タイヤの接地面変化の少なさには目を見張るものがあり、目線の高いDB11を運転しているようなハンドリングが満喫できるのである。おそらく、そもそも走る/曲がる/止まるの基本性能がしっかりと確立されているから、デバイスの介入頻度や深度は少ないのかもしれないが、いずれにせよここまで思い通りに気持ちよくワインディングロードを走れる様に舌を巻いた。
ハンドリングのインパクトがあまりにも強いので、パワートレインの印象が薄くなってしまうものの、だからといって不満があるわけではない。むしろパワーデリバリーやトラクション性能やシフトプログラムには一切の不満などない。メルセデスAMG製のV8はDBX用に点火順序やターボチャージャを刷新しており、DB11やヴァンテージとはまた違った動力性能を持っている。前後の駆動力配分は47:53がデフォルトで、場合によってはリアへ最大100%まで寄せて、FRのような駆動力も実現する。パワートレインの設計にも妥協はないのだ。
乗り心地はすべての速度域で快適であり静粛性も高く、ドライブモードをスポーツやスポーツ+にしても、心地よいエンジン音だけが耳に届く。タウンスピードで乗っても(ボディサイズにだけ気を配れば)決して退屈で不自由な思いはしない万能選手である。
運転の楽しさと安心感を両立
SUVをスポーツカーのように走らせるのは物理的なハードルが高く、それはアストンマーティンがDBXをプラットフォームから作り上げたことからも分かると書いたが、実はポルシェも同じようなことをやっている。
BMWのX6が“クーペルックのSUV”という新しいマーケットを開拓し、ポルシェもカイエンにクーペを追加することを企てた。それが先代カイエンの開発終盤にさしかかった頃だったという。現代の設計技術を持ってすれば、その段階からクーペを作ることは事実上可能だった。しかし、リアの開口部が広いクーペでもノーマルボディと同じ操縦性を実現するには十分なボディ剛性が確保できず、先代カイエン・クーペの開発は断念。でも現行カイエンの開発では当初からクーペの要件も盛り込んだボディ構造にしたという。出せば売れると分かっていても、自分たちの納得がいかない商品は作らないというポルシェの潔さにはほとほと感服する。
クーペとしての流麗なフォルムを成立させるために、Aピラーはカイエンよりもわざわざ約1度寝かされている。Aピラーの角度が変われば、当然のことながらドアやサイドウインドーはクーペ専用となるが、Aピラーから前のフロントフェンダーやボンネットなどはカイエンと共有している。もちろん、ルーフとBピラーから後ろはすべてクーペ専用の設計である。また、リアに向けてなだらかに下るルーフラインのせいで後席のヘッドクリアランスに影響が出ないよう、後席のヒップポイントを20mm下げることでこれに対処している。カイエン・クーペは格好だけでなく、快適性にも配慮した設計となっているのである。
試乗車はカイエン・クーペのトップレンジである“カイエンターボ・クーペ”で、550ps/770Nmを発生するV8ツインターボを搭載。トランスミッションはPDKではなく、ZF製のトルコン付き8速ATである。オプション満載の個体で、後輪操舵のリアアクスルステアリング、アクティブスタビライザーのPDCC、トルクベクタリングのPTVプラスなどが装着されていた。
久しぶりに試乗したけれど、あらためてやっぱりカイエンは一頭地を抜いた存在だなあと実感した。同時に今回、DBXが仮想敵としていたのはおそらくカイエンだったのだろうと確信した。それは、各種電子デバイスの制御方法が両車ともとてもよく似ているからだ。つまりドライバーにデバイスの介入を意識させない緻密な制御、あるいは過度な介入が必要ない基本設計の優秀さが、両車には見て取れる。
カイエン・クーペはSUVには付き物の重心の高さがまったく気にならないし、減速から始まる旋回の過程で起こるばね下/ばね上のさまざまな動きの繋がりが極めてスムーズだ。妙な動きは皆無だし、タイヤはしっかりと路面を掴んで離さないから、運転の楽しさ向こうに頼もしい安心感が常に感じられるのである。
DBXは、ハンドリングについてはカイエン・クーペに迫るいい線まで到達していると思うけれど、ATの制御とブレーキは若干及ばない。カイエンに限らず、PDKかトルコン付きATかに関係なく、ポルシェの自動変速の制御プログラムはトップレベルにある。例えばスロットルペダルを戻しても、路面や車体の状況に応じてシフトアップしたりダウンしたりステイしたりとその対応がいつも完璧で、自分でパドルを使って操作するよりよっぽど最適なギアを選んでくれるのだ。ブレーキはいまさら言うに及ばずで、制動力の出し方や微妙なコントロール性の高さなど、絶対的信頼が置ける。SUVでもブレーキは宇宙一である。
マセラティならではの醸し出される色艶
アストンマーティンというブランドは、英国のマセラティだと個人的には思っている。基本的には育ちがよく大変お行儀もいいのだけれど、ほんのりと色艶をまぶしているように見えて、その色艶がどことなくマセラティに似ていると感じるからだ。実際、アストンの人々はマセラティを意識しているんじゃないかと推測する。
そんなアストンも憧れる(?)マセラティもまた、史上初となるSUVを世に送り出した。レヴァンテは性能ももちろん悪くないけれど、性能よりは“雰囲気押し”のようにも窺える。ボディサイズはDBXとほとんと同じだが、キャビンに充てられたスペースはDBXよりも小さく、ボンネットを長く取ってFRに見えるようなスタイリングをあえて形成している。ラインや面はいずれも柔らかく、DBXやカイエンよりもほのかに女性物のパフュームの香りがしてきそうな雰囲気が漂っている。
DBXとカイエンターボ・クーペと並べるなら、本来ならば両車と同じV8ツインターボを搭載したレヴァンテGTSかトロフェオがふさわしい。そのほうが価格的にも拮抗するが、今回の試乗車はV6ツインターボのレヴァンテSだった。
マセラティのV8は「フェラーリのV8」と言われることがあるけれど、厳密には正しくない。確かに、マラネロにあるフェラーリのエンジン工場でフェラーリのV8と同じラインで生産されているし、ブロックなどの基本アーキテクチュアはフェラーリのF154型と共有している。しかし、ピストンやコンロッドなど一部のパーツはマセラティ専用に新たに開発されたもので、もちろん制御プログラムのソフトウエアもフェラーリとはまったくの別物。「フェラーリのエンジン工場で組み立てられるマセラティのV8」という表現のほうが適切である。
V6ツインターボは同じグループのアルファなども使用するユニットで、4輪駆動システムもまたステルヴィオなどと共有している。なので、パワートレインの動力性能にマセラティ特有の何かを見つけるのは難しいが、エンジン音は紛れもないマセラティのそれである。官能的な旋律で歌い上げる音色はSUVらしからぬとも言えるけれど、マセラティだと思えば納得して意味もなくスロットルペダルを踏み込んで、もっとそのサウンドを聴いていたくなってしまう。
ハンドリングはいわゆる“スポーティ”な味付けになっていて、操舵初期から敏感に応答するヨーゲインが高いセッティングである。重心が高くばね上の重いSUVでこれをやると、リアに応答遅れが生じたりアンダーステアが簡単に露呈する場合が多いのだけれど、レヴァンテにはそれらがまったく感じられない。驚くべきは、DBXやカイエンと異なり、レヴァンテはアクティブスタビライザーもEデフも後輪操舵も装備していないのである。エアサスと機械式LSDとブレーキを使ったトルクベクタリングだけでこの操縦性を実現しているのだ。
クルマという工業製品として各性能をデータと官能評価を元に点数を付けたとすれば、レヴァンテがカイエンやDBXに並ぶのは難しいかもしれない。ハンドリングはカイエンほど正確ではなく微細なコントロールも効かないし、トルクベクタリングの介入はDBXより唐突な時もある。しかし、そういった“雑味”も含め、レヴァンテという銘酒の味としてちゃんと成立させている。エンジン音は唯一無二の響きだし、ステアリングを切る度に胸が高鳴ってくる感触はこのクルマしか味わえない。
よく出来たDBXやカイエンを「つまらない」と思わせてしまうような魔性の魅力を、レヴァンテは持ち合わせている。
【Another Choice】Lamborghini Urus/ランボルギーニ ウルス
まさかランボルギーニまで!
スーパースポーツカーとSUVの機能を融合した筆頭ともいえるのがこのウルス。搭載される4L・V8ツインターボエンジンは、最高出力650ps/最大トルク850Nmを発揮。0→100km/h加速は3.6秒をマークする。
【Specification】ASTON MARTIN DBX
■全長×全幅×全高=5039×1998×1680mm
■ホイールベース=3060mm
■車両重量=2245kg
■エンジン種類/排気量=V8DOHC32V+ツインターボ/3982cc
■最高出力=550ps(405kW)/6500rpm
■最大トルク=700Nm(71.4kg-m)/2200-5000rpm
■トランスミッション=9速AT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=285/40YR22:325/35YR22
■車両本体価格(税込)=22,995,000円
お問い合わせ
アストンマーティンジャパンリミテッド 03-5797-7281
【Specification】PORSCHE CAYENNE TURBO COUPE
■全長×全幅×全高=4939×1989×1653mm
■ホイールベース=2895mm
■車両重量=2040kg
■エンジン種類/排気量=V8DOHC32V+ツインターボ/3996cc
■最高出力=550ps(404kW)/5750-6000rpm
■最大トルク=770Nm(78.5kg-m)/1960-4500rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=マルチリンク:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=285/40 ZR 21:315/35 ZR 21
■車両本体価格(税込)=20,630,000円
お問い合わせ
ポルシェジャパン 0120-846-911
【Specification】MASERATI LEVANTE S
■ 全長×全幅×全高=5000×1985×1680mm
■ホイールベース=3005mm
■車両重量=2160kg
■エンジン種類/排気量=V6DOHC24V+ツインターボ/2979cc
■最高出力=430ps(316kW)/5750rpm
■最大トルク=580Nm(59.1kg-m)/1750-5000rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション(F:R)=Wウイッシュボーン:マルチリンク
■ブレーキ(F:R)=Vディスク:Vディスク
■タイヤサイズ(F:R)=285/40 ZR 21:315/35 ZR 21
■車両本体価格(税込)=13,600,000円
お問い合わせ
マセラティジャパン 0120-965-120
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みんなのコメント
マセラッティ 売り上げ激減
ともに負け組では?
お金持ちは、負け組のクルマは下取り額というだけは無く、負のイメージだ買わない。
カイエン、マカン独り勝ちですね。
ニュル市販車最速のAMG GTブラックシリーズが同じく3.2秒だからね。
背が低いほうが有利なのも明らかだ。