総合503psと99.0kg-mが生む刺激
text:Greg Kable(グレッグ・ケーブル)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
各社からの投入が続く、電気自動車。最上位グレードに強力なモーターを1つ載せても、すでに動的性能でトップの評価は得られない。
秀でた性能を得るには、少なくとも2基は欲しい。あるいは今回試乗したアウディEトロン Sスポーツバックのように、3基積む必要があるようだ。ちなみに、ポルシェ・タイカン・ターボは2基載せている。
3基のモーターのうち、大きなユニット1つがフロントに、2つの小さなユニットがリアのサブフレームにマウントされている。3基の力を総合して得られる最高出力は425ps、最大トルクは82.2kg-mにもなる。
標準モデルの、ツインモーターのEトロン 55スポーツバックと比べると、27psと14.7kg-mの増強だ。通常は。
EトロンのSの場合、スポーツ・モードを選んだ時に有効となるオーバーブースト機能が働くと、さらに68psと16.8kg-mを引き出せる。その時の最高出力は503psと99.0kg-mに達する。加速力は凄まじい。
車重は2.6tもあるものの、電気モーターの特性として、最大トルクはクルマのスタートと同時に湧出する。その加速感は、忘れられないほどに刺激的だった。
即時的なダッシュ力だけではない。常に力強い。カタログ数値の0-100km/h加速時間は4.5秒だが、体感はもっと速い。アクセルペダルを踏めば、いつでも鋭さを感じられる。
新しい四輪駆動システムによる身のこなし
増強されたパワーを制御するのが、新開発の四輪駆動システム。3段階のエネルギー回生機能とともに、電気モーターによるトルクベクタリング機能も備える。アウディのどんな既存モデルより高い精度と早さで、左右個別にリアタイヤの駆動力制御が可能だという。
重心が低いことで、身のこなしも抜群に良い。トラクションも同様。前後のタイヤ間だけでなく、リアタイヤ左右でも駆動力を瞬間的に制御できるメリットが表れている。そもそも感銘を受けたEトロン・スポーツバックを、明らかに超えている。
ステアリングは可変レシオで、感触は濃いとはいえない。そのかわりシャシーは、強化されたパワーをしっかり受容。サーキットなどでEトロン Sをオーバーステアに持ち込み、ドリフトさせることも可能だ。
一般道での操縦性は、とても滑らか。アウディの高性能モデルへ期待するような、圧倒的なシャープさはないけれど。
乗り心地は、Eトロン 55より穏やかではない。しかし、引き締められたスプリングと、減衰力が見直されたダンパーのおかげで、ボディの動きは良く抑制できている。
試乗車には標準サイズの21インチホイールに、肉厚な285/45タイヤを履いていた。ゴムが角を丸めてくれ、乗り心地は良好だった。
ただし、舗装の剥がれた区間などでは、垂直方向の動きは大きい。より柔らかいスプリングとダンパーを備えるEトロン 55と比べれば、荒い路面には敏感ではある。
運動神経に優れた純EVクロスオーバー
搭載するバッテリーは、95kWのリチウムイオン。WLTP値での航続距離は365kmだが、今回のようにアクセルを活発に踏み込んだ運転なら、はるかに短い距離しか走れない。充電は11kWのウォールボックスに加えて、150kWの急速充電器にも対応する。
標準モデルのEトロン 55との見た目の違いで大きいのは、膨らんだフェンダーアーチ。全幅は23mm広がり、最大で22インチまでのホイールに対応する。またフロントバンパーのデザインも、Sの専用となる。
ボディタイプは、今回のクーペ風のスポーツバックのほかに、よりSUVらしい通常のボディも選択可能。もちろん汎用性や荷室空間は大きくなる。
アウディの中で、最も運動神経に優れた純EVクロスオーバーといえる、Eトロン Sスポーツバック。改めて英国の一般道を走らせるまで、具体的な評価は控えておこう。
今回、路面の滑らかなドイツの一般道を走らせた限りでは、グッジョブ、といえる仕上がりだった。
アウディEトロン Sスポーツバック(欧州仕様)のスペック
価格:8万8700ポンド(1188万円)
全長:4901mm(標準Eトロン・スポーツバック)
全幅:1935mm(標準Eトロン・スポーツバック)
全高:1616mm(標準Eトロン・スポーツバック)
最高速度:210km/h
0-100km/h加速:4.5秒
航続距離:365km
CO2排出量:0g/km
乾燥重量:2620kg
パワートレイン:トリプル誘導モーター
バッテリー:95kWリチウムイオン
最高出力:503ps
最大トルク:99.0kg-m
ギアボックス:1速オートマティック
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