愛ある「ナイスガイ」への回帰
フォルクスワーゲンのデザイン責任者であるアンドレアス・ミント氏は、「ID.2all」と「ID.GTI」という2台のコンセプトカーにより、親しみやすいブランドを目指すという同社のビジョンを表現した。
【画像】ゴルフに並ぶ新世代の小型EV【フォルクスワーゲンID.2allコンセプトを写真で見る】 全36枚
「愛されるブランド」を目標とするフォルクスワーゲンは、2025年に両コンセプトの市販車を発表する予定だ。
ミント氏はゴルフ7(第7世代)の主要デザイナーの1人であり、グループ内での移籍を経てフォルクスワーゲンに戻ってきた。アウディでエクステリアデザインを指揮し、ベントレーではデザインチーフを務めた。
現職に就いてまだ1年足らず。本誌の取材に応じた彼は、「ナイスガイ」への回帰という新しいデザイン哲学の計画を語った。
「フォルクスワーゲンは “愛” のあるブランドであり、信頼できる設計、強力なアイデンティティ、真正性を持っています。『安定感』、『好感』、そして人々の期待以上のものを提供し、ユーモアのセンスがあるという『秘伝のタレ』、この3つの柱に基づいて構築されているのです」
「グローバル」はもう古い?
――ID.2allは非常に欧州的なクルマです。グローバルデザインという概念はもう古いのでしょうか?
「グローバルデザインは複雑で不要なものになりました。現在のIDラインナップはグローバルなデザイン感覚を持っていますが、これから変わっていきます。現在、独自のポートフォリオを持つ地域が7つあります。欧州、南米、北米、中国の第一汽車(FAW)、中国の上海汽車(SAIC)、中国に設立予定の新しいデザインセンター、そして中国向けのサブブランドのジェッタです」
「一口に中国と言っても、テイストが違えば交通事情も人々の様子も違う。まるでフィンランドとポルトガルを行き来するようなものです。フォルクスワーゲンは世界中で同じ価値観を持っていますが、デザイン要素は異なります」
――ID.3、ID.4、ID.5はグローバルモデルとして作られたのですか?
「おそらく、そうだと思います。考え方は年々変わってきている。中国は毎年変わるし、行くたびに目にするものが信じられなくなります。コビッドの後では特にそうです」
「飛行機でドイツに戻ると、まるで中世の国のように感じますよ! アプローチを変えなければなりません」
――ID.2は中国にも導入されますか?
「計画はありません。(室内のタッチスクリーンの下にある)物理ボタンは、中国では何の関連性もありません(欧州では物理ボタンが求められるため)」
新型ID.2とゴルフの位置関係
――ID.2はゴルフと比べて、どのような位置にあるのでしょうか?
「ID.2allコンセプトでは、真のフォルクスワーゲンを作りたかった。これがわたし達に課せられた課題でした。わたし達はブランドとその象徴を分析し、3つの価値(安定感、好感、秘伝のタレ)を導き出しました。それは50年前のゴルフと同じです」
「これがベースとなり、それにマッチするデザインを考えました。その結果生まれたのがID.2allです。(現在と未来の)ゴルフのように見えますが、ゴルフ4や初代ビートルの要素もあります」
「本来のフォルクスワーゲンに何が必要かを分析すると、ゴルフに戻ってくるのです」
――あなた自身もゴルフをデザインしてきた歴史がありますよね。
「わたしはゴルフ7の開発チームに所属していました。フィリップ・レマース(現アウディのエクステリアデザイン責任者)、マルク・リヒテ(現アウディのデザイン責任者)、そしてわたしの3人がデザインを指揮しました。わたし達はこのクルマのために必死で戦ったんです」
「何世代にもわたるゴルフの長所を1つのモデルにまとめよう、というのがテーマでした。なぜゴルフ7がこの姿になったのか、説明するのに2時間は話せますよ」
シンプルながら質感の高いインテリアを
――シンプルなデザインでありながら高品質な素材を使用した既存車と比較して、ID.2allのインテリアのコストはどうなるのでしょうか?
「(コストは)変わらないかもしれませんが、質感を向上させています。インテリアは複雑でない方がコストを節約できるため、その分、素材に還元するのです」
「今は派生が多すぎて、カラーやホイールの種類もたくさんあります。わたし達はそこから脱却し、すべての人に異なるクルマを提供するパーソナライゼーションに取り組んでいます。米国では、クルマはディーラーのヤードで買うものです」
「コンフィギュレーターに2時間かけても何を注文したのかわからない……ということがないようにオプションをシンプルにし、パッケージと組み合わせます。減らすのがわたし達の仕事であり、デザインもその一環だと考えています」
「ここまで量産に近づいても、安価なプラスチック部品が見られなくなったことを、わたしは誇りに思っています。わたしはベントレーで素材の素晴らしさを感じ、このことを学びました」
「レザーに見えるものはすべてレザー、金属は金属、木材は木材です。本物の素材は気持ちがいい」
退屈なものを作らないためには
――EV時代のGTIは最近のコンセプトで見ましたが、Rはどうですか?
「Rは歴史ある四輪駆動車で、特定の技術的要素が必要です。一部のセグメントでは、4WDと最高のエンジンを必要とするため不可能です。GTIはより小型のモデルです。GTIとRはお客様が異なります」
「GTXもありましたが、GTIには人々を興奮させるスピリットがあります。GTIはジーンズにトレーナーであり、便利でスマートであり、ボーイレーサーではありません。Rはスーツです。第6世代や第7世代のGTIで、白地に赤のステッカーを貼っているのを見かけますが、わたしは大好きです」
――フォルクスワーゲンの車種に、もっと専門的なモデルがあってもいいのでは?
「もちろん。しかし、わたし達は下調べをして、重要なセグメントをすべてカバーし、本当に良いものを作らなければなりません。それが今の第一の目標です。でも、スカンクワークス(本来の業務ではない、従業員の自主的な活動)もたくさんありますよ」
「アイデアを発展させた結果、退屈なリムジンになってしまうことがよくあります。1週間かけてランボルギーニをデザインし、それをフォルクスワーゲンにして検証することもあります」
「時にはこうしたことも必要です。役割を変えて新しいものを見つけていかないと、チーム全体に動きがなくなり、どれも同じ結果になってしまう。創造性の訓練のようなものが必要です。わたし自身も、日々の仕事で良い結果を出すためには必要なことなんです」
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