もくじ
ー ジャガーのデザイン本部まで530kmの旅
ー 旅程に変更はつきもの
ー 素晴らしい回生ブレーキの制御
ー ジャガー初のEVは、あえてのSUV
ー 充電時間や航続距離以上の輝かしい未来
ー 番外編 デザイナー、イアン・カラムが手がけたジャガー車
ジャガーのデザイン本部まで530kmの旅
スコットランドの首都、エディンバラの中心部から、イングランドのコヴェントリー郊外に位置するジャガーのデザイン本部までは、約530kmの道程がある。革命的ともいえるEV、Iペースを試すのには、理想的な行程だと思う。
われわれが滞在したホテルの表通りに立ち、色々なことに考えを巡らしていると、朝日を浴びながら、静かに今回の主役が地下の駐車場に滑り込んでいった。
もちろん、アインシュタインの相対性理論や、アルキメデスの法則などの発表に比べれば、大したことではない。しかし、相当な衝撃を与えてくれる存在ではある。目新しいエクステリア・デザインだけでなく、不十分だった社会インフラを牽引する可能性も秘めた、ジャガー初というよりも、英国初の、プレミアムなEVサルーンが登場した驚きは大きい。
今回の主役は、まさにそのクルマ。
今回のミッションは、Iペースでデザインの指揮をとっただけでなく、近年のジャガー車のデザインを手がけてきたイアン・カラムとともに、デザイン部門のあるコヴェントリー郊外のウィットリーまでドライブをすること。
カラムはスコットランドで家族と過ごしており、誕生日を祝ってもらっていたそうだ。今から50年前、少年だった彼は、当時のジャガーのボス、 ビル・ヘインズへ手紙を書いた。そして、彼の夢の実現に向けて、適切なアドバイスが記された返信を受け取ったのだった。今では有名な話だ。また彼は、ジャガーEタイプを見るために、彼のおじいさんとともにエディンバラにあった、ジャガーのディーラーを訪れている。
今回は、当時のEタイプと同様に重要な意味を持つ、Iペースでの旅となる。
旅程に変更はつきもの
ナビによると、今回のドライブに要する時間は7時間。イングランド北部で慢性的に発生している渋滞のおかげだ。さらに10~20%に減った90kWhもの容量のバッテリーを充電するために要する時間、1時間を追加しなければならない。充電ポイントは、300kmほど南下したヨークに設定した。
Iペースの走行可能距離は、NEDC(新欧州ドライビング・サイクル)で、およそ480kmだが、実際は370~380kmだということはわかっている。便利なスマートフォンのアプリ、ジップマップによれば、50kW DC充電器がヨーク周辺に充実しているらしく、そこで75%ほどまで充電することにしている。ヨークからコヴェントリー郊外までの、残り240kmは余裕で走れるだろう。
さて、清々しく出発と行きたいところだが、旅程に変更はつきもの。それに、EVに関してのインフラ整備も順調ではない。残念なことに、ホテルで滞在している間、一晩中つないでおいた7kWの充電器は、ろくに機能しないまま電源が落ちていた。
出発の時点でバッテリーに残されていた電力で走れる距離は、100kmほど。ヨークまではとうてい無理だから、予定を改めなければならない。EVにとって、避けては通れない決まりごと。充電ストップを2回にすればよい。どこからか帰ってきたら、必ず電池は減っているものだ。
出発した時間は9:20。
われわれは念のため、60kmほど走行して1度充電し、そこからさらに160kmほど走行することにした。おかげで旅行に要する時間は増え、面倒なことも増えてしまうことは事実。しかし、EVだからこそ叶えてくれるスムーズさと静寂性、アクセルペダルと実際の加速とのリニアリティなどを味わってしまうと、自ずと気分は盛り上がる。
素晴らしい回生ブレーキの制御
まずは東に進路を取り、海岸に面した小さな町、ダンパーを目指す。朝の通勤ラッシュは落ち着き、国道1号沿いのホームセンターにある、50kWの急速充電器がちょうど良さそうだ。われわれがコーヒーで一服している間、Iペースにも英気が蓄えられる。そして予定通り、海岸線の道を南下する。
走り出して間もなく、Iペースのエコモードを試したが、アクセルレスポンスが台無しになってしまうことがわかり、違うモードを選んだ。より自分の意のままに、ドライブしたほうが気持ちいい。
回生ブレーキの設定が素晴らしい。アクセルペダルを戻すと、0.2Gの減速が得られ、ブレーキペダルに少し触れるとさらに0.2Gの減速が発生するから、通常のブレーキディスクを用いる機会は極めて少ない。誰もが、エネルギー効率や、究極の乗り物といった視点に目覚めるだろう。
イアン・カラムは旅を一緒に過ごすのにピッタリな人物だった。彼は無数の話のネタを持っていて、状況によらず聞き上手。それに、彼自信の偉業に対しては控えめにしか話さない。クルマの話にこだわる必要もなく、その時々で興味深い話題を提供してくれる。
すでに2年も前のことだが、わたしが初めてIペースを見た時の印象に触れてみた。インテリアのプロポーションや比較的高い全高、サルーンよりも高いドライビングポジションなどを備えていたが、そのクルマがSUVには見えなかった。極めて優雅な佇まいだったのだ。
ジャガー初のEVは、あえてのSUV
カラムによれば、ジャガーが初めて生み出すEVは、SUVでなければならないと考えていたそうだ。結果、ポルシェ・マカンと同じくらいのボディサイズで、乗員や荷物のためのスペースも広い。充分な容量の大きなバッテリーを搭載するため、スケートボード状のプラットフォームは、自ずと全高が高くなるだけでなく、自動車市場としても一番熱いカテゴリーでもあるからだろう。
カラムは、本物のジャガーだと感じた、わたしのコメントに喜んでくれた。革新的に短いノーズと、キャブフォワードなデザインは、複雑な機構を持たないからこそ実現したもの。350kgの重量があるエンジンがなくなったおかげで、フロントウインドウもリアウインドウも、他のSUVよりも強い傾斜をつけることができている。また長いボンネットの代わりに、長い屋根、すなわち長い室内長も得られている。
彼は、ツインモーターの4輪駆動、400psという、目新しいパワートレインを搭載するにもかかわらず、アピアランスを意図的に独創的にはしなかったことは、正しかったと考えている。その反面、フロントグリルのデザインを少し変え、異なるモデルファミリーだとわかるようにするべきかは、悩んだそうだ。「フェイスリフトの時に再考しようと思います」と話す。
Iペースに乗っていて、新たな発見もあった。穏やかな気候の日に高速道路を移動していると、強力な回生ブレーキ制御の効果もあって、走行距離が伸びるということ。また、このプロトタイプの最終型は22インチのホイールを履いていたのだが、110km/hほどで走行している際のロードノイズが驚くほど静かだった。
充電時間や航続距離以上の輝かしい未来
パワートレインと同じくらい、クルマの残りの部分も洗練されている必要があると、カラムは話す。車内のパネルの一部のチリがずれているだけで、クルマの先進性や雰囲気を台無しにしてしまう。しかし、22インチに40という扁平タイヤを履いていながら、最大90mmも車高を変更できるエアサスペンションは、ロードノイズを巧みに吸収している。
ジップマップを頼りに、50kWの急速充電器のあるガーフォースという町のショッピングセンターを訪れた。充電の間、道の反対側にある、古い駅舎を改装した小洒落たカフェで休憩を取る。これが、EVオーナーのドライブスタイルなのだろうと実感する。自宅を出発する際、不運にも満充電でなかった場合は、ガソリン車よりも時間がかかるが、充電時間のおかげで、普段見ることのないような世界にも、目を配ることができる。
コヴェントリー郊外のジャガーのデザイン本部についたのは18:00。当初の予定では、1時間以上は早く到着するはずだった。時間を無駄にしたことにもなるが、カラムはこの点に関しては楽観的だった。
Iペースには、それを上回る魅力がある。快適で静か。穏やかで楽しめる運転が可能なことは明確。すでに長い納入待ちが出ている、このクルマを彼は誇りに思っている。ダッシュボードの向こうから聞こえる、エンジン音から開放されるということの正当性は間違いない。
道中、我々は何度か撮影のために停車し、周囲の人と話しをしたり、どんな見られ方をするのか観察した。
「輝かしい未来像です」とカラム。
彼が従える技術者たちが、さらに切り拓いていくに違いない。
番外編 デザイナー、イアン・カラムが手がけたジャガー車
ジャガーXKR(2007年)
スポーツカー、XKの第2世代で、2005年のフランクフルト・モーターショーで発表された。カラムが手がけた初めてのジャガー。スタイリングの方向性に関して、経営陣の優柔不断さが、リリースを遅らせた。フロントの楕円形のエアインテークは、Eタイプを連想させる。2014年にFタイプに置き換わった。
ジャガーXF(2008年)
C-XFというコンセプトカーがデザインのオリジナル。一気に2世代ほどの進化を感じさせる、新しいデザインを提示した。ジャガーの創業者でもあるウィリアム・ライオンズが手がけた、1968年のXJに似た3Dグリルを含んだデザインは議論を巻き起こしたが、優れた普遍性で受け入れられることになる。
ジャガーXJ(2009年)
BMW 7シリーズやメルセデス・ベンツSクラスと対抗する、ジャガー製リムジンで、XJをワンランク上の高級車へと引き上げた。XFとのスタイリングのつながりは明確だが、大きく四角いグリルと、縦に長く弧を描いたテールライトが、フラッグシップ・サルーンとしての風格を漂わせる。
ジャガーC-X75(2010年/パリモーターショー)
70万ポンド(1億円)以上の先鋭的なツーシーターモデル。2基のガスタービンがレンジエクステンダーとして機能し、各輪に搭載されたモーターへ電力を供給する。限定生産を計画していたが、実現しなかった。わずかに生産された公道走行が可能なモデルには、2基の電気モーターと、電力を生み出す1.6ℓツインチャージャー・エンジンを搭載していた。
ジャガーFペース(2016年)
ジャガーがSUV人気に加わるかどうかの試金石。好調な販売台数が、SUVへの本格参入を決定づけた。カラムによれば、現在のデザイン言語を背の高く大きなSUVに展開していくのは難しく、スタイリングには新しい試みが施されている。しかし、マーケットの反応は、その後のEペースも含めて、非常に好意的なようだ。
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