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トヨタGR010ハイブリッドに隠された“重要な進化”の数々。2023年仕様は『ドライバーファースト』

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トヨタGR010ハイブリッドに隠された“重要な進化”の数々。2023年仕様は『ドライバーファースト』

 WEC世界耐久選手権第1戦セブリングでは7号車が、第2戦ポルティマオでは8号車が優勝。フェラーリやポルシェなど、ハイパーカークラスのライバルが一気に増えた2023年シーズン、トヨタGAZOO Racingは開幕2戦を制し好スタートを切った。彼らのGR010ハイブリッドは果たして2023年も盤石なのか、ライバルたちが一矢報いる機会はあるのか、メカニズムを中心に検証する。

■可変アンチロールバー導入。エンジンは「3~4割を設計し直した感じ」

「ライバルはレースごとに強くなっている」と小林可夢偉。トヨタ、ル・マン前哨戦で開幕3連勝狙う

 2023年仕様のGR010ハイブリッドは、よほどこのクルマに精通していない限り、2022年仕様との違いを即座に挙げることは難しいだろう。マシンの開発全体を取りまとめるTGRモータースポーツ技術室の加地雅哉氏は「自分たちはもっと変わっていると思ったのですが、こうやって改めて見るとあまり大きく印象は変わりませんね」と笑う。

「モノコックは引き継ぎましたが、それ以外のエクステリアはかなり変わっていて、8割程度は新しくしたイメージです。2023年仕様を開発するにあたっては、ドライバーたちが乗りやすいクルマにすること、そしてレギュレーションに合わせ込むことの2点に注力しました」

 トヨタは、2021年のハイパーカー導入と同時にLMH規定のGR010ハイブリッドをWECに投入。レギュレーションの最終決定が遅れたため、かなり急ピッチでクルマを仕上げなければならなかった。そのため、エアロダイナミクスに関しては完全には詰めきれなかったところもあり、また車内から調整可能な可変式アンチロールバーの導入も見送った。

 さらに、当初は1100kgとされていた最低重量が、1030kg(2023年はBoPにより開幕戦が1062kg、第2~4戦は1043kg)にまで軽減されたため、重量に関して妥協した設計にならざるを得なかった。いずれも、IMSAトップカテゴリーであるLMDhと規定をすり合わせた結果だが、既に開発の大部分を終えていたトヨタは、修正が間に合わなかったのだ。

「そのような経緯もあり、2023年のクルマはアンチロールバーを導入し、軽量化を推し進めました。可変アンチロールバーを採用することで、クルマの安定性やドライバーのコントロール性は間違いなく上がっていくと思いましたが、実際かなり効果がありドライバーには好評です。また、軽量化については特にエンジンやバッテリーなどドライブトレーンが軽くなっていて10kg以上の軽量化に成功しています」

 エンジンについては、3.5LV6直噴ターボというアウトラインは不変ながら、設計はかなり改められたという。

「クルマに乗せた状態では特に問題がなかったのですが、ベンチ上では目標耐久距離に届かなかったのです。そのため慎重にエンジンの状態を見る必要がありましたし、本来の予定よりも短いマイレージで交換しなくてはなりませんでした。それもあって今年のエンジンは耐久性を高めましたが、その上で軽量化も実施しています。材料も一部変えていて、全体の3~4割を設計し直したような感じです。東富士のみんながかなり頑張ってくれました」

■カナードが付いた理由

 クルマの外観は、じっくり見比べると2022年仕様車との違いが浮かび上がってくる。比較的分かりやすいのはフロント部の変化で、TS050ハイブリッドを思い出させる上下2枚のカナード(ダイブプレーン)が新たに加えられた。

 また、フロントのエアインテーク内の構造も大きく変わっており、内部にあった小さなフラップがなくなり、後方に向かってフロアが急角度で跳ね上がるようなデザインに改められた。そして、その斜面部分の左右には、パネルを交換することによりブランキングが自由に行なえるブレーキダクトが設けられている。

「エアロダイナミクスの変更は、フロントダウンフォースの安定化が一番の狙いです。去年までのクルマは、前のクルマに近づいた時にダウンフォースが抜けやすかったり、路面のコンディションが大きく変わった時にダウンフォースレベルが不安定になることが多かったので、そこを改善しました。L/Dについては規則で決まっていますが、それを遵守した上でダウンフォースが安定し、ドライバーが乗りやすく感じるようにしています。『ドライバーファースト』を重視したクルマづくりを心がけました」

 フロントセクションだけを見れば、カナードの追加などもあってドラッグは増えているようなイメージだが、実際は昨年とほとんど変わらず、ル・マンでは特に重要となる最高速も犠牲になっていないという。「L/Dは昨年とほとんど変わっていなくて、ダウンフォースのバランスをフロント側にもっていったような感じです」と加地氏。

 他にも、サイドポンツーンはかなり絞り込まれ、形状はより複雑になった。また、リヤウイングのエンドプレート(翼端板)は小型化されメインプレーンには2枚のフィンが追加。エンジンフード上のシャークフィンは前後長が短くなり、リヤディフューザーは横方向にサイズアップするなど、加地氏が言うようにキャビンを含むモノコック以外のパーツは全面的にリニューアルされている。写真ではその変化がなかなか伝わりにくいが、実際に見ると印象は大きく異なり、体重80kgだった男性がジムに通い、60kg台まで身体を絞ったようなイメージだ。

「ブレーキもコントロール性を上げています。ブレーキはル・マン以外は全体的に冷却が厳しくて、それもフロント周りのデザインを変更した理由のひとつです。また、GR010ハイブリッドはフロントのみシングルモーターなのでフロントは回生協調ブレーキ、リヤはメカニカルブレーキなのですが、その制御に苦労してきました。現在のレギュレーションではあまりモーターを使えないので、回生ブレーキを使えないことも多く、フィーリングや前後のバランスが大きく変わりやすいのです。それをできるだけ抑えるような制御を入れたり、メカニカルブレーキの温度管理をしやすいようにダクトを改善しました。また、エアロダイナミクスの変更によりブレーキングの際ダウンフォースが抜けにくくなり、その点でもブレーキングでのミスは減ると思います」

 BoPによりパワー、重量、L/Dなどクルマの基本性能に直結するパートではライバルに大きな差を築くことは難しい。そもそも、それがLMHとLMDhの性能均衡を推進するハイパーカーの狙いでもあるのだが、レースペースの向上、安定性、オーバーテイクのしやすさ、タイヤ摩耗の抑制といった数値化が困難な要素については工夫次第でかなり改善を進めることが可能。GR010ハイブリッドが2023年仕様車で目指したのは、まさにその領域である。

■第2戦で相次いだトラブルへの不安

 セブリングではフェラーリの力作である499Pがポールポジョンを獲得。決勝でも序盤はリードを奪ったが、レースペースはトヨタに遠く及ばなかった。また、ポルシェやキャデラックといったLMDh勢は、予選も決勝もトヨタの敵ではなかった。

 しかし、第2戦ポルティマオでは、各車のパフォーマンス差が若干縮まった。

 フェラーリは依然タイヤの摩耗がトヨタよりも激しく、トラブルもあったが、スタートからしばらくはトヨタ8号車を抑えるだけの速さがあった。そして、トヨタ勢は8号車こそ大きなトラブルもなく独走で勝利を手にしたが、7号車はドライブシャフトに装着されたトルクセンサーの不具合でピットイン。ドライブシャフト交換で11周を失った。さらに、小林可夢偉のドライブ時にECUエラーが発生し、ピットレーンでストップ。システムをリセットしなくてはならなくなった。

「信頼性についても、昨年のようなことがないように改善しました。ECU系の不具合をハードウェアも含めて対策するなど、去年よりは信頼性の高いシステムを組めたと思います」と、加地氏はセブリングで述べていたが、はやくも第2戦でトラブルに見舞われてしまった形だ。トヨタが今季最大の目標にしている「ル・マン100周年での優勝」に向けて、やや不安を感じるレースだったと言わざるを得ない。

 そういう意味でも次戦、ル・マン24時間の前哨戦となる4月27~29日のスパ・フランコルシャン6時間は、注目すべき一戦である。

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みんなのコメント

2件
  • そういえばTS050にも車体下に隠れダンパーがあったな、今年のマシンがGR010の本当の最終型なんだろう
    非常に完成度が高いし他チームが今シーズンで追い付くのはまず困難かもな~
  • こういう地道な進歩の結果を「つまらん」とか「金かけたから」とかいう輩がいる。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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