今年もワンサイドゲームになるかと思われたF1のタイトル争いは、後半戦に入って俄然面白さを増している。第16戦イタリアGPを終えて残り8戦となった時点で、首位マックス・フェルスタッペン(レッドブル)とランド・ノリス(マクラーレン)のポイント差は62点。依然として大きな差だが、現状の勢いでは大逆転が起こっても不思議ではない。
フェルスタッペンは2021年からドライバーズタイトルを3連覇中であり、2022年は22戦中15勝、2023年は22戦中19勝と歴史的な強さを見せた。そしてフェルスタッペンは今シーズンも開幕から7戦連続でポールポジションを獲得し、7戦中5勝を記録。第10戦を終えた時点でも7勝と、4連覇に向けてこれ以上ない形で前半戦を制圧していた。
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しかしながら、5月頃からフェルスタッペンと同等、もしくはそれ以上のパフォーマンスを見せるようになったのがノリスだ。ノリスは第6戦マイアミGPで待望の初優勝を飾ると、徐々にその勢いを増していき、4度のポールポジションを獲得。第15戦オランダGPでは2勝目を飾った。一方のフェルスタッペンは第10戦スペインGPを最後に決勝レースでの勝利から遠ざかるなど大失速。先日のイタリアGPでは優勝争いはおろか表彰台争いにも絡めず、6位に終わった。
現在ではマクラーレンが最速マシンとの呼び声も高く、残り8レースでノリスがフェルスタッペンを逆転するというシナリオも不可能ではない。計算上は、残り8レース+3回のスプリントでノリスが全て優勝してファステストラップも記録すれば、フェルスタッペンが全て2位となってもノリスにタイトルが転がり込むことになる。いわゆる“自力タイトル”の可能性をノリスは有しているのだ。
しかしながら、62点という大差をひっくり返すのは実際のところ相当なチャレンジになるだろう。
そもそも、今季中盤戦以降はレッドブルの失速が著しいが、それによってマクラーレンの“一強”になっているわけではなく、メルセデス、そしてフェラーリも優勝争いに絡んできている。メルセデスは好不調の波があるものの直近6レースで3勝しているし、フェラーリもイタリアGPでシャルル・ルクレールが1ストップ作戦を成功させ、2ストップのマクラーレン勢を出し抜いて優勝を飾った。
またマクラーレンは、現状ノリスとオスカー・ピアストリのふたりを自由に戦わせているため、ハンガリーGPやイタリアGPなど、2年目のピアストリがノリスを従えるレースも多い。つまり、フェルスタッペンが失速している間にも、勝ち星やポイントが分散してしまっているのだ。
それを表す好例として、フェルスタッペンが勝ちを逃している直近6レースの獲得ポイントを見ていくと、実は最も多いのはノリスではなくピアストリ(110点)。次いでルイス・ハミルトン(メルセデス/94点)、ノリス(91点)、フェルスタッペン(84点)となっている。こういった状況が続いてしまうと、ノリスとしては思うように点差を縮められず、フェルスタッペンの“逃げ切り”を許してしまうことになるだろう。
また過去の前例を見ても、中盤戦~後半戦に勢力図が変わり、ポイントリーダーのドライバーをライバルチームのドライバーが猛追したケースはいくつかあるが、そのほとんどが逆転タイトルには届かず、“逃げ切り”での決着となっている。その中で代表的なケースをいくつか見ていこう。(※時代によってポイントシステムが異なる点に注意)
過去の“猛追”シーズンを振り返る
まず、シーズン中に顕著な猛追が見られた最近の例は2009年だと言える。この年はレギュレーション大変革の年で、新規チーム(前身はホンダ)のブラウンGPがレギュレーションを抜け穴を突くダブルディフューザーを搭載するなどして、開幕から驚きのパフォーマンスを見せた。ジェンソン・バトンは、開幕7戦でなんと6勝を記録して見せたのだ。
しかしながらバトンはそれ以降1勝もすることができず、むしろ表彰台すらままならないレースが続いた。その中で追い上げを見せたのが当時フル参戦2年目だったレッドブルのセバスチャン・ベッテル。バトンとは最大でダブルスコアの差がついていた(バトン61点、ベッテル29点)ところ、最終的にはバトン95点、ベッテル84点と11点差まで縮めたが、追い付くまでには至らなかった。
これには今季のように、ライバル同士でポイントを食い合ったという側面が強い。シーズン後半には、当初KERS(運動エネルギー回生システム)の熟成に手を焼いていたトップチームも息を吹き返すことになり、群雄割拠の優勝争いに。バトンは優勝から遠ざかった後半10レースで34点を稼いだ一方、ベッテルはその間に55点を積み重ねたが、バトンのチームメイトであるルーベンス・バリチェロが42点、ベッテルのチームメイトのマーク・ウェーバーが42点、そしてマクラーレンのルイス・ハミルトンは40点、そしてフェラーリのキミ・ライコネンも39点を獲得……。ベッテルにとってはライバルが多すぎた。
往年のF1ファンには、1991年のナイジェル・マンセルの追い上げも記憶に残っているのではないだろうか。同年はマクラーレン・ホンダのアイルトン・セナが開幕から4連続ポール・トゥ・ウインを飾って完璧なシーズンスタートを切ったが、以降はウイリアムズのマンセルが3連勝を記録するなど猛追。最大で34点開いていた点差が一時8点まで縮まった。
しかしながらマンセルは終盤戦の取りこぼしが痛かった。第11戦ベルギーGPではマシントラブルでリタイアとなり、第13戦ポルトガルGPではピット作業を終えた直後に右リヤタイヤが脱輪するという大失策。さらにチームがピットレーン上で作業をしたことで失格となってしまった。最終戦に向けてなんとか望みを繋ぎたい第15戦日本GPでは早々にコースオフしてリタイア。この瞬間、セナとのタイトル争いは終戦となってしまった。
その他、歴代最多7度のワールドチャンピオンの経験があるミハエル・シューマッハーも、後半に猛追するも惜しくもタイトルに届かなかった年がいくつかある。ほんの少しの巡り合わせ次第では、タイトル獲得回数を8回、9回と伸ばしていたかもしれない。
フェラーリ時代の1998年シーズンもそのひとつ。この年は開幕からマクラーレンが驚異的な速さを見せ、開幕戦オーストラリアGPではミカ・ハッキネンとデビッド・クルサードが3位以下を全車周回遅れにしてワンツーという快挙を達成。第2戦ブラジルGPでも、マクラーレンのふたりは3位のシューマッハーに1分差をつけてワンツーフィニッシュを飾った。ハッキネンは序盤6戦で4回のポール・トゥ・ウインを記録し、この時点でライバルに大きなリードを築いていた。(ハッキネン46点、クルサード29点、シューマッハー24点)
しかしシューマッハーとフェラーリは徐々に戦闘力を上げていき、そこからの10レースでマクラーレンを脅かす存在となっていった。シューマッハーは第7戦カナダGPからの3連勝で一気に差を詰めると、そこからは一進一退の攻防を見せ、ハッキネンから4点ビハインドという状態で最終戦日本GPを迎えた。しかも予選ではポールポジションを獲得。そのまま逃げ切り優勝すれば、ハッキネン3位以下で大逆転タイトルというシナリオだったが……。
シューマッハーは最後の最後でツキに見放された。スタート前にエンジンストールしてしまい、最後尾に回ることになってしまったのだ。そこから追い上げ3番手まで挽回したが最後はタイヤバーストでリタイア。翌1999年は事故での骨折で長期離脱を強いられるため、フェラーリでの初タイトルは2000年まで待たなければならなかった。
そんなシューマッハーの現役最終年(となるはずだった)2006年も、ルノーの新鋭フェルナンド・アロンソを猛然と追い上げたシーズンだった。前年に当時の最年少でF1ワールドチャンピオンとなったアロンソは開幕から圧倒的な強さを見せ、前半9レースで優勝6回、2位3回。シューマッハーも前年の不振から脱し、アロンソに食らいつくパフォーマンスは見せていたが、前半で25ポイント差をつけられた。(アロンソ84点、シューマッハー59点)
しかしシューマッハーは第10戦以降の7レースで5勝を記録。第16戦中国GPではついに同点に追い付いた。ただ、残りの2レースではトラブルに泣いた。
第17戦日本GPでは、快調にレースをリードしていた矢先にエンジンブロー。アロンソに優勝を奪われた。わずかながらタイトルの可能性を残していた最終戦ブラジルGPでは、予選Q3でまたしてもトラブルが出て10番グリッドに沈み、決勝では接触によるパンクで最後方に沈み事実上の終戦となったが、その後オーバーテイクショーを見せて最終的に4位まで追い上げるなど、意地を見せた。
このように、後半に追い上げるドライバーは最終的に王座には届かないというジンクスがあるが、ノリスはそれを跳ね除けて自身初のタイトルを手にできるか? そのためには取りこぼしは厳禁……マクラーレンが残りのレースで安定して最速のマシンであり続けること、レース戦略をしっかりと機能させること、そして僚友ピアストリがサポート役に回ることなど、様々な要素が必要になるだろう。
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みんなのコメント
2007年のダメだと思ってたライコネンを必死に応援してたらチャンピオンだったからね。
ノリスが坦々とポイントを重ねるかは未知
だってルクレールがチャンピオンになる可能性だってあると思う。