昨年の9月にワールドプレミアされたマセラティの新型モデル、MC20の国際試乗会が開催された。100%マセラティ開発による新たなV6エンジンを搭載し、空力はダラーラの風洞実験室でテストを重ねたという最新スーパースポーツは、一体どんな走りを披露してくれるのか? 日本から唯一参加した渡辺慎太郎氏による第一報をお届けしよう。
100%メイド・イン・モデナ!
【スクープ】マセラティグランツーリズモ次世代型を完全スクープ!初のEVは600馬力オーバーに
マセラティMC20のサベルト製のシートに身を委ね、モデナ近郊のワインディングロードを気持ちよく駆け抜けたあと、モデナ・サーキットでホットラップを存分に楽しんだ。そんなほんの数時間前の興奮冷めやらぬうちに、自分はいまボローニャ市内のホテルの一室でこの原稿を書いている。英文を直訳したかのようなこんなちょっと気取った一節も、このご時世では夢のまた夢だと自分も思っていた。ところが諸々あってそのすべてが現実のものとなったのである。自分は本当に飛行機に乗ってイタリアを訪れMC20の国際試乗会に参加して〆切がギリギリの本誌のこの原稿を完成させるべくキーボードを叩いている。
マセラティもこの時期の国際試乗会の開催についてずいぶん悩んだようだった。しかし6月にはデリバリーが始まってしまい、その前にメディアに露出するにはもうギリギリのタイミングだったのだ。その試乗会、コロナ対策が万全でまったくぬかりなく「やればできるじゃんか」と上から目線で思わず言いそうになるほど完璧なオペレーションだった。
もちろんタイミングも重要だろうけれど、厳しい状況下でも彼らが試乗会開催を英断したのはやっぱりこのクルマがMC20という特別なモデルだからである。車名の「20」はデビューした2020年を示し、同時にこの年がマセラティの新たな時代の幕開けという意味も込められている。MC20はBEV仕様の追加がすでに公になっていてマセラティの電動化の象徴であるとともに、モデナ市の歴史的建造物に指定されている本社工場で最終アッセンブリーと、20年以上ぶりとなるエンジン生産も同敷地内で再開し、「メイド・イン・モデナ」「メイド・イン・イタリー」にも徹底的にこだわっている。マセラティはこれまで何度となく時代に翻弄されてきた不遇な自動車メーカーであり、これからは自分達の手ですべてを創造していこうという意思表明のようなクルマがMC20なのである。
誰が乗っても楽しめるコントロール性の高さ
マセラティは昔からジウジアーロやピニンファリーナとの関係が深かったが、グランツーリズモ/グランカブリオがカタログから落ちたことにより、現行モデルはすべてインハウス・デザインとなった。もちろんMC20もそうである。デザイナーによれば、流線型のキャノピーを真ん中に、4隅に力強いフェンダーを置くイメージでスタートしたそうで、正面や真上から見るとその面影が感じられる。冷却や空力など機能性も両立させたデザインでもあり、フロント開口部はエンジン冷却用、リアフェンダーの開口部はターボ冷却用として奥にラジエターを配置。フロア下やボディサイドの空気の流れと抜けをよくすることにより、大きなスポイラーを付けずに前後に適度なダウンフォースを発生させる空力効果も期待できるそうだ。なお空力についてはダラーラと協力関係にあり、開発過程では彼らの風洞実験室を使用している。
ダラーラの知見が活かされているのは空力だけではない。カーボンファイバー製のバスタブ構造によるモノコックキャビンも、レーシングカーメーカーでもあるダラーラにとっては得意とするところのひとつだ。バスタブの前にはフロントアクスル、リアにはエンジン+トランスミッションとリアアクスルを締結する典型的ミッドシップパッケージとなっている。
エンジンはまったくの新開発で〝ネットゥーノ〞と名前まで付いている。3LのV6ツインターボで、90度のバンク角とドライサンプによりエンジンの全高を下げ(=重心を下げ)コンパクトにまとめている。エンジンの重量は約220kgだから軽量と言っても差し支えないだろう。技術的ハイライトはプレチャンバーの採用である。プレチャンバーとはシリンダーの上部に小さな燃焼室を持っていて、そこで専用のプラグが燃料(と空気)に点火して、火炎をシリンダー内へ送り込むというもの。極端に言えば、通常のエンジンが薪に火のついたマッチを放り込むなら、プレチャンバーは薪に火炎放射器で火を付けるようなもの。つまり燃焼効率がよくレスポンスも早くなる。さらにネットゥーノはポート噴射と直噴を状況によって使い分けるツイン(デュアル)インジェクターとなっている。つまりこのエンジンはV6だが、インジェクターとスパークプラグはそれぞれ12本ずつ備えている。なお、トランスミッションはツインクラッチ式の8速DCTのみだ。
モデナ・サーキットでの走行は痛快この上なかった
一般道に乗りだしてすぐに驚いたのは乗り心地のよさと運転のしやすさだった。前後5リンクのサスペンションに金属ばねと電子制御式ダンパーの組み合わせで、フロント245、リア305の20インチタイヤを履いているにもかかわらずバタ付きは一切ない。路面状況があまりよろしくないモデナ近郊の田舎道でも不快に感じる場面はほとんどなかった。全幅は1965mmなので、狭い道では両側を気にする必要があるものの、コントロール性がいいのでそれも苦ではなかった。MC20のコンセプトのひとつに「女性でも運転が楽しめる」というのがあるそうで、これなら額面通り誰が乗っても楽しめそうである。
さらに際立っていたのは4輪の接地感の高さ、特にフロントである。ミッドシップで後輪駆動の場合はフロントの接地感が希薄になるモデルもあったりするが、MC20のフロント2輪は常に路面をしっかりつかんで離さない。感覚的には4WDでフロントにもトラクションがかかっているかのような、それくらい頼もしい接地感が速度を問わず伝わってきた。
回頭性のよさはミッドシップのそれらしく、センターコンソールの真ん中より後方あたりに回転軸があって、そこを中心にクルマが面白いように向きを変える。ステアリングの切り始めではやや急激にCFが立ち上がるものの決してナーバスではないし、それ以降はステアリングの操舵角に対して従順に反応する。乗り心地のよさからも分かるように、わずかながらばね上を動かすサスペンションのセッティングは、かえってドライバーが荷重移動のコントロールをしやすくしている。ピッチからロール、そしてヨーが発生するまでの過渡のつながりも極めてスムーズだった。
ネットゥーノは一般道だとその本領を引き出すのはなかなか難しい。もちろん、低回低域でのレスポンスのよさや十分なトルクにより扱いやすいけれど、モデナ・サーキットでは見違えるような活き活きとした姿を見せた。アクセルとブレーキの踏み替えが頻繁な場面ほどレスポンスのよさがより際立ち、痛快この上なかった。 このパワーをしっかり支えるシャシーも見事であり、これならBEV版も期待が持てそうである。
【SPECIFICATION】マセラティ MC20
■車両本体価格=26,500,000円
■全長×全幅×全高=4669×1965×1224mm
■ホイールベース=2700mm
■トレッド=(前)1681、(後)1649mm
■車両重量=1475kg
■エンジン種類=V6DOHC24V+ツインターボ
■内径×行程=88.0×82.0mm
■総排気量=3000cc
■最高出力=630ps(463kW)/7500rpm
■最大トルク=730Nm(74.4kg-m)/3000-5500rpm
■燃料タンク容量=60L(プレミアム)
■トランスミッション形式=8速DCT
■サスペンション形式=(前)Wウイッシュボーン/コイル、(後)Wウイッシュボーン/コイル
■ブレーキ=(前後)Vディスク
■タイヤ=(前)245/35ZR20、(後)305/30ZR20
■公式サイト https://www.maserati.com/jp/ja/news-event/MC20-new-maserati-super-sports-car-name-reveal
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