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【第107回インディ500プレビュー】本命は今年もチップ・ガナッシ。琢磨は3勝目へのビッグチャンス到来

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【第107回インディ500プレビュー】本命は今年もチップ・ガナッシ。琢磨は3勝目へのビッグチャンス到来

 今年も5月がやってきた。月末の戦没者記念日の週末にはアメリカ恒例のインディアナポリス500マイルレースが行われる。世界で最も長い歴史を誇るレースは、2回の大戦中を除き、同一のサーキットで行われて来て、今年が第107回目の開催だ。

 全長2.5マイルのコースは“オーバルコース”の範疇に入るが、実際には楕円形でも長円形でもなく、長方形の角を取った形をしており、4つあるコーナーは全長から考えられるよりもタイトで、つけられたバンクも9度と小さい。

3度目のインディ500制覇へ挑む佐藤琢磨。最初のターゲットとなる予選は「理想はポール。最悪でも予選2列目以内」

 それでも現在のインディカーは時速220マイル以上の高速での周回が可能。予選は4周の連続走行で競われるが、昨年のポールシッターとなったスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング/ホンダ)は平均時速234.046マイルを記録した。キロメートルに換算すると時速376.58kmだ。これは瞬間的な最高速ではなく1周の平均。コーナリング中のスピードと1周の平均スピードにほとんど差がないところもインディの特徴だ。



 近年のインディカーではシーズン中でもオフの間でも、参戦経費が高騰しないようテストは大幅に制限されている。しかし、インディ500に向けてはシリーズ主催者のインディカーが4月に全員の参加できる合同テストを行うのが恒例となっている。今年の場合は4月20、21日の2日間が予定された。

 雨によって2日間のはずが1日だけの走行となったが、出場チームは今年のインディ500で採用される新しいエアロパッケージでの実走行テストを重ね、「昨年まで以上の接近戦、抜きつ抜かれつのバトルが実現するだろう」との感触を話していた。新ルール下ではダウンフォースが僅かながら増えているのだ。
 
 1日だけのテストとはなったが、午前と午後で6時間半もの走行時間があり、最高気温が摂氏29度に届く暖かな1日となった。

 午前中の2時間のセッションでは昨年度インディ500ウイナーのマーカス・エリクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)が40秒1149をマークしてトップ。2番手は史上最多の4勝を記録してきているエリオ・カストロネベス(メイヤー・シャンク・レーシング)。そして、3番手はカストロネベスが4勝目を挙げた2021年に2位フィニッシュしたアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ・レーシング)。ホンダエンジンユーザーによるトップ3独占がなされた。

 2倍以上の長時間だった午後のセッションではジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)がトップで、2番手はコナー・デイリー(エド・カーペンター・レーシング)。シボレーエンジンユーザーが1−2。ニューガーデンのベスト=39秒5281は2番手以下に明確な差をつける速さ=227.686mph平均だった。



 しかし、午後のセッションではグループランも多く行われており、使ったトウ(スリップストリーム)の量がラップタイムに直結していた。インディ500未勝利のニューガーデンは、この日の最速となったラップでかなり効果的にドラフティングを使っただけで、仕上がり具合も出走33台の中で最良だったと考えるのは早計だ。

 彼のチームメイトたちのパフォーマンスをチェックすると、2018年にインディ500で勝っているウィル・パワーの場合、午前中が12番手で午後13番手だった。そして、インディカー3シーズン目のスコット・マクラフランは午前中が4番手で、午後が10番手だった。

 今年もテキサスですでに1勝を挙げているニューガーデン。二度のタイトル獲得経験を持つ彼とすれば、キャリアを完璧なものにするためにインディ500での勝利は不可欠。ロジャー・ペンスキーに19回目の優勝、インディアナポリス・モータースピードウェイのオーナーになってからの初めての勝利をもたらすことを彼は使命と感じている。

「新しい空力パッケージを理解するために用意して来たテスト項目は全部こなし、とても多くのことを学んだ結果、“もうこのまま決勝まで触らないでくれ”とでも言いたいぐらいにマシンの仕上がりは良くなっていた。僕らは5月の本番でも高い競争力を発揮できるに違いない」とニューガーデンは目を輝かせていた。

 デイリーが227.466mphのラップで2番手。過去3シーズンでシボレー勢最速の予選ランナーとなっているエド・カーペンター・レーシングは今年も速いということだ。ピーキーなセッティングでスピードを追求する彼らは、今年もリナス・ヴィーケイとエド・カーペンター、デイリーの3カー・エントリーを行う。

■優勝候補の本命やチップ・ガナッシ・レーシング
 しかし、やっぱり今年も優勝候補の本命はチップ・ガナッシ・レーシングだろう。

 午後のセッションで3番手につけたのは2008年ウイナーで、6回もシリーズチャンピオンになってきているスコット・ディクソン=226.788mph。前述の通り、午前中はエリクソンがトップで、パロウが3番手だった。午後には新加入の佐藤琢磨が226.265mphで5番手につける。



 インディ500で2勝している琢磨の加入は当然のことながらガナッシにとっては大きなプラスだ。彼の豊富な経験、他チームのノウハウなどを吸収できる。このテストでは琢磨とディクソンのマシンにサスペンション調整機能のバージョンアップされたものが搭載され、戦闘力を一段高める成果が確認されていた。

 琢磨の3勝目は? もちろん達成される可能性は十分にある。インディ500で最速の存在であるガナッシからの出場なのだから当然だ。

 彼らのチームは、カーナンバー9が明確なエースで、次がカーナンバー10。琢磨は4台目での出走だが、強豪チームとしての地位を保って実績を重ねて来ている彼らは、走らせるマシンすべてのレベルを高め、その差を年々小さくして来ている。

 それは昨年の彼らが5カー・エントリーで全員を予選トップ12に入れていたこと、一昨年は4カー体制で4台全部を予選トップ9で戦わせていたことで明らかだ。

「クルマの完成度はかなり高いと感じました。多くのテスト項目をこなせた実りの多い1日にできたと思います。思っていたよりもトラフィックでたくさん走れなかった点が心残りですが……」と琢磨はガナッシでインディアナポリスを走った最初の日を終えて語った。

 ガナッシのマシンにはスピードがある。どこにどんなノウハウが詰まっているのかは明らかになっていないが、琢磨は「基本になるスピードがあるから、ドラッグ(抵抗)は意外に大きい」とも話していた。



 昨年のポールポジションはディクソンで、予選2番手はパロウ。エリクソンもトニー・カナーンも予選でトップ6入りし、インディカーでのオーバル経験が非常に少ないジミー・ジョンソンまでもが予選2日目を戦うトップ12に入っていた。

 レースではエリクソンが優勝し、カナーンが3位、パロウが9位だった。一昨年はトップ9がPPを争う予選フォーマットで、ディクソンがトップ。カナーンが5位、パロウが6位でエリクソンが9位。レースではインディカー2年目、ガナッシ初年度のパロウが2位で、勝ったのはメイヤー・シャンク・レーシングのエリオ・カストロネベスだった。ガナッシ勢の速さはこの2年だけを見ても非常に安定している。2020年に琢磨が優勝したのはディクソンとの戦いを制してのことだった。



 その一方で、インディ500で歴代最多の18勝を挙げてきているチーム・ペンスキーは、ここ3年間のインディ500でかなり厳しい戦いをしてきている。

 2021年にシモン・パジェノーが3位でフィニッシュしているものの、4カーより3カーの方が戦い易いと考え、若いマクラフランを起用するためにパジェノーを放出した彼らは、インディアナポリスで速いマシンというものを把握し切れていないのか、スピードを確保できていない。2022年のレースではニューガーデンによる13位がベスト。予選はパワーの11番手がチームの最上位だった。

■インディ500ではホンダエンジンが有利?
 ホンダエンジンの方がシボレーエンジンよりパワーが出ているのも事実のようだ。昨年はトップ12が予選2日目に進出してPP争いを行ったが、ここに入れたシボレー勢はヴィーケイとカーペンター、パト・オーワードとフェリックス・ローゼンクヴィスト(どちらもアロウ・マクラーレン)、そしてパワーの5人だった。

 2021年以前はトップ9がPPを争うフォーマットだったが、そこに入れたのが2021年がヴィーケイとカーペンターのふたりだけで、2020年はヴィーケイひとりだけだった。9分の1が9分の2になって、去年は12分の5。シボレーエンジンが差を縮めて来ているようにも見えるが、実際にはホンダを使うアンドレッティ・オートスポートの戦力が低下し、彼らの抜けたところにシボレー勢が入り込んできただけ……と見ることもできる。

 シボレー勢ではマクラーレンが最強と見るべき。オーワードは2020年が6位、2021年が4位、2022年が2位。予選順位も同様に15番手、12番手、7番手とアップさせて来ている。今年はここにアレクサンダー・ロッシと、2013年ウイナーのカナーンが加わった。





 ルーキーイヤーの2016年にロッシがアンドレッティ・オートスポートとともにインディ500で勝ったのは燃費作戦を成功させてのものだったが、インディアナポリスの2.5マイルオーバルにおける彼の戦闘力はその翌年からトップレベルにあり続けている。

 カナーンの参画もチームに厚みを与えている。合同テストでの彼らは、2セッションの総合でオーワードが9位、ローゼンクヴィストが20番手、ロッシが22番手だった。彼らは敢えて目立たないようにしているように見えていた。単独走行で新エアロの特性把握に努め、トラフィックでの走行には重点を置いていなかったということなのかもしれない。 

 ここ数年の予選、決勝の両方で速さを見せてきているガナッシが本命で、次に来るのがマクラーレン。マルコ・アンドレッティを参戦させるアンドレッティ・オートスポートも実は侮れない。彼らは技術提携するメイヤー・シャンク・レーシングがインディ500優勝経験を持つカストロネベスとパジェノーを起用しているので、合計7台によるデータ収集が可能で、新エアロパッケージでの優位を見つけ出すことができるかもしれないからだ。

 カストロネベスが単独の史上最多に躍り出る5勝目を飾る可能性ももちろんある。3台体制のペンスキーはインディでの復権はなるのか? 予選で速いだろうカーペンター勢はレースをより安定感を持って戦えるかが課題だろう。

 最後に、インディ500を盛り上げる目的で5月初旬に行われるようになっているGMRグランプリで優勝したパロウのコメントを紹介する。



「インディではこれまでに勝てそうになったことはあったけれど、勝利に近づくだけでは不十分だ。2位となった2021年、僕には経験がなかった。ベストを尽くしたけれどね。昨年も勝つチャンスはあった。自分たちのマシンはめちゃくちゃ速かった。レースをリードしたい時にリードすることができていた。しかし勝てなかった」

「燃費が良かったためにライバルたちより1周長くコース上にいて、その時にイエローが出てポジションを大きく下げることになったんだ。インディ500というレースは本当に難しい。200周もあり、ピットストップは5回以上。勝つためには、決勝日を完璧な1日としなくてはならない」

「今年も自分たちのマシンは速いだろう。その点は正直言ってまったく心配していない。合同テストでも僕らは速かった。インディアナポリスでも、その他のコースでも、オーバルでの走りには随分と自信を持つことができるようにもなっている。問題はレースデイどんな1日になるか。必要なのは完璧に完璧な1日。インディ500では普通に良い1日じゃダメなんだ」

 今年も決勝に出走できるのは33台。予選にはそれより1台多い34台が出場するためバンプアウト合戦も繰り広げられる予定だ。

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