ステージにつき3戦で構成されるポストシーズン“Round of 12”最後の1戦、シャーロット“ROVAL(ローヴァル)”で開催されたNASCARカップシリーズ第32戦『Bank of America Roval 400』は、最終リスタート時の26番手から11番手まで突進したタイラー・レディック(23XIレーシング/トヨタ・カムリXSE)と、レースの109周中62周でリードを維持したカイル・ラーソン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)の圧勝劇が注目を集めるなか、次ステージ出場権を巡る8名のカットオフラインでは、まさに急転直下の“場外決着”を見ることに。
レギュラーシーズン王者レディックの猛追により、カップ2冠のジョーイ・ロガーノ(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)が8ポイント差でプレーオフから追い出されるに充分な成績となっていたが、その敗退は一時的なものに。レース後の検査でアレックス・ボウマン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)のカマロZL1はNASCARの最低重量要件を満たさず失格処分となり、48号車が敗退ラインを下回ったことで、ロガーノが“Round of 8”に復帰している。
カップ史上「最大のクラッシュ」発生で27台が脱落、ステンハウスJr.が復活の3ワイド勝利/NASCAR第31戦
来季チャーター契約(シリーズ参戦枠)に関し、依然として『反トラスト訴訟』の課題が続くNASCARは、その渦中にある23XIレーシングとフロントロウ・モータースポーツ(FRM)が2025年にチャーターされた出場権を確約するべく、このレースウイークを前に立て続けの『仮差し止め命令』を申し立てた。
「チームは、来季のカップシリーズに出場することに全力を尽くしています」と共同声明を発した両陣営。「本日の訴訟手続きは、2025年にレースに出場する法的権利を確立することで、ドライバー、レースチーム、スポンサーを保護しながら、NASCARとその独占的慣行に対する訴訟を進めるための次のステップです」
この申し立てを行った際、公開された証拠の一部にはNASCARのスティーブ・フェルプス会長が同組織に宛てた署名入りの書簡も含まれ、チームに対し「NASCARは2025年チャーター契約の交渉中にいくつかの譲歩と妥協を行った」ことも明らかとなった。
そんななか、シャーロット・モータースピードウェイのロードコースに向けた走り出しを控え、改めて運営組織側と審判団はチームに対し、前戦で物議を醸した事故発生時の『牽引ポリシー』を通達。残る今季5レースに関して“1本以上のタイヤがパンクし、修理可能な損傷がある車両(復帰可)”や“ラジエーターが壊れている、または他の液体が漏れているなど重大な損傷がある場合(リタイア)”は『牽引』し、その他の不動はその場でのレース除外が確認された。
こうして迎えたフリープラクティス(FP)で話題となったのは『反トラスト訴訟』でも『牽引ポリシー』でもなく“タートル”の愛称で呼ばれた縁石で、各ドライバーからの不評を受けフロントストレッチ・シケインの縁石を4インチから2.25インチの高さへと削減する対応を取ることに。この置き換えによりドライバーが縁石を乗り越える際に感じる衝撃や、着地時にクルマが底を打つ衝撃が軽減される効果が見込まれた。
■「冗談でなく“前転”しそうだった」レディック
「基本的に、タートルにぶつかるとラップごとに脳震盪を起こしているような気分になる」と明かしたマーティン・トゥルーエクスJr.(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)。「コーナーの攻略を考えるよりも、あまり楽しいことではなかったよね」。同じく元僚友カイル・ブッシュ(リチャード・チルドレス・レーシング/シボレー・カマロ)も「誰かが言ってくれてうれしい。痛かった」と、その意見に同調する。
こうした措置によりイチ早くトラック攻略に成功したのは、レギュラー陣を差し置いた“ルーキー”のシェーン-ヴァン・ギズバーゲン(トラックハウス・レーシングチーム/シボレー・カマロ)で、FPでの最速発進に続き予選でも自身カップ初のポールウイナーを射止めるなど、来季フル参戦に向け弾みをつける結果を得た。
「週末の良いスタートだ。(今季レギュラー参戦するエクスフィニティ・シリーズを含め)週末のカマロはとても速いね」と手応えを語った“SVG”だが、その心は同週末に南半球で開催された世界的“祭典”にも飛んでいるようだった。
「今季初めて(出身カテゴリーである豪州大陸最高峰のRSCレプコ・スーパーカー・チャンピオンシップの)『バサースト1000』のFP1に、自分のいない状態でV8スーパーカーが走り出すのを見て、とても奇妙な感覚に襲われた。素晴らしいイベント、最高のトラックだし、皆が素晴らしいレースウイークを体験できることを願っている」
決勝スタートからホールショットを決め、順当にリードを維持したSVGは、ステージ1終了を目前にラーソンとともにレギュラーピットを済ませると、ここでトップの座を引き継いだレディックがステージポイントの10点と、25周目にプレーオフポイントを追加で獲得していく。
しかしブレイク中の作業で30周目のリスタートで渋滞に巻き込まれたレギュラーチャンピオンの45号車カムリXSEは、新たに再設計されたターン7のヘアピンで災難に巻き込まれる。
オースティン・ディロン(リチャード・チルドレス・レーシング/シボレー・カマロ)を起因に大混乱に陥った隊列内で、縁石を飛び越えたレディックは“チームオーナー”でもあるデニー・ハムリン(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)に激突。45号車はダメージを負い、残り時間を通してピットストップを何度も繰り返し、左後輪のトーリンク修復を含む長期滞在を強いられる。
「あぁ。ひっくり返ると思ったけど、19号車(トゥルーエクスJr.)の背後にいて、インサイドに動こうとしていたんだ」とアクシデントを振り返ったレディック。「彼をクリアすることができたが、目の前で3号車(ディロン)がスピンして連なっている全員が停止するのが見えた。もちろん、自分とボス(ハムリン)も一緒にいた。冗談でなく“前転”しそうだった。マシンは完全に破壊されたよ」
■首位奪取成功のラーソンが今季2度目のプレーオフ勝利
しかし度重なる修正作業により、最終走行で競争力を維持できた45号車は82周目のコーション中に4輪フレッシュ装着の判断を下すと、これが最適解に。ファイナルステージのリスタート以降で15台の車両を追い越し、ロガーノのポイント合計4ポイント上回るための重要なカギとなった。
「とにかく冷静でいなければならない」と、ステージ2制覇のボウマンが失格したことで、自身の激走が意味を為さなくなったレディック。「とにかく集中しなければならない。そういう瞬間にはコントロールを失うのはとても簡単だからね。いずれにせよ、僕はできる限り速くクルマをドライブするつもりだった。この45号車がフィールドを抜け、カットラインの良い側に到達できたのは、僕らにとってうまくいったね」
前方では、67周目のターン7で見事なダイブを決めたラーソンが、長らくリードを守っていたA.J.アルメンディンガー(カウリグ・レーシング/シボレー・カマロ)から首位奪取に成功。背後を追走し続けたクリストファー・ベル(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)を従え、今季2度目のプレーオフ勝利、シーズン通算6勝目を飾る結果となった。
「プレーオフのキャリアでカットラインに近づかなかったのは初めてだし、少しストレスのない週末を過ごせたのは良かったね」と、2021年のタイトル獲得時にもローヴァルを制覇しているラーソン。
「クラッシュせずにここまで来たのは、優勝したときを除いて初めてだと思う。僕はあまりシム(シミュレーター)を使っていないことで知られているが、今週はさすがに使ったよ。早い段階でリズムに乗るのに本当に役立ったし、クルマの微調整にも役立ったよ」とキャリア通算29勝目を挙げたラーソン。
一方、HMS陣営内で唯一の敗退が決まったボウマンの48号車に関して、NASCARからもチームからもクルマが規則を満たさなかった理由について説明はないなか、レース後の最低重量が「軽すぎるため重量検査に合格しなかった」ことについて、チーム側は控訴しないことを決定している。
併催のNASCARエクスフィニティ・シリーズ第29戦『Drive for the Cure 250 Presented by Blue Cross and Blue Shield of NC』でも、延長戦のターン7でパーカー・クリガーマン(ビッグマシン・レーシングig Machine Racing/シボレー・カマロ)を仕留めたサム・メイヤー(JRモータースポーツ/シボレー・カマロ)が、プレーオフ“Round of 8”進出の権利を手にするドラマに満ちた勝利を飾っている。
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